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インディペンデントスモールオフィス研究 - Part 1 : MA+OI @ ASAKUSA

さて、インディペンデントスモールオフィス研究、いよいよインタビュー企画が始まるわけですが、他者を分析する前にまずは自分から、ということで、今回はプレインタビュー企画。
今回、研究会メンバーに入ってくれているHinanoちゃんに、インタビュアーをお願いし、私片桐が回答する形で、1本の記事を作成してみました。

「今後こんな記事が上がっていくのか!」という風に、軽く読んでいただければ幸いです。また、「インタビューに来て欲しい!」というメッセージが届いたらすごく嬉しいです、オフィス(アトリエ)に飛んでいきます。

DATE / Part 1 : MA+OI @ ASAKUSA

MA+OI 
〒111-0034 東京都台東区雷門2-13-1 KAMINARI 3F
活気溢れる浅草、雷門から徒歩3分ほどの距離にある昭和42年築のレトロなビル1棟をつかったシェアアトリエ、クリエイティブスペース。
1Fにはカフェ&バーほしや 、2Fはシェアキッチン、3FにはMA+OIと、音楽家、岸野雄一さんの作業場。4Fには、浅草の食に関わる方たちをクリエイティブやイベントで応援する活動をされている、ゆいろさんのオフィスと、共用の屋上があります。

Illustration by emyu

Interview / MA+OI 代表 片桐 結

(Interviewer / Hinano)

MA+OIのはじまり

Hinano : 今回のインタビューを進めていくにあたって、まずは自己紹介をお願いします!

片桐 : MA+OI代表の片桐結です。肩書きは『時間と空間のデザイナー』です。モノだけではなく、その場に流れる時間や空気感を作るということを大切に、インテリアやグラフィックデザイン、イベントディレクションなどをしています。
都立工芸高校インテリア科で建築や家具について学び、外部のイベント企画運営団体で活動をしていました。その後桑沢デザイン研究所スペースデザイン専攻に入りました。特別講師でいらしていた先生に、就職とフリーランスの道について相談させて頂いた際に、『初めから1人で仕事を取ることは難しいけれど、週3でアシスタント、残りの時間は自分の仕事をするのは?』と言ってくださったので、先生のもとでアシスタントをしつつ、桑沢時代に知り合ったぼぶくんと、彼の高校からの友人と3人で浅草にアトリエを構えました。

Hinano : ありがとうございます。3人はそれぞれどんな活動をしているんですか?

片桐 : 私は先ほどの通りで、ぼぶくんはインテリアや家具が主ですが、3Dモデリングが得意なのでアクセサリーも作ったりと色々しています。takumiくんはパタンナーさん。デザイナーのスケッチを読み解いて、意図も汲みつつ、実際モノにする際にどうすれば良いかを考えながら型紙に起こす、建築で言えばいわゆる服の設計をしています。
MA+OIには『豊かな時を纏う』というコンセプトがあって、3人でそれぞれ製作したり、コラボレーションができる場合はする。と言った具合です。
他には『Fuelwa(フエルワ)』というクリエイターズコミュニティを運営しています。20代前半のフォトグラファー、アーティスト、ファッションデザイナー、建築学生のように、様々なジャンルのクリエイターがいて。組織づくりというよりは、尊敬しあえる仲間同士繋がって欲しくて。ジャンルの違いによる新たな気づきを得て欲しかったり、『あの子達が頑張っているから私もまだまだがんばろう!』というモチベーションにもなりつつ、将来それぞれが一人前のデザイナーになった時、お互いが仕事を回せるような関係を目指しています。

Hinano : 活動の内容がインテリアだったり服だったり、コミュニティでは写真家までいたり、結構バラバラになってると思うんですけど、同じ業種ではなく、様々なクリエイターたちを集めている理由っていうのは?

片桐 : 最初は、卒業して1年後、純粋に友人達がどんな仕事をしているのか、将来についてどう考えているのかが気になっていて。同時にところどころで出会う同世代のクリエイターさん同士、それぞれに紹介したらどんな議論が巻き起こるのかも気になって。とにかく分かり合える仲間たちと一緒に活動したいっていうエネルギーに溢れてたんだと思います。一番最初、自分たち発信で何か作ったり発信できるようにするには、それぞれの分野で強い人がいた方がいいなっていうのがあって。
家具デザイナーは家具を作る、パタンナーは服を作る、発信する用の写真はフォトグラファーが撮影して、イベントディレクターがそれを販売する場に、他のコンテンツを追加する。みたいに、結果的にプロが自分の領域を担当することによって、1人で全部やるより成果物を世に出す時のクオリティが上がるし、仲間がいると心強いじゃないですか。

アトリエ空間を構えるまで

Hinano : オフィスやアトリエ空間を必要とした理由とかっていうのは?

片桐 : 最初は馬喰横山駅近くのレンタルスペースを使ってFuelwaの集まりをやっていたんですけど、何か作品を作ろうと思ったときに、みんなが拠点として集まったり、物をストックできる場所があった方がいいなって思ったのが一番最初のきっかけですね。

Fuelwaの様子。各自が自分の職業や、好きなものについてプレゼンするコーナーもあった。

Hinano : 確かに集まりごとに会場がリセットされてしまうから、それぞれが何かを作るとなるとストックする場所が欲しくなってきますね。このアトリエを構えるにあたって、浅草にした理由とか、このビルにした理由っていうのはありますか?

片桐 : 物件探しは、学校出たてでお金もない状態だったので、とにかく安くて、みんなが使える広さだったらいいと思っいたのですが、せっかくなら、自分たちが好きな空間に構えたいと思い始めて。
内見は3~4件です。最初はアクセスがしやすい渋谷近辺で探していて、一ヶ所目は五反田駅から徒歩5分の雑居ビルの一室だったのですが、街中の人が結構忙しそうなイメージがあって。
私はお店の人や、お客さん、街の人と喋るのが好きなので。そういう点で、ワクワクする土地にしたいなって思い始めました。
それから東方面でリノベーションの物件を探し始めて、南千住を見に行ったんですけどしっくりこなくて。帰りに浅草まで歩いてみたら、近づくにつれてすごく楽しかったんです。同じようにFuelwaのメンバーや友人も、浅草って面白そうって理由で足を運んでくれるかなって。
そんなタイミングでぼぶくんが見つけてくれたのがこの空間です。浅草駅、雷門からも歩いて3分で、クリエイター応援プランっていうのがあって安かったんです。書類の選考で、omusubi不動産屋さんに『こんなことしたいんです!』って資料で思いの丈をぶつけて。リノベやシェアアトリエを多く手がけられている不動産屋さんなので、とっても親身になって話を聞いてくださいました。クリエイターをしつつ働かれている方もいたり、こちらの目線にも寄り添ってくださるし、コミュニケーションが活発に取れるのも心強いですね。
部屋も広くて今までの集まりも十分できる広さだし、何より1階が飲食店で結構常連さんもいたり、他のフロアにもデザイナーさんがいたりっていう点で、シェアアトリエってすごくいいなって思って、今の場所に決定しました。

Hinano : インターネットの検索でこの物件を見つけたみたいな感じですか?

片桐 : 最初は不動産屋さんに「こんな物件探してます」って電話して、足を運んで沢山紙資料見てたりもしました。でもどれも全部似ていて、あんまり楽しげじゃなかったんです。ちょうどリノベ物件を探し始めた頃ぐらいに、『だったら自分たちでリノベ 出来る場所とかあるんじゃない?』っていう話で、ネットでぼぶくんがここを見つけてきてくれた気がします。

Hinano : やってみるってなったら勢いって大事ですよね。物件決めてからリノベーションをするって決まった時って、どれくらいの期間と費用を見積もってましたか?とにかく借りてから組み始めたって感じですか?

片桐 : 最初見た時は思った以上に和室で驚いたんです。ただ広さと環境、金額は完璧って思ってて、ここを逃したら勿体ないっていう気持ちはありました。空間があれば畳のままでも人が集まることはできるし、ちょっとずつ改装し始めてもいいのかなと。
さすがにこれを自分たちの手で全部リノベーションするのは大変なんじゃないかという気持ちがあったんですけど。でも楽しそうだしやってみればできるんじゃないの?っていう感じでスタートした記憶があります。
言われてみればお金のこととか全然考えてなかったかもしれないですね。今考えるとあまりにも無計画です(笑)
でもやっていくうちにFuelwaの子まで、一緒にやりたいと言ってくれる子が沢山いたので。みんなが協力するって言ってくれるなら、覚悟を決めてしっかり作り込んでからスタートしようかなって思ったのが最初です。最終的な金額としては、材料費、運搬費等トータルで50万でした。三人で割ったので、一人当たりの負担は17万ほどでしたね。

工事前の内装

Hinano : 一人当たりの値段になるとだいぶ抑えられてくるんですね。でもそんな流れだったとはとっても意外でした。

片桐 : 今考えたら怖くてできないかも知れないですね(笑)20代なりに現場を知って、その時よりは少し慎重になってると思います。

空間へのこだわり

Hinano : このアトリエのこだわりポイントとか、エピソードみたいなものはありますか?

片桐 : 元々あっていいものは残して活かそうと思ってました。例えば入り口のは元々塩ビの畳シートが貼られていて、剥がしてみたら昔のフローリングが出てきたので、剥がして、糊もこすって落として綺麗にしました。もともと2部屋に分かれていたので、床材は2種類、レベルはどこかしらで高くして印象を変えたいなって思ってたんです。ここは結構気に入ってますね。
それから、この部屋には元々着物のレンタル撮影スタジオみたいなものがあったので、壁に最初から大きい鏡が貼られていたんです。Takumiさんは、製作の過程で試着する際に鏡は必要だし、『後々展示会もしたいね』っていう話を最初からしていたので。うまく空間を区切れれば試着コーナーにも使えるかなっていうことで、鏡は残してあります。
空間の仕切り方によっていろんな使い方ができる計画をしていました。前書いたのがあるんですけど、普段のアトリエ仕様に、布を横に張れば手前は店舗、奥は事務所っぽくもできるし、縦に貼れば長めの展示空間、バックヤード…みたいに。

アトリエの使用用途の想定

Hinano : この鏡は空間のポイントにもなっていますよね、ちょうど角になっている部分に大きくあることで広く見えますし。他の家具も空間にマッチしていて良いですね、これはどうやって揃えたんですか?

片桐 : 当時私達は工事費でいっぱいいっぱいで、新品を買い揃えることも到底考えられなかったので迷ってたんですけど。ちょうどぼぶくんが、渋谷の閉店直前のコワーキングスペースが開催しているフリーマーケットを見つけてきてくれて。そこから高くても3000円ぐらいで、デスク、ロッカー、冷蔵庫、スポットライトなどもらっていて、本当に助かりました。
それから、木でできたボックスもいっぱいあったんです。なにかしらに使えるだろうっていうことで20個ぐらいもらって、今は組み上げてテーブルの足にしています。天板だけ、私の祖父が木工所をやっているので、お願いしたら余っている資材で製作してくれました。

Hinano : テーブルはこの空間で一番目立ちますよね。このサイズのテーブルを空間の中心に配置した理由は?

片桐 : 真ん中にみんなで使えるテーブルをっていう話は初めからあったと思います。具体的なサイズはTakumiさんのリクエストで、服を作る際布を広げて、自分が机の上に軽く腰掛けて図面引いたり、カット、裁断できる、とにかく大きい机が欲しいとのことで。
大きいものが欲しい反面、このお部屋が階段のみの3階ということもあって運搬も大変だし、展示会もしたいっていう理由から、分割できるように3枚の板を組み合わせて使う天板になっています。
集まりの際はみんなここで向かいあって話したりしてますね、10人でも使えるし、少人数の時は角で集まればMTGもできるし、横に並んでお互いのPCをチェックできたり、離れれば個人の作業に集中できるし、使いやすいです。

Hinano : 外注工事は無く、すべて自分たちの手でリノベーションをしたんですか?

片桐 : 電気配線だけは工事のお願いをしました。最初は電気設備の会社に外注しようという話になったんですけど、自分たちでできる範囲とお願いしなきゃいけない範囲の線引に迷っていて。どうしようかなって思ってた矢先に、Fuelwaのメンバーが、『おじいちゃんが電気工事士一級を持っているよ』と連絡をしてくれて。浅草まで来てくださって、スピーディーに配線の作業をしてくださいました。それ以降のレールの取り付けだったり、コンセントのカバーの付け替えだったりは自分たちでやりました。

Hinano : この照明を選んだ理由とかってありますか?

片桐 : スポットライトはフリマでいただいたものですが、とにかく程よい色みと光量のスポットライトがあればいいなって思ってました。どこに何本つけるかの議論には時間がかかりましたね。安くしたい、でも展示会のときにしっかり光量を取れるように光の向きの調節がしやすいものがいい。2本にするか3本にするか、縦3列なのか、横3列なのか、ロの地形にするのか…とかで時間取った記憶があります。

Hinano : レールがあると付け替えたり、吊るしたり簡単にできるから良いですよね。

街との関わり

Hinano : この拠点を構えてよかったことだったり、気づいたことっていうのはどんなのがありますか?

片桐 : 1階が飲食店っていうのは強かったです。地域密着型でかつチェーン店じゃない。常連さんがいる。内装もリノベされてて、おしゃれな飲食店が1階にあると、自分の気分転換でも行くし、そこで街の人と話すことができたり。1階は知られてるけど、上で何が起きてるかは知らない人が多いんです。最初のうちはふらっと飲みに行ったとき、どこから来たのか聞かれたりして、3階に事務所があるんですって話すと、皆さん興味を持ってくれて。どんな活動をしているのかとか、浅草なのかとかを聞いてくれるので、初対面の人に簡潔に私達の活動をアピールすることが上手くなった気がしますね。あと、よりリアルな街へのコメントが聞こえるのがいいなって思いました。世代も私達より少し上の方が多いので、知らなかったことを教えてくださったり、活動自体を見守ってくださっているような感覚です。実際に拠点となる場を持つことで、他の拠点との違いも気になって、今こうしてオフィスと街の関わり方についての研究をするきっかけにつながっていたりもしていますしね。

Hinano : MA+OIのアトリエを超えた、ビルとの関わり方という点では、今までどんなことをやってきたんですか?

片桐 : MA+OI、Fuelwaのメンバーとコラボレーションして、ビルをまるまる使ってMA+OI主催で『TIME+FES』というイベントを開催したことがあります。このビルは2階も共用キッチンで、バーカウンターみたいなものを前入居者さんが作ってくれていて。
omusubi不動産さんも、共有部も入居者が自由にカスタマイズしていいって言ってくださるし、屋上も使用可能なので、自由に使えるスペースが多いです。
他のフロアのクリエイターさんも協力してくださって、ほしやさんも当日限定メニューを出してくださったり、常連さんに伝えてくださったんです。
今は月に1度、隣に入居してる音楽家の岸野雄一さんと一緒に『浅草お洒落ロック』というイベントを開催しています。私も度々DJ活動をしているのですが、1階のほしやさんに偶然使用されていなかったDJブースがあって。隣の部屋に入居されていた岸野さんは東東京でまちづくりに近い領域で区と音楽系イベントを開催して活躍されているので、飲食、音楽家、デザイナーの3組でバランスよくイベントが開催できていますね。

TIME+FESの様子

Hinano : DJイベントというとクラブがイメージがされがちですが、浅草ならではの雰囲気はどういった点がありますか?

片桐 : 60’s-90’sあたりの音源だったり、レコードを使う人が多かったりするんですけど、浅草には古き良きものの味や良さを大事にしていたり、そんな雰囲気を好んで楽しんでくださる方が多いので、浅草のこのビルだからこそ出る雰囲気のイベントが作れてるような気がします。音も爆音では無いし、DJイベントでも程よくゆるく落ち着いているので、お母さんお父さんが常連さんで、近所のちびっ子たちもイベントにいたりします。

Hinano : 1階にオープンな飲食店があるからこそできることがありますね。例えば1階もオフィスで、2階3階に入ってる人たちが開きたいってなったときどうすれば良いかも気になりますね。

片桐 : そうですね、私達のビルは1階が飲食店ですけど、まだまだ2~4階に人を引き込みたいっていう気持ちもあります。去年イベントをやったときに、お客さんが階段を登りにくそうな印象がありました。寸法、身体的にっていうよりは、雰囲気が。雑居ビルの2~4階を開くっていうのはすごく難しいですね。もちろん、掲示物だったり照明だったり、そういう目に入ってくるもの自体の計画もすごく大事だけど、各階のオーナーらしき人が、他のお客さんと気軽に話しているとか、目に見えて入ってくる人間関係だったりを作り込んでいくっていう面が大事だなって思ってます。一方で事務所利用では防犯面で立ち入り禁止にしなければいけなかったりするので、なかなか難しいですね。

Hinano : 空間からのアピールと、人と人との変わり方や見せる印象でも空間をデザインできるということですね。ちなみにここにはクリエイター応援プランで入居したとのことですが、これは浅草ならではなのでしょうか?

片桐 : もちろんomusubi不動産さんの応援体制のおかげもありますが、蔵前が東京のブルックリンと言われているように、蔵前を中心に東東京、下町のリノベーションがすごく盛んなんです。私達と一緒で、若いクリエイターで街やクリエイターと緩やかに繋がりながら仕事をしたい人は多分、渋谷新宿方面よりも東東京に来る傾向は必ずあると思います。
上野にもアトリエがある知り合いがいますけど、そこも古い工場のある通り一帯をリノベーションした場所で。もの作りの町っていうイメージが元々あるから、きっと大家さんだったり、不動産屋さんだったり、周辺の人も、入居者自身が作りたいものを作ることを応援してくれるし、作ることが良いんだっていう気持ちがあるような気がします。

Hinano : それは東東京のいいところですね。構えてから2年ちょっと経ったと思いますが、その間に新しくできた町のお気に入りのところとか、決めてから、気付いたこの地域の良さみたいなものがあれば。

片桐 : そうですね、もしかしたらひなのさんもそうかもしれないですけど、浅草って来たことありました?私思い返してみれば意外と無くて。

Hinano : 私も観光のイメージみたいなのが強くて、あんまり来たことなかったですね。

片桐 : そうなんです、雷門のイメージばかりで。本当に入居して初めてちゃんとこの周辺を歩いたんですよ。でも入居したばかりの頃はコロナで仲見世もほとんど閉まっていたし、とにかく人がいなかったから、まだ一番盛り上がってる浅草見てないと思うんですけど。
裏道まで入って気づいたことは、どこのお店に入っても結構店員さんがフランクに話しかけてくれたり。
歩いてすぐの所に、おじいちゃんとおばあちゃんが2人でやってる生駒軒っていう中華があるんですけど。アトリエ工事してた時期に裏道散策してたら見つけて。工事中もちょうど出前しに来てたおじいちゃんが突然声かけてきて様子を見てくれたり、仕事中と言いながらも常連さんを連れてTIME+FESにも来てくれたり。
街にいろんな人がいるのが面白いですね。海外の観光客、近所のおじいちゃんおばあちゃん、インスタ映えを求めて散策する女子も、職人さんもいるし、ROX方面は昼からワンカップ持って競馬やってるおっちゃんもいっぱいいますし(笑)。
専門時代に通った渋谷も大好きなんですけど、でっかいビルだけじゃないのが楽しいです。そこにどんな人がいて何をしてるのかっていうのが、覗き込むだけで把握ができる規模感なので。

Hinano : 私も度々来るようになってから浅草のイメージが結構変わったかもしれないです。雷門、文化観光センター、あそこの通りのイメージが強くて。裏道って意外と色々発見ありますもんね。

片桐 : わざとらしさがないのがいいんだろうなって思います。例えば下北のボーナストラックはすごく素敵な開発がされているなって思いました。大きな母体の組織がいかにも『こういう使い方して欲しいんでお願いしますね!』っていうテンションで作ってチェーン店が軒を連ねているのではなくて、『働いてる人が自分ごとで動いている街』っていうのが楽しいんだと思います。
何かを人に伝えたくてお店を出してるとか、街の何かを守りたくてそれをしてるっていうのが、チェーン店ではあまりない。でも自分たちで作った空間だったり、私達がやってるお店ですっていうのが裏通りに行けばあるし、歴史的な建物があるし。使われ方って、モノだけじゃなくて、そこにいる人たち自身だったり、過ごし方から作られると思うんです。

Hinano : それいいですね。自分ごとで動いている街。

今後の課題点

Hinano : これまでとは別の、みんなの新しい問題点とか、悩み事とかってあったりしますか?

片桐 : 24歳の代は、将来独立を目指す人でも一旦就職して働いている時期なので、予定を合わせるのが大変だったり、何か一緒にプロジェクトを動かしたくても時間が取れなかったりすることがありますね。もうちょっとフリーランスで活動している同世代と繋がりたいなっていうのがあります。ある程度時間に融通が利く環境で、デザイナーとしての基本動作を学べる師匠の下で働きつつ、個人の活動もしっかりできるっていう働き方が増えてくれたら嬉しいですね。

Hinano : 今後の見込みはどんな感じなんですか?

片桐 : この拠点は守りたいですし、素敵な場所なので、より街に開き、広めていきたいという気持ちがすごく強いです。もちろん自分たちの手で作り上げた空間っていう理由もあるし、ここに拠点を構えて以降、繋がってきた人たちもいますし。クリエイター、飲食店、スペースという条件が揃った同じ条件のビルでも参考になる事例を発信していきたいですね。

Hinano : 場があるのとないのでは全然違いますよね。お店の常連さんとか、お店がなくなっちゃったら普段会うような関係性じゃないですし。みんなが1人でふらっと寄るから、そこで会話が生まれて、その時間を楽しむことができますし。

片桐 : そうですね、Fuelwaのメンバーからも『今日みんないるー?』みたいな連絡が突然来たりします。会議で集まるときはもちろんあるけど、なんとなく雑談をしてる中で『それならこんなことやってみたら楽しそうじゃない?』っていう突然のフィーリングは結構大事にしていて。

Hinano : 2年先くらいまではなんとなくイメージがあるのかなと思うのですが、それを積み重ねた先に、10年後とか20年後とかイメージとかはどうですか?

片桐 : 10年後もここにいたいですね。20年後はちょっとわからないけど、ビル自体がもっとアクティブになって、地域の方や周辺のお店も巻き込んで、浅草の面白い場所っていう認知をされたいっていう気持ちはあります。MA+OIのメンバーも独立していて、それぞれの制作物にファンがいて、手前のスペースは店舗になっていて、常時ふらっと人が来ては販売もやっているみたいな。もちろんイベントは人がこの建物に入りやすいきっかけになるのでたくさん開催していたいですが、Fuelwaのみんなもそれぞれフリーになりつつ、時間も融通が利くようになって、フラッと来て、最近どう?みたいな話が、この空間で頻繁に巻き起こってたら嬉しいなあと思いますね。

浅草での過ごし方

Hinano : 日によって違うと思いますが、浅草ではどんな1日を過ごしますか?

片桐 : 自分がアシスタントの日は全然来ないですし。例えば去年のイベント前だと、朝10時ぐらいに集まって、ミーティング、各自作業。12時ぐらいにみんなで散歩しながらお店を探してご飯を食べて。食後は、浅草寺の絶景スポットに喫煙所があるんですけど、そこに寄って、アトリエ戻ってまた作業。大体7時とか、遅くて終電までとかですね。
あとは、夜7時ぐらいになると1階からすごい楽しそうな声が聞こえてくるんですよ。しかもいい匂いするしお腹空き始めちゃってるし。ちょっと余裕があって、私も混ざりたいなぁと思う日は、たまに1人で一杯飲みに行きます。アトリエのメンバーは来なくて私1人だけなんですけど。1階で街の人と喋ることも仕事のうちと言い聞かせてお酒飲みます(笑)。

Hinano : 街の人との交流っていうのは篭って仕事してるよりもアイディア出たりしますもんね。

片桐 : 話してるうちに思い浮かんできたりとか、お客さんがこの街の何が心地よくて、さらに何を求めているのかとかを知るにはすごくいい機会ですね。
明るい時間は集中して作業や企画書を組んだりして、夜はお酒飲みながらリラックスして企画書を改めて見てみたり、遊びに来てくれたクリエイターと雑談したりするのが好きです。家では全然飲まないんですけど、アトリエ立ち上げ当初に、近くのかっぱ橋(浅草と上野の間に位置する食器具の問屋街)でみんなで買い揃えた可愛いコップもたくさんあるので。
他にも日によって、その後みんなで夜ご飯食べに行くこともあれば、まださらに作業する日はみんなで近くの銭湯行った時期もあったり。色々ありましたね。

Hinano : このビルと街と働き方をフル活用すればできることがいっぱいあるんですね。外で色々気分転換した後、アトリエに戻ってきたら気分リセットして再スタートみたいな。

片桐 : そうですね、外で気分転換っていうのはよくやります。ビル自体の活用だと、もちろんイベントもできるし、晴れてたら屋上で撮影もできるし、夜友達がアトリエに飲みに来ることもあります。昔から一緒に頑張ってきた友人達が近くで作業してるっていうのは、自分も頑張ろうって思えるし、モチベーションが上がるいい環境だなと思いますね。

趣味を教えてください!

Hinano : 好きな本とか最近読んだ本って何かありますか?

片桐 : 田中元子さんの本ですね。桑沢時代、エレメントデザインのゲスト講師でいらしていた先生で。夜間部で講演会もされていたのでそれも行ってみたんですけど、とても面白い活動されていて。
アクティブにコトが巻き起こる経験ベースの本は、読んでいて学びになる部分が多いです。田中さんの本は、実際に何をやって何が起きたのかがたくさん書いてあるし、何より読んでいてすごくワクワクするんです。やってみようって思うことが多かったり、自分の活動と近かったり、図解も多かったのですごくおすすめです。施設や家を実際に建てる職業にならないと直接まちづくりに関われないというようなイメージがある人もいると思うんですけど、個人としてまちづくりに参加していった田中さんが書かれた本なので。やってみたいことに対して、『そんなのやってみればできるよ!』って言ってくれているような、勇気をもらえる1冊でした。

Hinano : 小説とかは読むんですか?

片桐 : 小説だと、好きな作品は村上龍さんのコインロッカーベイビーズですね。コインロッカーで産声をあげた2人の少年を描いた話なんですけど、廃墟だったり、退廃的な街の景色と、そこに登場する人間達がたまらなくかっこいいです。それぞれの描写が細かくて、雑多な裏道を主人公達と巡っているような没入感がありますね。
正反対の描写ですが、梨木夏歩さんの本はほとんど読みました。『西の魔女が死んだ』、『裏庭』、この二つが好きです。ほのぼのとした日常なんだけど、私は未だ体験したことがない、緑豊かでのどかな生活と景色が描かれています。少しファンタジー要素もありながら、豊かな暮らしが展開されていくお話が多いです。

Hinano : 好きな音楽とか、作業するときに聞く音楽とかってありますか?

片桐 : 色々聴きます。音楽は両親の影響が多いですが、80’sのハードロックを聴いて育ちました。日本だとガレージロックです。ラジオが好きなので、作業中はJ-WAVEを聞いていることが多いですね。考えたり執筆したりするときは、日本語だと歌詞が入って来ちゃうので、洋楽を聴いています。

Hinano : KAMINARIの話の中でDJイベントのお話もありましたが、そのきっかけは?

毎月第二日曜日に開催される「浅草お洒落ロック」

片桐 : 休日は趣味でロック中心でDJをしているんです。学生の頃に、渋谷の学校からの帰り道にあるロックバーでバイトをし始めて、初めて同じ共通のアーティストの話題で盛り上がれたことがすごく嬉しくて。
DJは、お客さんの聞きたい音楽のリクエストやファッション、かかっている音楽に対するリアクションを見てかけたりしていて。バンドもやったことはあったのですが、音を奏でることには才能がなかったです。DJではすでに完成して世に出ている曲を選んで、繋いで、場を盛り上げて空間を作っていくということがデザインに似てる気がします。コミュニケーションツールでもありますね。さっきまで全然喋らなかった隣の方が、自分と同じ音楽で盛り上がっていたら、そこで会話が生まれるんです。そんな会話の引き金になる要素をすごく持ってる音楽って、場作りだったり、もちろんイベント作りだったりに必要な要素だし、まちづくりと近い関係にあると思います。

Hinano : ちなみにそのほかに、何かはまっていることは?

片桐 : 「初めての場所に足を運ぶこと」を大事にしています。実家に戻ったんですけど、引っ越して改めて街を歩いてみると、意外と近くにミュージックバーが多かったり、昔ながらの喫茶店があったり。日常の景色だとスルーしたまま家まで一直線で帰るのではなく、ちょっとでも引っかかったら足を運んでみることを大事にしてます。場所によってどんな気持ちになるかをストックして、セットしたい気分ごとにいく場所を変えたり、発見や学びがあることも、「豊かな時を纏う」ことのヒントになっていると思います。

MA+OI Design 浅草オフィスのポイント

[Hinano]
・想いを達成するための強い実行力
・多彩なジャンルのクリエイター達が集まることのできる場
・未来へ向かって1日1日を大切に過ごす意識

活動内容やアトリエの立地、空間の作り方、1日の過ごし方など、全ての要素が人と人とを結ぶための拠点作りに繋がっているのだと感じました。

[Yui Katagiri]
・「自分ごと」で運営される場であること
・何かができる「場のゆとり」があること
・仕事と趣味の緩やかな共通点を探る取り組み

改めてインタビューを受けながら、場が盛り上がることで自分が喜べるような、「仕事場」を「自分ごと」にするための関係作りは、場の運用に大きく関わってくると思いました。シェアオフィスの場合、入居者が拠点を使用し、共同で何かをできる「場のゆとり」というものが、コトの部分をより豊かにすると思います。
またこれはオフィスの主催者に限らずですが、例えば従業員でも、仕事と趣味のゆるい共通点を探る取り組みができれば、「自分ごと」の空間を作るきっかけになると思います。例えば、まだ働くことが自分ごとになっていないカフェ従業員がいたとして、読書が趣味ならブレイクタイムという共通点から、おすすめの本コーナーを作って、お客さまに利用してもらう。感想というフックから、コミュニケーションが生まれれば、もう「自分ごと」が出来上がります。レジ横の棚の上の少しの隙間という、「場のゆとり」と、ブックエンドで叶うことです。

インタビュー後記

初回のインタビューありがとうございました!同世代のフリーで活躍するお友達が実際に何をしているのか?という、とっても貴重なお話を聞くことができました。
今後も理想や綺麗事だけではなく、他では聞けないようなリアルに突っ込んだ質問をジャンジャン投げかけていければと思いますので、よろしくお願いします!
[Hinano]

第1回のインタビューはまさかの自分でした。ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。Hinanoちゃんに色々聞いていただくうちにアトリエの機能について再確認することができたり、忘れていたことを思い出したりと、私自身にとってもありがたい機会でした。ポイントに書いた3点が大事なことだと思います。
また、今回の記事で、新しく浅草KAMINARIに興味を持って遊びに来てくださる方がいたら嬉しいです。
次回以降は浅草を飛び出し取材を進めていきます!ぜひ次回も読んでいただけますと嬉しいです!
[片桐]


【内観イラスト】

emyu
Instagram ▶︎ https://www.instagram.com/emyu_247/

【竣工写真】

黒沢鑑人
Instagram ▶︎ https://www.instagram.com/kanto_kurosawa/

【研究会メンバー】

MA+OI / 片桐 結
Instagram ▶︎ https://www.instagram.com/yui_katagiri/

MA+OI / 山下ぼぶ
Instagram ▶︎ https://www.instagram.com/y_bob__/

Fuelwa by MA+OI / Hinano
Instagram ▶︎ https://www.instagram.com/nano_fskh/


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