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こんなデータに騙されるな!リテラシーを高めるための実例

前回の振り返り

前回、使える分析のために押さえるべき3つのポイントを紹介した。
復習すると、

①"分けて" "見る"こと
②MECEではなく肝を押さえる
③施策につなげて考える

を押さえるべきだという要点だった。
今回はデータは使い方によって善とも悪ともなり、リテラシーを高めていかなければ簡単に騙されてしまうという話を事例を通して紹介したいと思う。

ニュース記事のとあるグラフ

衆議院選挙が迫るこの21年10月は、投票に関するニュースが多く出回っている。コロナ禍に振り回された我々が初めて経験する国政選挙であり、政治や指導者に対する関心も高まっている。先に行われた自民党の総裁選も菅総理の退陣というサプライズもあって大いに盛り上がった。いつもの選挙と比べて何か違うことが起こるのではないかという期待感や不安が入り乱れており、メディアもそれを盛り上げている。

そんな状況で出されたある記事を読んで違和感を覚えた。10代と20代の投票率は低下傾向にあるが、コロナ禍で政治に振り回された後の若者たちの投票意識は変わるのではないかという趣旨の記事だ。

若者の投票意識がその記事のメインテーマであり、このグラフは若者の投票率は下がっているという根拠になっている。確かに10代・20代の投票率は下がっているが、このグラフを見て違和感がないだろうか?

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そう、30代以上の投票率が掲載されていないのだ。
このグラフの出所である総務省のウェブサイトを辿っていくと、10代・20代を含めた全年代の投票率(参議院)が示されている。
(H.28とR.1の10歳代と20歳代の数字を見ると、先のグラフの数字と一致することが分かる。)

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この総務省のグラフを見ると、投票率が下がっているのは10代・20代に限った話ではないということが明らかだ。20代が4.64%減少しているのに対して、30代は5.46%、40代は6.65%減少しており、減少幅は20代以上だ。そもそも全体で5.9%減少している中で、20代は健闘していると言っても良い。10代は14.50%と大きく減少しているが、R.28は選挙権が20歳から18歳に引き下げられた初めての選挙であり、異様に関心が高まっていたこともあり参考にすべきではない。

悪意なき恣意性

そもそも10代と20代の投票率は他の世代と比べて低いので課題があるという点に対しては異論はない。しかし、10代と20代の投票率だけを切り取って低下傾向だと言ってしまえば、投票率が下がっているのは若者だけだという誤った受け取り方をされる可能性がある。そこに自分たちの言説を通すための恣意性が感じられる。

この記事自体に全く悪意は感じない。低いとされてきた若者の投票意識の変化を期待するものであり、価値があるものだと思う。
しかし、このような身の回りの情報やデータに対して、しっかりとしたリテラシーを持って臨まなければならないということが私が言いたいことだ。分析は有用であるが、今回紹介した恣意性などの危険性を理解しておかなければ、誤った理解と意思決定につながる。

恣意性を見抜くための対処法

今回のケースでは、このグラフを見た時に、

"10代と20代の投票率は下がっている"

と理解した後で、

"30代以上やそもそも全体の投票率はどうなんだろうか?"

という思考が働くかどうかが重要になる。
そこで参考にして欲しいのが、前回紹介したポイント①の中で「大から小へ進めよ=最も大きい単位からスタートし、単位を一つずつ掘り下げてく」というものだ。
10代と20代といった"小"の投票率に注目する前に、その上位の単位である全世代、すなわち"大"の投票率も押さえる必要がある。この思考が働けば、問題がありそうな場所に注目するが全体として大した問題ではなかったというような失敗も回避できる。自分が分析する時だけではなく、様々なデータに触れる時にも3つのポイントを意識してもらえたらと思う。

ポイント

"使える分析のための3つのポイント"は、データリテラシーを高める際にも参考になる。
②MECEではなく肝を押さえることができれば、逆にMECE的に考えた場合に、重大な抜けや漏れはないだろうか。肝以外の捨てた部分に対して、捨てた理由をしっかり説明できるか。などに応用できる。
③施策につなげて考えることができれば、ただ煽るだけのニュースを見抜き、中立な情報以外を排除したフェアなインプットが可能になる。

尚、冒頭の折れ線グラフについて、左の縦軸が30%からスタートしている(横軸との交点)が、これは良くない。より分かりやすくという配慮から来た処理かもしれないが、減少幅をより大きく見せるための細工だ。
コンサルティングの現場では新人がやりがちな初歩的ミスで、やってはいけないことの一つだ。%の推移を示す時は0%~100%を使うべきだ。

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