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床屋の主人が出来具合を尋ねる

僕は 今 床屋の椅子に座っている

ラジオから聴こえてくる交通情報が人生に語りかける

渋滞情報とバイクの事故と安全運転を心がけるよう語りかける 

渋滞は身動きできぬまま 引き返すこともできぬ人々の苛立ち

僕は身動きできぬまま 無関心を装いきれぬ隙を狙って

引導を渡される不安を孕んでいるのだ

床屋の主人が僕の裏側できっとほくそ笑んでいるのではないかと

ラジオから流れる声だけで現実を判断する危険を孕んでいるのだ

孕んでいるのだ いつ爆発するかもわからない鬱積した人々の黒い感情の油

地球の裏側で地雷探知機を持ちながら原っぱを駆け抜ける子供達

黒い感情の油が地雷に火をつけ爆発させる危険を孕んでいるのだ

渋滞している車のガソリンに火をつけ爆破させる危険を孕んでいるのだ

いざとなれば愛する人より自分の命を優先する不安を孕んでいる僕は

沈黙という孤独に浸ってラジオの電波に身を委ねはじめていた

やがて髪を切る音が終わり かつて耳を切られた外傷の物語が書き変わる

床屋の主人が鏡を出して頭の裏側の出来具合を尋ねる

「問題ありません」 このやりとり以外考えらぬ世界で

安心している僕は哀しい

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