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忘れたい黒い「トモダチ」ビデオテープ【後編】

「あ、なすびだ。」

電車のホームの端っこに、どこか見覚えのある男性が立っているのが見えた。ふと小学校の同級生だった「なすび」だと気付いた。

彼は顔が長くてなすびみたいに見えることから、「なすび」と呼ばれていた。成長して顔はさらに長くなっていたけれど、面影は残っていた。

小学校の時から10年経っているのに、けっこう分かるもんだな。私は心の中で思った。

しかし、なすびの方は私に気付いてない様子だった。

私はそのまま立ち去った。

なすびに、声はかけなかった。


黒い「トモダチ」ビデオテープ

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母が言うには、3歳の頃の私は年上のお姉さんを泣かしてしまうくらい、自由で天真爛漫な、ガキ大将だったらしい。

今、大人の私を見ても、たぶん本質的なところはそう変わってないと思う。

いまだに多く話す方ではないが、知らない人と話すことに今は全く抵抗がない。自分からも話すし、よく見知らぬ人にも話しかけられる。お酒を飲んだら、陽気に踊ることが好きだ。友達も当時よりは増えた。

ある時、ブリーフィング(フライト前の打ち合わせ)でフライトのマネージャーがゲームを提案してきたことがある。

忙しいブリーフィングで、なぜそんなことをしてたのか目的は忘れてしまったが、二手にチームを組んで時間以内に計算したり、チームワークを競う…そんな内容だった。

私は紙とペンを持ち、みんなの意見をまとめていた。その中で、頭の回転が早いクルーが1人いて、私はその人とよく話していた。けっこう難しい問題で、みんな黙っていた。

「早くしないと時間が来ちゃうよ」

と言うと、

「ところで、なんでキミは仕切ってるの?」

と言われてハッとした。

……なんでだろう?よくわからなかった。体が自然にその場を仕切っていた。

だって、みんなタラタラして遅いし、意見言わないし、私がみんなをサッサとまとめた方が早いし効率的。そう思っていた。そう、私はけっこうリーダー気質があるらしい。

ところが、子供の頃の私は、仕切ったり、目立ったり、リーダーになるなんて、そんなことは全くなかった。クラスにいつも仲の良い友達が1人か2人くらいいるぐらいの、非常に大人しい生徒だった。

私は、いつも自分を抑えていた。

そんな中、また新たな転校が決まった。私は小学校6年生の半ばで、「また引越しすることになったよ」と親から告げられた。

また転校だって?しかも、海外?せっかくもうすぐ卒業出来るのに…。

(せっかく慣れたのに、また始めからやり直しか)

私の心の中の落胆は大きかったが、私は逆らえないことを知っていた。親戚が近くに住んでいるわけでもないし、私にはついて行くしか選択肢はないのだ。

学校が楽しかったことは一度もないが、やはり卒業したいという思いはあったのかもしれない。

心ない言葉

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「えー、この度マニコさんは、ご家族の都合で本校を転校することになりました。今までありがとうございました」

先生と壇上に立ち、私は軽く頭を下げた。

「これ、皆んなからのメッセージ」と言って、

黒いVHSのビデオテープが渡された。

今どきの人は、ビデオテープなんて一度も見たことがないと思うが、当時は録画するために必要なものだった。

忙しい合間に、メッセージを作ってくれたんだ。私はやはり嬉しかった。

「マニコ、向こうに行っても元気でね」

一番仲の良かったエルちゃんとハグした。


そして、家に帰ってお父さん、お母さんと一緒にビデオテープを見た。

「…何これ」

母が言った。私は絶句した。

クラスメイトが一人一人現れ、私のためへのメッセージを言うのだったが、一人を除いて99%のクラスメイトが、

「しゃべったことなかったけど、元気でね」

または、

「あんまり話したことなかったけど、向こうでも元気でね」

と語った。

中には、マンションが隣でよく遊んでいた女の子までが同じことを口にしていて驚いた。

つい昨日、一緒に遊んだばかりではなかったか?

彼女の猫と楽しくじゃれていた記憶が蘇る。

それなのに、まるで一度も遊んだことがなかったような話ぶりだ。他にも何人かそういうようなクラスメイトがいたが、みんながまるで私を知らない子のように語った。

私は彼女たちの態度、クラスメイトの冷たさに少なからず傷ついた。

彼らのメッセージは、全く心がこもってなかったし、どれも全く嬉しくなかった。

先生に言われて、しぶしぶ作ったのが明白だった。

なんだこいつら。私は思った。

父は黙っていた。無神経な母は「あんたって本当記憶に残らない子なのね」とか、よく覚えてないが、笑いながら無神経なことを言ってた気がする。とにかく、よく覚えてない。

ただ、そんなメッセージを言われ続ける自分が恥ずかしく、そんな心のこもってないビデオを見続ける意味が分からなかった。

ビデオを、止めたかった。でも、私は平気なふりをした。

みんな、友達のふりをした、黒いトモダチだと思った。日本の人は冷たい。そんな思いが私の中で決定的になった瞬間だった。

その中で、たった一人、エルちゃんだけが違った。

「マニコがいなくなるのは、エルはとても寂しいよ。一緒に学校に行ったり、家や外で遊ぶのが本当に楽しかったね。ありがとう。また帰ってきたら一緒に遊ぼうね」

エルちゃんのメッセージだけが、心に響いた。

エルちゃんは、ビデオテープの他にプレゼントや手作りのメッセージカードまで作ってくれていた。

それには、二人でロケットに乗って楽しそうにしてる絵が描かれていた。


転校した先で、また私は壇上に立っていた。

「えーと、マニコです。◯◯から来ました」

私は、どこかにエルちゃんの笑顔があるんじゃないかと、クラスを見まわした。

(偶然だね、マニコ!エルも来ちゃったよ)

エルちゃんは、運動が出来て活発で、とても元気で明るい子だった。そして、高い声でコロコロとよく笑っていた。

エルちゃんが無性に懐かしかった。

でも、どこにもエルちゃんの姿はなかった。
















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