臆病な私が詩人になる

都市部近郊の森に入り あらゆる雑音のスイッチを切ると

異次元へと向かう飛行機雲に音だけが残る

私は夕暮れの峠の高台から街を見下ろすつもりだったが 

人々の欲望の抜け殻だの 

夢の断片が詰まった廃棄物だの

セシウムは平気だというチラシの束だの

体に影響はないという統計資料や真っ黒に塗られた公開資料の入った

ダンボール箱が積み上げられ敷き詰められた大地に圧倒される

遠くに広がる海に流れ出ているものが何かを伏せるようにして

色とりどりのイルミネーションやプロジェクションマップで

美しく着色された展示物が

人工甘味料と合成着色料で作られた僕の身体(カラダ)と共鳴する

こんな所にテントを張って一夜を過ごそうというのか

いそいそと太陽が山々の奥へと帰っていく

やがて詩獣と呼ばれた古の詩人達が 虎の鳴き声のごとく叫んでいる 

権威の象徴をして 祖父の白黒写真の遺影のように鋭い眼光で見据えている

それでも詩人なのかと聞いて呆れると命をかけた詩(うた)の数々が

死して尚 この野原を駆け巡っているのだ

それに引き換え私の詩など夜露にもならず風にも乗れない 

私はすっかり縮こまってしまい いそいそと火をおこして

豚の腸詰を焼いて 鯖の缶詰を開けた

だって怖いんですって 右とか左とか 白い車とか黒い車とか

頭上を通り過ぎようとする人工衛星からこの地球(ほし)を見下ろすと

貧富の差が白黒はっきりと色分けられていて私の中の陰陽図と共鳴する

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「蛇の口には薔薇の花の如く立ち向かえ」というけれど 

私の薔薇には棘がないんですって 牙とか刄とか毒とか拳銃とか

何か詩(うた)を書いてみろと言われ慌ててポケットを漁ると

飼いならされた言葉ばかりが詰め込まれていたので 

それらをカチカチと鳴らして

せめて 白か黒かの刻印を外して 灰色の言葉を放つ

せめて 昇る月に みてみぬふりをして沈黙することはやめると誓う


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