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ティーンの記憶と星の数

小学生から高校生にかけての自分がまごうことなき読書家だったことには確信があるのだけれど、どうにも読んだ本をあまり思い出せない。
当時からそうだったのだろうか。
それも思い出せない。
読んだ直後は覚えていても、次から次へと本を読むと前に読んだ本の記憶は薄れている。
わたしの脳みそのキャパシティはせいぜいその程度のものなのだろう。
しみじみと、自分の能力の限界を想う。

何がきっかけだったのか、そうだ、花の画像を検索しているとふいに、中学生の時に読んだタイトルが花の名前の小説の記憶が呼び起こされた。
その本を読んだときの感動もよみがえる。
主人公はティーンの女の子で、その子の一つのキーになる体験を通した感情の変化が主な主題で。
文体や話のテンポの良さ、主人公の女の子の生活なんかがあまりにも垢抜けていてポップで、田舎の学校図書館でのそれまでにない読書体験にわたしは打ち震えたのだ。

タイトルに続いて、少し脳みそを搾ったら作者の名前も思い出した。
20年近く前に見たきりなのによくぞ出てきたものだ。
記憶はおもしろい。
おもむろに検索をかける。
思い出したタイトルと作者名がまた脳みその奥に沈んでしまわないうちに。

初版は21年前だった。
当時図書館で見つけたときは新刊だったのだ。
ビニールをかけたばかりのピカピカの表紙に心ときめいたのを覚えている。

検索して上の方に出てきた通販サイトを開く。
タイトルと作者名と、そのすぐ下に星が並んでいる。
星が、、、3つ?

スクロールする親指が止まった。
星3つ。
5点満点中3点だと?

ティーンのわたしが全身震わせて感動したお話も文体も装丁もタイトルも全てが流れるように軽やかで前衛的でお洒落でそれでいて濃厚な小説が、星3つ!だと?

評価コメントはいくつかしかなくて、すぐに読み切れてしまった。
「よくわからなかった」とか「不思議でした」とか「ラストが微妙」とか。
こんな、素敵な作品が、微妙とは!

ここでわたしは気づく。
ここ最近5年くらい、本や映画を選ぶ時に、まず星を見ていたことを。
星が4つ以上ついているかどうかで作品を見る・見ないの基準にしていたことを。
そして、わたしは気づいたのだ。
星の数で選ぶことが可能性を狭め自己の感受性を劣化させる愚かな行為であったことを。

もう絶版になったのだろう。
中古品しか選択肢のないその本をカートに入れ、購入に進んだ。
とにかく読み直したくなったのだ。

星のなかった頃の純粋な感動はもう味わえないかもしれない。
それでも、気づけただけでも良かった。
小説を読み直したら、何か大事なものを取り戻せるだろうか。


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