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『おなかすいてへんかあ?』って声が聞こえる

『なぼちゃん、おなかすいてへんかぁ?』

台所で、大きなヤカンにお番茶が沸いている

背中を向けたまましわがれた声は聞く

食器棚の銀色の四角いカンカンの中には 

枯葉みたいなお番茶の葉っぱが

ぎっしりと詰まっている

部屋中が香ばしい香りに包まれる

抹茶アイス色した冷蔵庫には

いつも食べ物がいっぱい詰まっている

ここにくれば いつもおなかいっぱいに満たされる

ここは おばあちゃんの家

玄関を出てすぐ右隣はお豆腐屋さん

その隣は出前の丼屋さん

そして通りの向こうは八百屋さん

隣の豆腐屋へは、ボウルを持って買いに行く

銀色の浴槽みたいなのに浸かっている豆腐を

おじさんが水の中で手のひらに乗せてカットする

ここの豆腐は最高だ 水が良いと言っていた

大人になった今もあれほど美味しい豆腐には出会わない

出前では、たぬきうどん 親子丼 木葉丼を

よく注文した記憶がある 

八百屋へは おばあちゃんと歩く

果物がずらりとならんだ棚を見ると

ワクワクが止まらない

だけど 私は来る前からコレって決めている

大きくてまあるい『 桃 』

離れていても あの優しくて甘い匂いは隠せないのだ

大事に持ち帰った桃を

誰とも分けず1人でまるごと全部食べた

おばあちゃんの家では それが許された

爽やかな優しい甘さで みずみずしくて

喉を通り切ってもまだ優しい香りがした

私の中で 今も桃は1番美味しい果物で

そして 特別なたべもの

夏になって 桃が店頭に並ぶ頃には

おばあちゃんの事を思い出す

そして

『なぼちゃん、お腹すいてへんか?』

『桃買っといで』

って おばあちゃんの声が聞こえる気がする

おばあちゃんに会いたい。




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