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小説(SS) 「異世界のギョウザ」@毎週ショートショートnote #バイリンガルギョウザ

お題// バイリンガルギョウザ  ※1,500字程度


 気付くと異世界に転移していたおれは、特にすごい力が与えられるわけでもなく、どうしていいかわからなかったので、仕方なくそこらへんにある町の中華料理屋でバイトをすることにした。

 幸いにも日本語は通じた。原理理屈はよくわからないが、コミュニケーションに問題はなかったので元の世界と同じように接客を任された。店長や従業員は、体にうろこがついていたり尻尾があったりもしたが、別世界からきたおれを温かく迎え入れてくれた。

 培ってきたバイトスキルを活かし、充実した日々を送っているうちに、半年が過ぎた。
 住み込みで働き、業務に慣れてきていたおれは、ほかの従業員たちが時折話し出す現地語が気になり始めていた。
 元の世界でも、中華料理屋のバイトで暇をしているとき、中国からきた留学生同士が日本語ではない言語で突然しゃべり出すことがよくあった。なにを話してるのか聞いても、たいていは「大した話じゃないです」とか「気にしない気にしない」と笑ってお茶を濁されていたものだ。そんなときおれは少しだけ仲間はずれにされているような感覚を味わっていた。

 結局、あちらの世界での中国語会話はわからずじまいだったけれども、どうやらこっちの世界では、簡単に言語スキルを身につける方法があるらしい。

 おれは客から聞いた噂を頼りに、表のルートでは流通していないという、禁断のスパイスが練り込まれたある食材を手に入れた。
 バイリンガルギョウザといわれるそれは、食べたときに極稀に頭がパーになってしまうリスクがあるものの、予め頭に念じた言語をマスターできるようになる代物だった。
 おれはためらわず食った。稀に出る副作用など、これまで一度も起こったことがない。どこからともなく湧く根拠のない自信に突き動かされ、しっかり味わいながらたいらげた。
 お腹が突然光り出し、そこから全身を伝って快感が脳内を駆けめぐる。言語が、文字列が、音ともに流れ出す。意識が一瞬広がったような恍惚感をおぼえ、やがてそれが収まると、おれは現地語を習得していた。運悪く、パーになることもなかった。

 翌日、いつも通りに出勤した。バイリンガルギョウザのことは、誰にも話してはいない。打ち明けようものなら、密かに聞きたいなにげない会話を聞けなくなってしまう。
 おれは内心では心を躍らせながら、それらを表情や行動に出さぬよう、慎ましやかに振る舞った。
 そしてきた。現地人の現地人による現地人同士のの会話のときが。

「なあ知ってるか、バイリンガルギョウザの話」
「ん? 聞いたこともねェな」
「思い浮かべた言語を覚えられる食材らしいんだ。なかなか手に入るものじゃないらしいがな」
「ほう、そいつはいい。食ってみてェもんだ!」
「やめとけ。実はそれがな、かなりヤバい加工物だって噂が流れてんだ。おれたちが簡単に手を出していいものじゃない」
「まじかよ……違法な薬物が入ってるとかか?」
「いい線をいってるな。だが違う」
「おいおい、もったいぶんなって」
「一度しか言わないからよく聞けよ」
「ああ」
「バイリンガルギョウザは、別の世界からきた人間の血や臓器をスパイス素材に使った非人道的な加工物だ」

 おれは休憩がてら飲んでいた水を吹き出した。
 従業員の二人がこちらを見る。
 聞くべき会話ではなかった。まさかこんな恐ろしい話をしているとは思わなかった。元の世界でも、このようなコミュニケーションが繰り広げられていたのだろうか。
 後悔と恐怖が、肚の底から沸き上がった。おれは同族を食してしまったのか、従業員にバレただろうか、なぜこの世界に突然おれは転移してきたのか、誰かが意図して呼び込んだのだろうか。
 おれもまた、スパイスになりうるのか。

〈了〉1,514字



久しぶりにダークなお話になりました☆

最近行った中華料理屋で、従業員同士が中国語で話しているのを横で聞いていて、なに話してるんだろうと思って題材にしてみました。

さておき、最近nijijourneyのβ版の案内がきたので
ここぞとばかりに餃子を食べてる美少女の絵を生成しようとしたら、なぜかラーメンばかり食べてる絵が出力されてきました。
一時期はラーメンでバズってましたし、AIは「ラーメンを出せば人間は喜ぶ」と学んだのでしょうか。 まあ、ラーメンは好きですよ。今日も食べました。

ではではまた来週〜

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