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ダイヤモンドは砕けない【浦和レッズ】

 2022-23の欧州リーグは1つの転換点を迎えた1年だった。ラ・リーガではFCバルセロナが4シーズン、プリメイラ・リーガではベンフィカが4シーズン振りの王座奪還。セリエAではナポリが33シーズン、エールディビジではフェイエノールトが6シーズン振りのリーグ優勝を果たした。

 王座を取り戻した優勝チームには1つの共通点がある。失点の少なさだ。バルセロナ(失点20・リーグ1位)、ベンフィカ(失点20・リーグ1位)、ナポリ(失点28・リーグ1位)、フェイエノールト(失点30・リーグ2位)といったように、各チーム守備面で非常に優秀な数字を残した。現代サッカーが守備の重要性に回帰している証明とも言えるだろう。

 日本に目を移すと、現在のJ1で目を見張るディフェンスを構築しているのが浦和レッズだ。19試合終わっての失点15はリーグ2位の成績。5月に行われたACL決勝でもあえてゲームを膠着させてロースコアゲームに持ち込み、見事アジアNo.1のタイトルを手にした。得点の少なさから引き分けが多く、思うように勝ち点を積み上げられていないという声もあるが、裏を返せばその守備力で勝ち点を拾っているとも言える。

 その堅守を実現させているのは、国内レベルには収まらないセンターバックの2人だ。

最高硬度の北欧の壁

 浦和レッズのセンターバックはJリーグでは珍しい北ヨーロッパ出身のプレイヤーで構成されている。
 1人目は元デンマーク代表アレクサンダー・ショルツ。2021年途中に加入すると、圧倒的な対人の強さと、大きなミスの無い足元の技術、それらを発揮するブレないメンタリティで瞬く間に浦和のディフェンスリーダーに。加入2年目の2022シーズンはデュエル勝率71.3%でJリーグNo1、その上で警告0とJ1最強センターバックの地位を確立した。

 そして、2023年に加入したのが元U-21ノルウェー代表マリウス・ホイブラーテン。A代表経験こそないもののノルウェーの強豪・FKボデ/グリムトでリーグ2連覇も経験している左利きのトップディフェンダーだ。上背は185㎝とヨーロッパのセンターバックの中では大きい方では無いが、空中戦に強く、スピードを活かした裏スペースのケアと1対1の強さも持ち合わせる圧倒的なパフォーマンスを披露。

 この2人を中心とした自陣に撤退しての守備は間違いなくリーグトップ。シュートブロックにクロス対応とエリア内では水を溢さない。ロースコアゲームの展開で守り切るというのは自陣に敵軍を招き入れる行為なのでリスクも孕むが、時間帯によって守備に大きく舵を切れるのは浦和レッズが勝ち点を重ねられている大きな要因の1つだ。

 更に、近年のフットボールにおいて割合が増加している失点パターンがビルドアップのミスだ。最終ラインが大きく蹴り出すラグビーの様な戦術を選べば防げる失点ではあるが、ゲームを支配するにはビルドアップへの挑戦は欠かせない。
 例に漏れず前監督リカルド・ロドリゲス氏の体制から浦和レッズも最終ラインから構築するフットボールを目指している。しかし、浦和はこのビルドアップからの失点が少ない。ショルツ、ホイブラーテン共に、1試合当たり60本前後のパスに関わっているが、足元の技術も秀でた2人にとっては造作もないタスクなのだろう。
 ここに、GKの西川周作やサイドバックの酒井宏樹、ボランチの岩尾憲ら足元の技術と状況判断能力に秀でたプレイヤーを加えたユニットでのパス交換には、危うさと可愛げが全く存在しない。

アレクサンダー・ショルツ
マリウス・ホイブラーテン

超攻撃的守備

 撤退守備については前述の通りだが、もちろん相手を押し込む展開でも浦和のディフェンスは高水準だ。

 ショルツ、ホイブラーテン、酒井らの能力に起因する高く硬いハイラインと前線のアグレッシブなプレッシングの嚙み合わせは強力で、嵌まれば相手チームは自陣からの脱出すら叶わない。その守備を実現するため、スコルジャ監督は2列目にハードワークでボールを奪える選手を起用する事が多く、最近のファーストチョイスはもっぱら関根貴広、安居海渡、大久保智明となっている。この3人と日本代表にも選出されたボランチ伊藤敦樹の、前に出ていくディフェンスは攻撃的でスーパーダイナミック。
 
 攻撃性能の高い小泉佳穂や江坂任(現・蔚山現代FC)をトップ下起用していたロドリゲス監督と違い、若くボール奪取能力に秀でた、本職がボランチの安居海渡を1列前に置いているのが、スコルジャ監督の標榜するアグレッシブな守備を表している。

2年目のMF安居海渡


ダイヤモンドは砕けない

 前線からの攻撃的な守備から始まり、その弾幕を潜り抜けてもリーグ最強の最終ラインが立ちはだかる。やっとの思いでその壁を抜けると経験豊富な元日本代表がゴールを阻む。先制点を奪うと、一転してゴール前に鍵をかけ、ヤワなクロスやミドルシュートなど通してくれない。相手からすればこんなに攻略しにくい相手は無い。

 人気・実力共に高く、アジア制覇を3度も経験している浦和レッズだが、J1リーグの優勝は2006年を最後に遠ざかっている。
 野球界には「守備と走塁にスランプ無し」という名将・森祇晶の言葉がある。前線の走力と最終ラインの安定した守備力に裏打ちされた浦和の強さはこの先も大きく崩れないであろう。
 ダイヤモンドは砕けない。最高硬度のディフェンスを手にしたレッドダイヤモンズ。リーグ優勝は射程圏内に入った。

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