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未来の海を救う人工生態系「イノカの方舟(はこぶね)」とは【前編】

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地球の大半を占める“海”。

私たち人類だけでなく、全ての生き物は海から生まれ、枝分かれしながら進化してきたといわれています。

この美しい海が失われつつある。
そんな話を聞いても「もう聞き飽きたよ」なんて人も多いのかもしれません。
海洋ゴミの削減や水質改善など、さまざまな角度から海の環境保全に取り組んでいる人や企業は少なくありませんが、今回お話を聞いた高倉葉太さんが代表を務める「株式会社イノカ」は、サンゴ礁を再現しようとしている…のだとか…。

それって何の意味があるのでしょうか?たしかに、サンゴ礁ってキレイだけど…。
高倉さん、教えてください!

■アクアリウムに人生を捧げようと決めた出会い

もともと、東大の大学院でAIやIoTの研究をしていたという高倉さん。アクアリウムはあくまでも趣味として楽しんでいたのだといいます。

「起業したいという思いはありましたが、アクアリウムを事業にするというのは考えていなくて。iPhoneをつくったApple社のように、革新的なハードウェアを作る会社を夢見ていました。

でも、起業家の方などに相談をしていくうちに、『君には好きなモノってないの?』『アクアリウムが趣味なら、それに関わる業界をもっと調べてみなよ』とアドバイスを受け、『それもアリなのか』と考えるようになって…」

最大の転機は、現在イノカのCAO(Chief Aquarium Officer)である増田直記さんとの出会い。
(チーフ・アクアリウム・オフィサ―、おそらくイノカにしかいないだろうな…)

「彼は自宅の半分をアクアリウムにして、そこにサンゴ礁を再現しようとしていたんです」

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※CAO増田さんの自宅の様子

さすがCAOになるだけの人物、家にサンゴ礁をつくるとは…もう、趣味の範囲を超えています。

「サンゴ礁は多くの魚のすみかになったり、共生している藻が光合成をすることで海中のCO2バランスを整えるなど、海の生態系を守る基盤となる役割をもっています。一方、わずかな環境の変化にも影響を受ける非常にデリケートな生き物でもあります。

それを純粋に“好きだから”という情熱だけで再現しようと試みている増田の姿勢に衝撃を受けました。また、僕が学んでいるAI技術やアルゴリズム解析の知見を組み合わせれば、より安定した水環境を作れるのでは…と感じたのが第一歩です」

■アクアリスト×テクノロジーで東京に沖縄の海を再現

アクアリウムにAIやIoTというと、どのように活用できるのでしょうか。高倉さんが目指しているのは、水環境をあらゆる場所で再現し、未来へと残すための“ノアの方舟”ならぬ“イノカの方舟”…人工生態系の確立だといいます。

「人間が介入しない自然の生態系は、さまざまな生き物たちが“食べる・食べられる”“住まう・住まわれる”といった関係を築きながら、非常に繊細なバランスで成り立っています。これを人工的に再現するのが目標です。

アクアリストは“職人技”ともいうべき技術と情熱でその再現に取り組んでいますが、人間の知覚だけでは不可能な部分も出てきます。

生態系の再現のためには、30種以上の微量元素のバランスや水温に水深、わずかな水流や明るさといった要素を正確に解析・再現する必要があります。ここで活用できるのが僕の学んできたテクノロジーです。東京の水槽で沖縄の海と同じ環境を再現することも可能ですよ

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水温のわずかな変化や、一日を通しての生き物たちの動き。いくらアクアリストといえども、24時間水槽にはりついて監視をするわけにはいかないですよね。
そうした人間の能力の限界をテクノロジーがフォローし、自然の海洋環境を再現してくれるというわけですね。

■まとめ
海洋環境の再現技術が完成することで、海のない場所にも海と同じ生態系を人工的につくることができる。それによって、将来人類にはどのような未来が待っているのでしょうか?
「人間が自然に少し手を加えることで生存できる場所が増え、都市に海ができたら、研究はより身近になる。それは人類にも大きな可能性をもたらしてくれるはず」と、高倉さんは教えてくれました。
後編では、「人工生態系のある未来の社会」を高倉さんと一緒に考えます。

漫画=しのみやななせ@nanase774938
取材・文=藤堂真衣(@mai_todo
編集=中嶋駿

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