【病理学】人はなぜ病気になるのか?
・病理学とは?
人間の体に何が起こっているのか、病気の仕組みを知る為の学問。
「なぜ病気になるのか」、病気の原因とメカニズムを究明すること
今や人類100年時代と言われ、ある研究では2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推測されています。
しかし、人生が長くなればなるほど、人間はいろいろな病気との出会いも多くなります。
人生100年ともなると余計です。
そこで病理学の力を借り、病気のしくみを解き明かしていきたいと思います。
中でも特にほとんどの病気は細胞の異常によるものですから、第一章ではまずは私たちの体を作る細胞に関しての話題から始めたいと思います。
第一章で細胞の基礎情報を解説し、第二章では細胞の能力について解説しています。
第三章では話を広げて血液の話へ。
第四章〜第六章までは死因トップでもあるがんについて、その特性と種類、原因などを深掘りしていきます。
※この記事では箇条書きベースで書くことで、難しい内容をシンプルに伝えています。
第一章:細胞の正体
1.【細胞の基礎情報】
ほとんどの病気は細胞の異常によるもの
細胞とは我々の体の最小単位で脂質の膜で囲まれた袋
ヒトの体には約40兆個もの細胞がある
細胞の種類は250~300種類あり、6割以上が赤血球
血液細胞には赤血球(酸素の運搬)、白血球(殺菌や免疫)、血小板(血液凝固)がある
赤血球には例外的に核がない細胞である
赤血球は完成する直前に「脱核」という現象で核が放り出されたのであって、もともと核がないわけでない
2.【細胞の中】
細胞の中には核やゴルジ体、ミトコンドリアなど様々な機能を持つ細胞小器官が存在する
小胞体:合成されたタンパク質の輸送通路とホルモンなどを合成する2種類がある
ゴルジ体:小胞体から来たタンパク質を濃縮し、細胞外に分泌する
リボソーム:遺伝子情報を読み取ってタンパク質へと変換する、いわば翻訳が行われる場所
リソソーム:細胞内消化を行うところ
3.【ミトコンドリアについて】
糖や脂肪と酸素から細胞の活動に必要なエネルギーであるATPを産生する
細胞の核以外に存在する唯一のDNAという特殊な機能を持っている
ミトコンドリアDNAは母親からの性質しか伝えない
現人類の母系祖先を遡ると約20万年前にアフリカにいたミトコンドリア・イブという女性にたどり着く
ATPはすべての生命活動のエネルギー源として使われるので「生命のエネルギー通貨」ともいわれる
4.【染色体とDNA】
細胞の核の中にある染色体の中には、人の外見や脳の働き、寿命などに影響を与える遺伝子が入っている
遺伝子情報は染色体のDNAに蓄えられている
A,C,G,Tの4種類の塩基によってDNAは組み立てられ、さまざまな配列によって、一人ひとりが異なる遺伝子を有しており、「生命の設計図」ともいわれる。
DNAは2本の鎖になっており、AとT、CとGがペアで対をつくっている
人には38億の塩基対があるが、遺伝子情報を伝えるのはその中のおよそ2%
5.【遺伝子情報の伝わり方】
生物の遺伝情報(セントラルドグマ)はDNA→転写→mRNA→翻訳→タンパク質の順に情報が伝達される
転写:DNAの情報をmRNAに写すこと。転写は核の中で行われる。
スプライシング:転写される際に遺伝子情報から不要部分を取る作業。これを経て成熟したmRNAになる
mRNAからリボソームへ移動し、翻訳が行われる
翻訳:mRNAの情報を解読して、リボソーム内でタンパク質を合成すること
DNAは本の紙であり、文字は4つの塩基、それらが文章となり遺伝子となる
→まとめると、タンパク質はDNAの遺伝子情報からできている
おまけ①
因みに人の体は水分と脂質を除くとほとんどがタンパク質でできている。
→筋肉は水分を除くと約80%がタンパク質
おまけ②
タンパク質は20種類のアミノ酸から成り立ち、11種類は体内で生成できるが、9種類の必須アミノ酸は体内生成が出来ないため、食事から摂取する必要がある
第二章:細胞の能力
1.【細胞は生きるために姿を変える】
細胞は体に刺激や損傷があると、大きくなったり、増えたり、小さくなったり、時には形を変えて生きている
肥大:筋トレをすると細胞のサイズが大きくなり、骨格筋や筋肉が大きくなる
過形成:妊娠して胸が大きくなるのは、細胞がホルモンの影響で分裂して数が増えたため
萎縮:細胞が小さくなること。細胞の中の細胞内小器官を消費しながら小さくなる。
2.【細胞の2つの死に方】
アポトーシス
・語源的には枯葉などがポロッと落ちるという意味で、管理、調整された細胞の死(自殺・自然死)のこと
・ひっそり死んでマクロファージに貪食される
・例えば人の手や足。将来、指としての残る場所以外の細胞が死んで、最終的に手の形になる
・もともと手の発生プログラムがそのようにできているので、「プログラムされた細胞死」とも呼ばれる
ネクローシス
・壊死と同じ意味で、何らかの刺激によって細胞が傷ついた結果おきる細胞死
・臓器へ十分な血液が供給されず、低酸素状態になると臓器の細胞は死んでいく
・ネクローシスした細胞は、終活する間もなく死んでいくので、中身を周りにぶちまけます。この結果、炎症が生じる
3.【細胞の再生能力は寿命にも関係してる】
テロメア=命の回数券
各細胞の染色体の末端には「テロメア」という特別な塩基の繰り返し構造がある
細胞分裂の際に、遺伝子の複製が行われるたびに、繰り返し構造がひとつ失われて短くなっていき、テロメアがなくなったら分裂できなくなる
テロメアにはテロメラーゼというテロメアを伸ばすことのできる酵素が存在する
テロメアを使い切ってしまう前に、テロメラーゼで新たにテロメアを作れば、分裂を繰り返すことができる
→しかし、増殖・分化しない正常な体細胞には、テロメラーゼによる活性がない
→幹細胞や生殖細胞、がん細胞にはある
幹細胞:組織や臓器に成長する元となる細胞
テロメラーゼはがん細胞に大量に存在し、無制限に分裂を繰り返す→結果、半永久的に分裂増殖する
4.【老化現象を遅らせるには?】
サーチュインという長寿遺伝子の量が減ると寿命が短くなり、活性化されると寿命が長くなるという結果が、線虫から分かった
サーチュインはカロリー制限によって活性化されることが分かっている
→つまり食事は腹七分目を心掛けることで、長寿遺伝子を活性化させる
第三章:血液の役目
1.【血液の基礎情報】
血液の量はおよそ体重の13分の1
血液の種類
「細胞成分」である赤血球、白血球、血小板
「液体成分」である血漿(けっしょう)
赤血球、白血球、血小板の3種類は「造血幹細胞」と呼ばれる細胞から作られる
血液の比率
血漿55%、白血球・血小板1%、赤血球44%
血液は骨の中心部である「骨髄」でつくられる
2.【血液の役割】
【赤血球】
・ヘモグロビンと結合して酸素や栄養分を体の末端まで運び、二酸化炭素や老廃物を回収し運び出す
・血液が赤いのは、このヘモグロビンの色素が赤いため
・赤血球の生い立ち
赤芽球(赤血球の前段階)→網赤血球→成熟した赤血球になり血液中に出る
赤芽球で細胞の中の核を放出して若い網赤血球になる
・この脱核は酸素運搬の機能を特化するため
核をなくすことで、容積が増し、細胞内に酸素と結合するヘモグロビンをより多く含むことができ、円盤状の形で、体積あたりの表面積を大きくし、効率的にガス交換ができる
・赤血球の直球は約7~8μmに対し、毛細血管の大きさは約5μmのため、パラシュート状になったり、スリッパ状になったりして、折れ曲がり変形する必要がある
【白血球】
・外部から侵入した細菌やウイルスを攻撃し、感染も防御する
・造血幹細胞から発生した後に成熟して、顆粒球系とリンパ球系、単球系のいずれかに分化する
【血小板】
出血を抑える
【血漿】
凝固因子というタンパクを含み、血小板と一緒に血栓をつくり、傷口をふさぐ血液凝固の役割をする
3.【免疫細胞の種類】
①リンパ球
・白血球に占める割合は約30%
・リンパ球にはB細胞やT細胞、NK細胞のほか、NKT細胞がある
「B細胞」
・細菌やウイルスが侵入すると抗体をつくる
「T細胞」
・体を防御するとともに、一度侵入した病原体を記録して排除する
②単球
・白血球中最大で、食作用が強く、移動性に富み、感染が起こるとその組織に移動したあと、マクロファージへと分化する
「マクロファージ」
・病原体の侵入を見張り、病原体を見つけるとすぐに食べる
・サイトカインという物質をつくって、病原体が侵入したことを他の免疫細胞に知らせたり、体内の異変細胞を処理する
・単球から分化し、骨髄で成熟し血中に入り、いろいろな臓器に入って食細胞や免疫情報を伝える活動をしている
「樹状細胞」
・皮膚、リンパ節、胸腺などに分布し、骨髄由来の細胞
・マクロファージと異なり、貪食能力はないが、Tリンパ球(T細胞)と共同して免疫応答を誘導する免疫チームのリーダー的な存在
③顆粒球
【好中球】
・白血球の中で約50~60%を占め、一番数が多く、体内に入ってきた怪しい病原体を食べまくる
・普段は血管の中を流れているが、マクロファージから呼ばれると、血管の外に出て移動することができ、いち早くその場所にかけつける
【好酸球】
・寄生虫感染やアレルギー疾患がみられると増加する
【好塩基球】
・ヒスタミンを出し、アナフィラキシーショック、気管支喘息の症状につながる
4.【2種類の免疫システム】
自然免疫
どのような敵に対しても同じような機構で防衛する
前線防衛システム
獲得免疫
その敵に対して専門的な武器で防御にあたる
初期防衛システムで撃退できなかった時に働く、後続防衛システム
5.【血管の老化は病気の源】
生命に欠かせない血液が流れる血管の老化は病気の引き金になる
血管の細胞に老化した細胞が増え弾力性がなくなることで異常をきたした状態が「血管の老化」つまり動脈硬化
その一方で心臓から送り出される血液の量は加齢によってほとんど変化しない
つまり!
若い時と変わらない血液の量が圧力となって、硬い血管に負荷がかかる!
老化によって小さな傷などが血管の内膜にできると、そこに血中の余分な脂肪を取り込んで、マクロファージの残骸が蓄積され内側に出っ張る
→この出っ張りをプラークと呼ぶ
→老化によって血管の弾力性が失われた上に、プラークによって血管の内側が狭くなると、心臓に血液を送る血管である感情動脈の流れが悪くなり、酸欠や栄養不足になって、胸の苦しさや痛みを伴う「狭心症」となる
→また、何らかの刺激によって、プラークがはがれると、その傷を修復するために、かさぶたのような血栓ができる。血栓によって血管が塞がれてしまうと心臓の場合は心筋梗塞に、脳の動脈では脳梗塞になる
第四章:がんの特性
我が国の三大死因のトップを占める悪性腫瘍。
細胞ががん化する仕組みや性質についての基礎知識を学ぶ
1.【がんは悪性腫瘍の総称】
腫瘍とは、何らかの原因で細胞が傷ついて塊になり増殖したもので、悪性のものを「がん(悪性腫瘍)」と呼ぶ
がんの特徴は「体の制御を受けずに勝手に、限りなく増殖を続けるもの」であり、周囲の臓器や組織に食い込むように浸潤し、他の場所に転移して増殖を続ける性格を持つ
腫瘍とは「はれたできもの」
腫瘍には悪性と良性がある
一生のうちにがんになるリスクは男性で62%、女性で47%であり、およそ2人に1人ががんになる
2.【なぜがんになるのか?】
正常な細胞は、1個の細胞が2個に分かれるという分裂を繰り返しながら数を増殖していき、やがて古くなった細胞は死んでいく
喫煙、飲酒、紫外線、食習慣、ウイルス、C型肺炎ウイルス、遺伝的要因などによって細胞の遺伝子が傷つくと、細胞はどんどん分裂を繰り返すが、細胞が死ななくなることがある。これががん細胞
がん細胞は周りにある細胞を破壊しながら広がり(浸潤)、遠くの場所に移動する(転移)
毎日数千個の細胞が傷ついているが、免疫力・自然治癒力により排除することができる
遺伝子の突然変異が1つの細胞に2~10個生じるとがんになると言われている
①がん化を促進する遺伝子の出現
②がん化を抑制する遺伝子の異常
③がん化繋がる遺伝子の異常を修復するシステムの異常
↑これからが組み合わさりがんになる
生まれつきの体質、発がん物質やウイルスの感染など、さまざまな環境因子が影響してくる
3.【がんに対抗するには?】
次世代シークエンサーと呼ばれる新しい機械では、遺伝子の塩基配列を高速で読み取れるようになり、最大6日間で1兆個解読できるので、突然変異が見られるがん細胞を見つけることがてきる
人間の体にはがん細胞を攻撃する免疫機能が備わっているが、がん細胞はバリアをつくり、免疫からの攻撃をブロックして免疫の働きを抑制してしまう
がん細胞は免疫細胞表面の免疫チェックポイントにある受容体(PD-1)に"異物を攻撃するな"、"免疫を抑制しろ"という命令を受け取るタンパク質の受容体(PD-L1)を結合させて、免疫細胞ががん細胞を攻撃しないように偽の信号を送る
免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ)はがん細胞が免疫チェックポイントに結合するのを阻害するので、周囲にある免疫細胞ががん細胞を手を休めることなく攻撃してくれる
オプジーボはがん細胞に直接効くわけではないが、自身の免疫力でがん細胞に戦うことが可能となる
第五章:がんの種類と原因
1.【子宮頸がん】
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