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中江広踏の旅の記録
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2023年5月の記事一覧

ダイプリの旅3 鹿児島

 済州島を5月10日の午後4時に出港したダイヤモンド・プリンセスは、翌朝10時に鹿児島港に入港した。船の旅の魅力は入港時と出港時にあると先に書いたが、この鹿児島入港こそ、今までに経験した中で最高に素晴らしいものだった。九州の西岸沖東シナ海を南に航海してきた船は大きくUターンするように薩摩半島の突端を周回して、対岸の大隅半島との間にある錦江湾を桜島めざして北上する。枕崎沖を通過して開聞岳のあたりで方向転換し、指宿沖を通って鹿児島市に向かうという航路だ。まだ朝靄の中、富士山のよう

ダイプリの旅2 済州島

 済州島の話に入る前に、前回の長崎編で書きもらしたことを補足しておきたい。長崎港に入出港する際に、ダイヤモンド・プリンセスは三菱重工長崎造船所の近くを航行した。長崎造船所は幕末にオランダ人技師の指導のもと徳川幕府が創設したものを明治になってから三菱が引き継いだものだが、第二次大戦中に吉村昭の小説でも有名な船艦「武蔵」を建造したことでも知られている。実は、ダイヤモンド・プリンセスはこの造船所で造られた。長崎港に入ることはダイヤモンド・プリンセスにとっては里帰りでもあるのだ。姉妹

ダイプリの旅1 長崎

 7日午後に横浜港を出てから太平洋を南西に向けて航行したダイヤモンド・プリンセスは、5月9日の朝9時、予定通りに長崎港の松ヶ枝国際ターミナルに着岸した。目の前に、芝生が地上から丸く盛り上がったような蒲鉾形の洒落たコンクリート打ちっぱなしのターミナルビルが見えた。(後で入出国検査をするターミナルビルは別にあることがわかったのだが。)近代的な美しい埠頭だ。入港と出港の光景こそが船旅の最大の魅力の一つだと先に書いた。各地の良港がみんなそうであるように、長崎港も湾が奥深く陸地に入り込

ダイヤモンド・プリンセスの旅

 横浜スタジアムの横にあるホテルを出て、スーツケースを転がしながら、家内と二人で港に向かう並木道をまっすぐ歩いた。雨が降っていた。十分も歩かないうちに、懐かしい大桟橋の姿が見えてきた。世界に誇る現代建築の傑作でもある横浜港の大桟橋だ。木製の巨大な鯨のような建築物。そこにダイヤモンド・プリンセスが着岸していた。いよいよ4年ぶりの船の旅が始まる。私たちはワクワクしながら大桟橋の建物に入っていった。  四年前の航海。石巻で多数の子供達が犠牲になった大川小学校の廃墟で黙祷し、青森で