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「おじさん」との再会

元カレの家までたどり着くと、

雨はだいぶ小雨になっていた。

私はインターホンを押した。

“Hello, come in “

と、おじさんの陽気な声が聞こえてきて、

ロビーのドアが開いた。

なんとなく、ロビーの受付に座る女性と

目を合わせないようにして、

エレベーターのボタンを押した。

香港のロックダウン

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元カレの部屋の前に来ると、

少し緊張してきた。

おじさんと会うのは、2ヶ月ぐらいだろうか。

ドアは、少しだけすでに開いている。

ノックしながらドアを開けると、

おじさんが見えた。

“Hello~, how are you?” 
(やっほー、元気?)

と言いながら、軽くハグをした。

彼は、相変わらずチャンドラーのような笑顔を見せた。

「ちょうど今、ロックダウンが終わったんだよ」

おじさんは時計を見た。

今香港では、コロナの影響で、海外から入国した人は二週間必ずquarantine(クアランティン:検疫)のロックダウンをしなければいけないという厳しいルールが政府から課せられている。

なんだ、二週間の自粛なら日本もそうだよ?

簡単…と思った方、甘いです。


日本は「自粛」なので、外に出るの二週間

積極的に出かけないというわけで

特に外に出ても罰則はありません。

ところが、香港はドアより一歩外に出たらアウト。

腕には、発信装置をつけられます。

そして、家の端から端まで歩くよう指示され、

そのスペースから出たら、発信装置が警報を鳴らす

仕組みになっている。

そして、定期的にどこにいるかチェックされ、

電話もかかってくる。

外に出たことがバレたら、罰則があります😱

私はこのロックダウンをやるのが嫌で、

フライトがないのに、2月から日本に帰れていない。

コロナの前は、毎月帰っていたから、

これは本当に初めての経験だった。

クラスメイトの中には、もう2回目のロックダウン、

…つまり、丸々1ヶ月、本当に一歩も家の外に出れない

経験をしていた。

今、香港ではそういうロックダウンを経験している人が

沢山いるのだ。


ところが、航空会社のクルーは、いちいちどこかに

飛ぶたびに、二週間もロックダウンされていたら、

仕事にならない。

だから、会社ごとに政府と特別なルールが設けられている。

このルールは、国によっても違うし、

コロナの状況で、本当に毎日のように

めまぐるしく変化しているのだが、

最近香港では第三波と呼ばれる、

コロナのぶり返しがあり、ルールがより厳しくなった。

フライトの後、たとえクルーやパイロットでも、

ロックダウンが強制になったのだ。

その詳細について書くのは色々と問題があるので

ここでは省く。

アメリカ在住の、アメリカ人のパイロットの友達は、

(ややこしい😂)

最近、異例の速さでキャプテンに昇進したのだが、

アメリカの航空会社は、しばらく香港には入国しないことになったと言っていた。

ま、他にも色々な理由があるのだろうけど。

つまり、アメリカから香港に飛んできた場合、

パイロットやクルーは飛行機から降りず、

給油作業や貨物の積荷を下ろすだけで、

そのまま次の目的地まで再び飛び去ってしまう。

その間の時間としては、1時間ぐらい。

飛行機から降りないということは、

香港に入国しないということなのだ。

おじさんの趣味

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そんなわけで、おじさんのロックダウンが開けたので、

私たちは外に出て、ご飯を食べることにした。

「何食べたい?」

おじさんが聞いてきたが、

彼が歩く方向には、インド料理か、

よく分からないフュージョン料理(多国籍料理)、

なんちゃって日本食、よくわからないバーしかチョイスがなかった。


理由はよくわからないが、白人系の外国人は

インドカレーが好きな人が多い。

特に、チキンティカと、チキンマサラとか、

ナンブレッドで食べるのが好きで、

日本やタイのカレーより好きだと思う。

そして、中国料理はあまり好きじゃない…というか、嫌いな人が多い。

前にデートしていた若い白人の子も、

アジア料理は好きじゃないが、インド料理は自分で

作ってしまうぐらい好きだった。

そんなわけで、白人男性とデートして、

アジア系の料理が食べたかった場合、

インドカレーはかなりいいチョイス!

というわけで、インドカレーを食べることにした。


カレーを食べている間、コロナの状況とか

家族の話とか、会社の状況について話をした。

おじさんは、パイロットでも、

特にハンサムでも背が高いわけでもなかったが、

人とのコネクションを作るのが非常に上手な人だった。

また、お金に関する感覚とか、ビジネスセンスに長けていて、

自分のサイドビジネスも持っていた。

もうこのままリタイヤしても本当はいいんだけどね

とよく言っていたもんだ。

「狭い香港に帰ってくるのも、もういいかなとふと思ったけど、ボクはやっぱりジェット機で飛ぶのが好きだから」

と語った。


そういうわけで、上層部の人と友達になることで

普通のパイロットでは知りえない色んな最新の情報を

おじさんは沢山持っていた。

だから、私は客室乗務員やパイロットの中で、

会社が今後リストラや再編をしようとしてるとから、

色んなマイナスのウワサが飛び回っていても、

あまり聞いてなかった。

彼らの言うことは、単なるウワサでしかない。

しかし、おじさんが言うことは、かなりの確率で本当になることが多かったので、少し神妙に聞いていた。


インドカレーの後、おじさんとショッピングモールをブラブラした。

おじさんの趣味は、最新の家電のチェックだ。

「電子レンジをオーブン機能のあるのに買い替えたいんだよね」

電子レンジのドアを開けながら、

帰ってキッチンのサイズ測らなきゃと

おじさんは独り言を言っていたが、

私は、このやり取りを付き合っている頃から何度も見ていた。

(つまり、買うつもりないんだな)

と思った。

「なんか欲しいものある?」

「え?なんで?」

「フライトもないし、かわいそうだと思って」

と言うおじさん。

私はちょっとだけ身構えた。

おじさんはお金持ちだが、割とケチ……

もとい、お金にしっかりしてる人で、

ご飯はおごってくれるし、

最新のiPhoneを買ってくれたことはあるが、

何か高級なアクセサリーやブランド品を

プレゼントしてくれるとかは一切なかった。

「いや、いいよ別に。」

(そもそも、付き合ってないし…。)

「あ、強いて言うなら、掃除機かな」

私は掃除機を持っていなかった。

無印で買ったデッキホウキとクイックルワイパーで

なんとかしのいでいたが、

私はズボラな割に、意外と物がごちゃごちゃしてる空間が嫌いだった。

そして、部屋にホコリや髪がたまることに、

とてもストレスを感じていた。

次引っ越した時には、使いやすい掃除機を買うと決めていた。

結局買ってもらわなかったが、

「じゃあ、誕生日が来たら買ってあげるよ」

と、本当かどうか不明だが、彼は言った。




















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