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毒書

仙台の古書店で買った本、柄谷行人の『探求Ⅰ』はひとりで入った呑み屋なぞで読み進める。偶に明晰なひとときがやってきて、物思いに耽ろうと持ち上げた盃は、象られつつあった結晶を溶かす。他者の解体とともに自己のそれも進んで、その将棋倒しの如き拡がりは留まることを知らぬ。壁外人類は存在したのだ...

谷崎潤一郎の『鍵』を読んだ。特定の人間の、その目に触れることを目的とした"日記"は不誠実であると、そんなことは誤謬である。背中合わせの謗り合いの、その最中に蠢き、そして両者を貫通する情念。高潔ここに極まれり。肉欲縺れるも高尚なる理性、人によって解れ結ばれる。人間の罪深きを覆い隠して余りあるフォルス!力!

スタンダールは『カストロの尼』等数作を。軽妙な語り口にて淡々と。乾いた視線は読者諸君と歩調を合わせ、これにて昔悲劇話のはじまりはじまり。なるほど、現代には"赦し"がこれでもかと溢れている。否、飽和している。相手が誰であろうが裁け。他でもない自分をも裁くのだ。社会的死なぞ笑わせるな、喉を、心臓を貫け、と。灰で汚れた文庫本の絶叫。

深沢七郎『月のアペニン山』が収録されていたのは新潮文庫の『楢山節考』である。月のアペニン一一 はどうも頭に浮かばぬものの、主人公が目にした一一唯ならぬ重厚さと冷たさの漂う一一ラストの光景、その不穏な温度だけは、生々しいくらいに感ぜられた。

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