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大きくなったら「きいろ」になりたい


これは
私が児童会館職員をやっていた時に出会った
ある優しい女の子の話だ


その子は、美里ちゃん(仮名)

美里ちゃんは物凄く優しくて
笑顔がキラキラで元気いっぱいな一年生だった

いつも
「ただいまー!」と必ず元気よく会館に入ってきて

今日あったこと、お家でのことを話してくれる
お喋りが好きな女の子で
会館の中でも、マセてない子!で有名だった


そんな美里ちゃんがある日
本のコーナーの隅っこで難しい顔をして
「うーん…うーん…」と考え事をしていたのを見つけた

どうしたの?と私が心配して聞くと
なにやら最近悩みがあるらしいことが分かった


美里ちゃんはその時期から
明るいうちに帰っていく児童だったのだが
家庭の事情で
18時になると、お父さんが迎えにきて
暗くなってから一緒に帰っていくことになっていた


その家庭の事情こそが
美里ちゃんの悩みだった

なぜ、お父さんが暗くなってから
迎えに来るかというと


「お母さんのお腹に赤ちゃんがいるから」  



お母さんに何度かお会いしたことがあるのだが

「いやぁ、いつもまぴちゃんは学生にしか見えないわぁ!」と笑いながら言ってくださったり

私と同世代に見えるのだが
「部活帰りのJKだ!」と声をかけてくるような
底抜けな明るさが印象的なお母さんだった



そんな元気いっぱいなお母さんが
今、お家で「具合が悪い」
つまり、妊娠悪阻で美里ちゃんを仕方なく
児童会館に預けて
仕事帰りにお父さんが、飛んできてくれる状態になってしまった


美里ちゃんはこう言った

「お母さんね、家で具合悪くて寝てる。元気なお母さんに戻るかな…」


美里ちゃんはずっと難しい顔で
お母さんを心配して悩んでいた


ぐねぐねに歪んでしまった大人な私は
そんな美里ちゃんの優しい悩みに

なんていい子なんだ!!!

と思ってしまったのである


しかし、そこで
悩む必要は無いよ!なんて言うのは
実に自己中心的な意見の押しつけになってしまう
と考えた私。


美里ちゃんになんと声をかければ…と
未熟者の私は考えてしまう


そんな美里ちゃんに
私の弟が産まれるまでの昔話を話してみた

私の弟は6歳下で
私の母も妊娠悪阻が酷く
母の実家からおばあちゃんが来て
ゲェゲェしている母に
なんとか元気になってもらいたいと
おばあちゃんと
お粥を作ったことがある事

母のお腹が大きくなってきたら
「絶対セーラージュピターが出てくる…!」と思い込んでいて
お腹に向かって話しかけていたこと

病院の新生児室のガラス越しに見た
赤ちゃんは男の子だったこと

でも、赤ちゃんは可愛くて
男の子でも全然問題はなくて
抱っこしたり、話しかけたりした事

弟が大きくなってきても
私はお姉ちゃんだ!と張り切って
何でも頑張ったこと



そんな大人の昔話を美里ちゃんは
キラキラした顔で聞いてくれた



そして私が
大きくなったら先生になりたいと思ったのは
弟が生まれてきたからなんだよと伝えた



その後
美里ちゃんは
「そっか………」と呟き
また難しい顔で考え込んでしまった



あ、やってしまったか…

と未熟者の私はヒヤヒヤしたのを覚えている




しかし、次の日の事だった



美里ちゃんは元気に
「ただいまー!!」と笑顔でやって来た



そして私のところに来るなり
「聞いて聞いて!」と興奮して話してきた



私ね、考えたの!
私は大きくなったら
「きいろ」になりたい!


そう、美里ちゃんが言った



キョトンとした私が
「(黄色?)……どうして?」と聞いた





きいろはビタミンカラーだから!

そう言った美里ちゃんの笑顔は
ものすごく逞しかった

その笑顔に全部、美里ちゃんが悩んだ時間
考えて出した答え
彼女の決意、彼女の優しい心が詰まっていた




その日の18時
お父さんが迎えに来て私に教えてくれた

「美里が昨日、まぴちゃん先生から、赤ちゃんが生まれて、大きくなったら先生になろうって思ったんだってと話してもらいまして…

美里は、お母さんが好きな「きいろ」になればずっと元気でいられるよね。と言ってくれて、僕は感動しました。仕事、頑張らなきゃって思って……」

お父さんはそう、照れながら笑って
私に「これからもよろしくお願いします」と言ってくださった



その年の冬

美里ちゃんの弟が生まれた。



「出産しましたので、今日は会館お休みさせて、一緒に病院に行ってきます」

とお父さんからの電話があったと
職員さんが教えてくれた




美里ちゃんは
お母さん、お父さん
生まれてきた弟の

立派な

「きいろ」になった



そして何より
私にとっても
心のビタミンカラーは


美里ちゃんの「きいろ」 になった。






まぴこ
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