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中印の除草剤に米国が反ダンピング課税へ 農業界は価格上昇を懸念

中国やインドから除草剤が不当に低い価格で米国に輸出されたとして、米当局が反ダンピング(不当廉売)関税や相殺関税を課す公算が大きくなっています。これに関し、米国の上下両院の18議員は8月5日、「税率を算出する際には慎重に検討してほしい」との書簡をレモンド商務長官に出しました。トウモロコシや大豆など米農家の間で幅広く使われているため、高い関税率が適用されれば、除草剤価格の上昇によって経営が圧迫されると農業界が懸念を強めていることが背景にあります。課税はやむを得ないにしても、税率はなるべく低くしてほしいようです。(写真はコルテバ・アグリサイエンスのウェブサイトより)
 
問題となっているのは、「2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2、4-D)」と呼ばれる除草剤です。米ダウ・ケミカルの農業子会社ダウ・アグロサイエンス(現米コルテバ・アグリサイエンス)が2014年に当局の認可を得て、翌年に「エンリスト」の商品名で販売を本格化させました。米モンサント(現ドイツ・バイエル)の除草剤グリホサートで枯れなくなった「スーパー雑草」の出現が大きな問題になりつつある中で、スーパー雑草を退治できる「スーパー除草剤」として市場投入されました。
 
米メディアによると、近年は中国やインドから2、4-Dの輸入が増え、コルテバのシェアを奪うようになりました。そこで同社は2024年3月、「中国やインドが各国政府の補助金に支えられ、不当に低い価格で対米輸出を増やし、損害を受けた」として、米国際貿易委員会(ITC)に反ダンピング関税や相殺関税を課すよう求めていました。
 
ITCは5月、調査の結果、コルテバの主張を認め、不当に低い価格で輸出されたと認定しました。これを受け、商務省が本格的な調査に着手し、最終的にクロと認定されれば、具体的な税率などが決定されます。商務省の仮決定の期限は9月10日とされていますが、延長の可能性もあるようです。最終的な結論は2025年にずれ込む見通しです。
 
18議員の書簡は、「大麦やトウモロコシ、デュラム(小麦)、ソグラム、大豆、小麦などの農家にとって、2、4-Dは不可欠な管理ツールだ」と強調しています。その上で、「2、4-Dを手ごろな価格で確実に入手できることにより、生産者は革新的な作業を行うことができる」と主張しました。
 
一方で、「今後数年間、作物価格の乱高下や下落が見込まれる中、農業生産者は歴史的な資材高騰に直面している」として、農業経営は厳しい局面を迎えているとの認識も示しました。2024年の米国の農業純所得は前年比25%も落ち込むとの米農務省(USDA)の予測も引用し、「慎重な検討が行われなければ、関税の引き上げにより、生産者は困難な状況に置かれることになる」と指摘しています。
 
全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)はこの書簡を紹介した上で、「NCGAはこの取り組みを支持した」と表明しました。ハロルド・ウォレ会長は声明で「関税が発動されれば、コスト上昇により、既に困難な時期を迎えている多くの生産者にとって、状況はさらに悪化する。政権が耳を傾けることを望んでいる」と訴えています。

NGCAのほか、大豆や大麦、小麦、デュラム小麦、ソルガムを合わせた6団体は4月、反ダンピング関税や相殺関税の発動見送りを求める書簡をITCに出しています。
 
2、4-Dはベトナム戦争で枯葉剤として使われたことから、環境団体などは環境に悪影響を及ぼすとして、導入に強く反対していました。国際がん研究機関(IARC)は2、4-Dについて、「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」(2B)と分類しています。「ヒトに対しておそらく発がん性がある」(2A)としたグリホサートほどでないにせよ、発がん性を指摘しており、人間の健康への悪影響も懸念されています。
 
こうしたいわくつきの除草剤でありながら、米農業界は使用を控えるどころか、大量に使い続けたいと主張していることから、農薬依存体質が改めて浮き彫りになったと言えます。紆余曲折を経ながらも農薬削減の方向に進む欧州とは対照的です。

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