「スランプと認識するからスランプになる」成長し続けるための失敗との向き合い方〜スランプさんいらっしゃい・ビジネス座談会前編〜
株式会社ディー・エヌ・エーが運営するマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」。
有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、オリジナル作品の『ホリデイラブ』はTVドラマ化、『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。
そんなマンガボックスの編集長を務めるのは安江亮太さん。多くの事業を束ねてきた安江さんはこれまで数々のクリエイターや社員の悩みに乗り、解決に導いてきました。
今回は安江さんの飲み友だちというモリジュンヤさん、飯髙悠太さんとの対談企画。前編はそれぞれのスランプ話や、スランプとの向き合い方について聞いていきます。
何かに深くコミットメントしないと、収入もスキルも成長しない
安江:今回は(モリ)ジュンヤと(飯高)悠太にスランプだったときの話や、スランプについてどう捉えているのかという話をしてもらいたいと思います。まず関係性として、悠太と僕は去年行われたマーケティングのイベントで一緒に登壇したのがきっかけで仲良くなりましたね。個性強めな登壇者3名がお酒飲みながら本当に好き勝手喋るというイベントでしたが、そこでしっかりモデレーターをしていただいて、ちゃんとしている方だなあと。今はbasicさんなどを経てホットリンクのCMOをされている。
飯髙:そうですね。
安江:僕とジュンヤは高校の同級生なんだよね。大学入ると、ほとんど会わなかったんだけど、卒業するタイミングで久しぶりに二人で飲んで。そのときまさに、ジュンヤはスランプだったのかな。
モリ:スランプだったと言えるかもしれないね。就活を途中でやめて、就職先が決まらないまま卒業して、仕事もなく、家もなくって生活になる直前だった。
飯髙:ええ!? 家ナシってどういうこと? 就職は?
安江:落ち着いて(笑)。
モリ:一番のきっかけは就職活動中に起きたリーマン・ショック。なくなる会社もあったし、リストラも起きた時期で、このまま普通に就職していいのかなって疑問が生まれて。会社に合わせて志望動機を合わせている感じも違和感があったしね。それで就活は一度やめた。一方でスマートフォンやソーシャルメディアが登場して、期待も高まっていたタイミングだった。なにかしらそこで仕事ができないかとも考えていたものの、自信も持てなくて。いろいろ試行錯誤しているうちに卒業のタイミングになっちゃったんだよね。
飯髙:なんかジュンちゃんらしいね(笑)。
モリ:人生の主導権を自分で握れるようにしたいと思ったし、どんな仕事をしたいか、どんな会社で働きたいかわからないのは自分のことがわからないからだと思って。だから、個人でいろいろやってみようと思ったんだよね。今もそうなんだけど「失敗するなら早い方がいい」という考えで、早いうちに個人でやれることと、やれないことを検証したほうがいいな、と。それでいろんなことに手を出し始めた。
安江:いろんなことって例えばどんなことをやっていたの?
モリ:例えば、コピーライティングや心理カウンセリングを学んでみたり、NPOの非常勤スタッフとして働いてみ たり、ソーシャルメディア 運用の仕事を やったり。少しでもいいから気になった領域に触れてみて、どんなこと 仕事にしたいかを考えたんだよね 。
安江:なるほどね。一つの仕事を突き詰めるより、自分の興味があるものをいっぱい試していたんだ。
モリ:そうしないと、自分が何をやりたいかがわからないと思って。あとは、当時は仕事のポートフォリオを分散させたいと思ってたんだよね。 当時は「1つの仕事で30万円の収入を得るより、10の仕事から3万円ずつ収入を得たほうが安定する 」という考え方が語られることが増えていて、それに共感してた。
安江:でもそれで、仕事がもらえてたんだ。
モリ:そう、毎月 10万円ぐらいだったかな。でも、10万円って東京で生活していくことを考えると結構ギリギリな額じゃない。だから、その時に僕がとった選択は「一番高い固定費を削れ る」 。要は「家賃」を削ったんだよね。
飯髙:それで家ナシになったのね!(笑)
モリ:そう。 友達の家を泊まり歩いたり、漫喫のナイトパックで寝床と天井を確保したり 。
安江:ヤバいヤバい。
モリ:でも人間、不思議で。たしかに最初の1ヶ月は超しんどかったけど、2ヶ月経つと「今日何の漫画読むかな〜」って余裕が出てきて。生活がそっちに最適化されてく (笑)。
飯髙:なにそれ、人間すごい。
モリ:そ の時期の学びは 、生活水準を下げてもなんとか生きていけるとわかったこと 。みんな助けてくれるし、「これがないと生活できない」ってことの多くは思い込みだって実感できた 。 次は、 社会でちゃんと生きていけるかどうか に挑戦しないといけない 。
安江:そうだね。問題は仕事だよね。
モリ:振り返って考えてみると、パラレルワーク、リモートワーク、アドレスホッパーなどの働き方を2010年ごろに経験した結果、なんとかやっていける感触はあった。けれど、持続的に自分の価値を高めていくにはなんらかの修行が必要だと思った。どこかに深くコミットメントしないと成長しない。そう考えてどこかでしっかり仕事しようと思ったんだよね。
安江:スランプとホームレス(笑)。じゃあそこで就職して正社員になったの?
モリ:ウェブメディアを運営する会社の編集部で編集アシスタントのアルバイトをすることになって。自分がコミットメントしようと思える仕事で、経験になる仕事ができるのなら、契約形態にこだわりはなかった 。
飯髙:お金のためだけではなくて、ちゃんとビジネスの視点をもって働いていたってことだよね?
モリ:そうそう。アルバイトでも、自分でいろいろな責任を持って、事業や会社にどうやったら貢献できるかを考えて。当時、アルバイトしていた会社は役員3人と社員1人、アルバイトは僕1人。そもそも人が少なくて、動きやすかった。
安江:なるほどね。いろいろトライできたと。
モリ:自分が責任を持って仕事をすることで、「こういうことをやったほうがいいんじゃないか」と考えるようになって。それを提案すれば、やらせてもらえる環境だったから、どんどん自分の中でPDCAを回すことができたんだよね。
飯髙:めちゃくちゃいい経験だね。一気に成長しそう。
モリ:そうだね。最初は仕事ができるわけじゃなかったけれど、能動的に動くことでグッと経験を積めた。組織によって規模の大小はあるけれど、仕事のワンサイクルを自分で回せるかどうかはとても大事なことだと思うなあ。自分のなかで「こう考えて、こうやってみて、こうだった」っていう仮説を検証できると、自分の言葉で語れるようになるから。
安江:そこで修行を積むことで、ジュンヤはスランプを抜け出していったと。
モリ:あれがスランプだったのかは謎だけど、手応えはあったし、生活ができるようにはなっていったね。
今持っているものを手放すために、一度立ち止まって自分の目的を考える
安江:そう、生活だね(笑)。じゃあ悠太。悠太はスランプってあるの?
飯髙:なくはないよ(笑)。ただ、一般的な「スランプ」とニュアンスが違くて。いわゆる「不調」って意味合いがスランプだと思うんですけど、僕はそれを「機会」と捉えることの方が多いかな。
モリ:あんまり塞ぎ込んだり、マイナス思考にはなったりしないんだ。
飯髙:そうだね。例えば、「営業成績が悪いな」「トラフィックがうまくとれないな」っていうのを、マイナスに考えても物事はうまく回らないんだよ。そういう状況を「問題」にしてしまうとスランプになってしまうけど、「課題」と捉えれば前向きじゃない?
安江:なるほどね。でもそれって今だから言えると思うんだよ。実際に若いときにそういう発想はできるものなの?
飯髙:僕、学生時代にサッカーをやっていたんだけど、スポーツする人は同じような感覚を持っていると思うなあ。どんなに強いチームでも必ず負けるときがあって、落ち込むときがあるの。ただ、それをスランプと言ってると抜け出せなくて、そういうときはもう開き直って、次に進むための課題にしてしまったほうが良い。そういう発想の転換ができるようになるんだよね。
安江:なるほど。悠太はサッカーで関東代表までいった実績もあるもんね。そこで培われたものが大きいんだ。
飯髙:でも思い出すと、上手くいかなかったときはあるよ。24歳ぐらいかな、30人くらいの会社にいるとき、セールスと広告チームの責任者を兼務することになって、どうにもこうにも仕事がパンパンすぎて、何やってもダメだったの。
安江:おお、それは一般的にはスランプだと思うよ(笑)。
飯髙:そうなのかな(笑)。でも何やっても上手く回らないときって、もう爆弾なんだよね。どこから何が爆発してもおかしくない。そんなときに「やりたくないこと」「やらなくていいこと」、「できないこと」この3つは手放した方がいいと思って、思い切って手放したんだよ。
安江:他のメンバーに任せることを覚えたってことだよね。なんでその思考にいけたんだろう?
飯髙:たぶんそのとき初めて、周りと自分を切り離して考えることができたんだよね。例えば、仕事をしていると、他の組織や会社にいる人が羨ましく見えるじゃない。でも自分がその憧れていた組織に入ったとしても、きっとまた別の憧れが出てくると思うんだよ。僕は仕事がパンパンなときに一度立ち止まって、「自分が本当に目指す場所ってどこなんだろう」と考えることができた。
安江:なるほど。
飯髙:自分は手を動かすのが好きだったけど、一度立ち止まったことで「もっと脳を動かすほうにいった方がまた違ったレイヤーにいけるのかもしれない」と思えたんだよ。その結果、仕事を誰かに任せられるようになった。
モリ:わかる気がするなあ。「今持っているものを手放す」怖さが人にはあって、その考えを壊せるかどうかが、スランプを抜け出す一つのコツなんだと思うな。例えば、僕は就活をやめたり、家のない生活をしてみて「別に離したって大したことじゃない」と実感できた。悠太も僕も、そういう経験がどこかであったんだよね。それは安江もそうでしょ?
安江:そうだね。自分は東大でそれを感じてて。特にその当時は、東大に入ると官僚やコンサル、総合商社、メガバンに就職する人が大半だったんだけど、「こんな決まり切ったルートに行くのは嫌だ!」と周りを気にしないで自分の好きな方向に舵を切ったときがあった。当時はまだウチの会社は『モバゲー』が流行り始めたぐらいのときだから、「東大に入ってその道にいくなんて、ありえない」と思っていた人もいたんじゃないかな。たまに「東大入って失敗だったかもしれない」と思うけど、そのときの固定概念を手放せたのは大きかった。
モリ:東大に入って失敗と思う人なかなかいないよ(笑)。
「成功や不調は人によって違うものだから」自分の中に判断基準と課題を持つことの大切さ
安江:みんながそれぞれ失敗してきたからなのかな、この3人で飲んでても、皆フラットだなって思うんだよ。「こうやれば成功する」みたいな話って出ないよね。
飯髙:そうだね。僕が最近思うのは、スランプがない分、上手くいってるとも思いきれてないところはあるかも。
安江:へ〜! それはどういうこと?
飯髙:例えば「『ferret』を立ち上げてすごいよね」とか「書籍出してすごいよね」とか言われるけど、そうじゃないんだよと。人から作ってもらった機会があったから、たまたま立ち上げることができて、たまたまSNSに多く触れていたタイミングで書籍の企画がきて、「自分がやった」なんてことは言えない。だから、周りのいう「成功」という感覚は一切ないのかなと思う。
安江:なるほどね。タイミングが与えてくれたと思っているわけだ。
飯髙:そもそも、何をもって成功なのかは人によって定義が違うと思うんだよ。例えば、1,000万持ったら成功、という人もいれば、年収500万で円満な家庭を築ければそれで幸せな人もいるし、お金なんかなくても仕事し続けられるのが成功だって人もいる。共通項でくくれない時点で、成功っていうのはあやふやなんだよ。これは不調のときもそうなの。
安江:時期によっても定義が変わるしね。
飯髙:そう、めっちゃ変わる。でもその時々の判断基準や課題を常に自分の中に持っているんだよ。
安江:さっき悠太が言ったように、不調なときをむしろ課題として捉えていて、「今こういう課題を持っているからこれに取り組んでいるんだ」といえるのはスランプじゃないよね。
モリ:そうだね。 判断基準が自分になくて、スランプになっている人が多い気がするんだよね。
安江:あー、「スランプ」っていう言葉になっちゃっているせいで、そういう状況に陥ったことを悪い意味で認めちゃうっていうのはあるよね。
モリ:課題を解決すれば前に進めるのに、スランプと認識した瞬間にどんどん悪循環に陥ってしまう。
安江:確かに、今までもこの企画で漫画家さんと話していて思ったのは、「なんでスランプかがわかってないからスランプ」なんだなってこと。自分のできていないことや弱みに目を背けているから、“スランプ”と言っちゃっている気がしていて。悠太とかジュンヤとかはそういう状況になったとき、「なんかうまくいってないけど、なんでうまくいってないんだろう。なるほど、仕事を他の人に任せられてないからだ」と考えるもんね。
飯髙:そうだね。自分のなかでぐるぐる考え込むんじゃなくて、もっと俯瞰的に自分のことを見れるといい。
安江:二人と話すことで、いいスランプとの向き合い方が知れたなあ。でもそれを認めることで、『スランプさん』という企画の建前がなくなってしまう矛盾を抱えている気がする……(笑)。
モリ:また別な企画をやればいいんだよ(笑)。
(後半につづく)
■出演者プロフィール
安江亮太
DeNA IPプラットフォーム事業部長 / マンガボックス編集長
2011年DeNAに新卒入社。入社1年目の冬に韓国でのマーケティング組織の立ち上げを手がける。2年目に米国でのマーケティング業務。その後全社戦略の立案などの仕事を経て、現在はおもにマンガボックス、エブリスタの二事業を管掌する。DeNA次世代経営層ネクストボード第一期の1人。
Twitter: https://twitter.com/raytrb
モリジュンヤ
株式会社インクワイア代表取締役。「greenz.jp」副編集長を経て、ビジネス、テクノロジー領域のフリーライターとして活動。スタートアップニュースサイト「BRIDGE」の立ち上げに参画する他、スタートアップを中心にメディアの立ち上げやコンテンツ戦略を支援。2015年にインクワイアを創業、事業や組織に伴走する編集を行う。NPO法人soar副代表、FastGrow CCO。Twitter:https://twitter.com/junyamori
飯髙悠太
株式会社ホットリンク CMO。広告代理店、制作会社、スタートアップで複数のWebサービスやメディアを立ち上げる。企業のWebマーケティングやSNSプロモーションをはじめ、東証1部上場企業を含めて100社以上のコンサルティングを経験。2014年4月「ferret」の立ち上げに伴い株式会社ベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員に就任。2019年1月よりホットリンクに入社し、同年4月に執行役員CMOに就任。自著は『僕らはSNSでモノを買う』(5刷)、『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』。
Twitter:https://twitter.com/yutaiitaka
ライター・撮影:高山諒
企画:おくりバント
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?