見出し画像

月と六文銭・第十四章(18)

 田口たぐち静香しずかの話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。 
 ビジネスウーマンに扮したナースの高島たかしまみやこは、パイザーのウェインスタインと一緒にドライブに出かけたが、自分ではコントロールできない状況に追い込まれた。

~ファラデーの揺り籠~(18)

69
***現在***
 田口が珍しく自分自身の過去について話した。
「私も黒のセミロングで留学に行ったんですが、周囲の医学生が、私の髪をサンプルとして欲しいと言って、たくさん寄って来たんです。本当は私とセックスしたかっただけだと思いますが…」
「ほお」
「自分がモテているのと勘違いしちゃうくらい次から次へと声を掛けてくる男性がいたんで、びっくりしました」
「それは黒髪のせいばかりじゃないと思いますが」
「私が本当にモテていたということですか?」
「そうだと思いますよ」
「しまった!ならもっと多くの男性と付き合っておけばよかったわ。結局、医局のアイリッシュの同級生とだけ付き合って終わっちゃったのよね。もっとたくさんの経験を積むチャンスだったのかな?」
 田口が本気で言っているのか、武田をちゃかしているのか、その境界線は微妙だったが、米国留学中は本当にアイリッシュのボーイフレンド一人だったのだろう。

***再び回想へ***
 髪が乱れるのを日本人が嫌うことを理解していたネイサンは、どんなにオープンにしたら楽しいのかを主張するよりも、まずは出発することを優先するようになっていました。
「分かりました。クローズドで行きましょう」
 ウェインスタインは助手席を開け、都がシートに収まったのを確認してからドアを丁寧に閉めた。都がベルトをしている間にウェインスタインは車の後ろ側を回って運転席まで来て、乗り込んできました。
 フェラーリに乗せてもらえるのを喜んでいると伝えるため、はしゃぎ気味に話し、ウェインスタインがギアを変えようとシフトに手を乗せた瞬間、自分の手を乗せました。ウェインスタインはシフトを入れてから手を握り返してきたんですよ。

ここから先は

2,147字
この記事のみ ¥ 330
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

サポート、お願いします。いただきましたサポートは取材のために使用します。記事に反映していきますので、ぜひ!