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【小説】絶望女子(第1話/完成版)

すみません。前回、第1話のビフォー・アフター形式で小説の変化をお見せしましたが、実は、さらに加筆修正した「完成版」があります。

今日はこちらをご紹介しておきます。※次回からは連載小説として第2話~を掲載していきます。

それではお楽しみください。

第1話ビフォー版⇒https://note.com/mannycurry/n/nd739e9997a7f

第1話アフター版⇒https://note.com/mannycurry/n/n2bd54370f849

<第1話・完成版>ここから↓


真夏の渋谷区円山町。ホテルのベッドの上で奈美恵は眼を閉じ、苺と一万円札の福沢諭吉を想像していた。愛のない行為をする時は、頭の中で余計なことを考えないように、いつも自分の好きな物だけを思い浮かべることに決めている。


「プレゼント希望。“苺”でよろしくお願いします」と駄目元で書き込んだ個人間融資の掲示板サイト。プレゼント希望とは援助交際として現金をもらうことを、苺は隠語で一万五千円を意味する。通常、誰もそんな書き込みはしないのだが、返済能力がない奈美恵はあえてそう書き込んだ。


 他にも掲示板には少なくともニックネーム、性別、年齢など最低限の個人情報を公開しなければならなかった。


奈美恵は名前を『ナミ』として、残りはありのままの自分を晒した。


無数のスレッドが並ぶ中で、多数の男から「相談に乗りますよ。アドレスに連絡ください」という返信があるものもあれば、誰からも反応がない淋しい書き込みもある。簡単な話だ。若い女のスレッドに男たちの欲望が殺到している、ただそれだけのこと。


 近年、男が貧困に喘ぐ女たちに金を貸すことを仲介するマッチングサイトがある。こうした類の掲示板が、インターネット上に登場したのには、昨今の“格差”“二極化”が根源になっている。


消費者金融にすら相手にもされない世間の最底辺に生息する女たちのニーズに目を付けた半グレなどが運営するグレーゾーンの掲示板サイトが主だ。彼女たちを闇金融へと引きずり込むために、いかにも考え付きそうな金融サービスと言ってもいい。


それぞれの掲示板によってルールは違うが、奈美恵が利用したサイトでは利息はお金ではなくて「女が男に対してできる範囲のことをする」ということも“可”になっていた。


 できる範囲のこと・・・。当然のように肉体関係か、それに近いことを求められることは奈美恵にも容易に想像できた。サイトの規約には「双方が納得の上、当事者同士で決めるように」となっている。


 深夜に書き込んだので、翌朝、サイトを見てみると、二十一歳の奈美恵には一件だけ返信があった。「返済は必要ありません。一万五千円あげますよ。条件付きで」という内容だった。


“条件付き”というフレーズが少しだけ気になったが、今すぐにでも現金が欲しい奈美恵は、とりあえず記載されていた相手のメールアドレスに間を置かず返信した。


「ナミです。掲示板への書き込みありがとうございました。ぜひお願いします。私は暇なので、そちらのご都合に合わせます。お会いする場所は渋谷が希望です」


 正午過ぎ、男からメールが届いた。


「ナミさん、こんにちは。それでは今日の夕方六時に渋谷マークシティ五階のカフェで待ち合わせましょう。大丈夫ですか」


「はい。私は大丈夫ですよ。では六時に待ってます」


 奈美恵は早速メールを返信し、すんなり話はまとまった。それから何気にスマートフォンの出会い系アプリを立ち上げスクロールしながら心の中で思っていた。


(そういえば、この出会い系サイト、高3の夏休みに初めて使ったんだよね・・)
<ここまで>

それでは第2話をお楽しみに!

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