[Side Story] ノースポール、浮上!⑤
■宇宙巡光艦ノースポール
[Side Story]
ノースポール、浮上!⑤
みなさま、
はとばみなとです。
「高度、0.2・・・、0.1・・・、」
ノースポールは、ほとんど停止しているような速度で降下しました。
突然、ドックの建物が、ギシギシギシッと、大きくきしみ始めました。通路にいるスタッフが、辺りを見回します。ドックの建物が地面に残されていた基礎部分に接地して、建物自身の自重がドック自身に掛かったのです。
「高度、0.0。着陸を確認。ノースポールの位置と姿勢正常。全艦異常ありません。」
小杉さんが報告しました。
「ドックに異常はないか?」
川崎さんが尋ねました。
「はい、損傷ありません。停電していること以外は全く異常ありません。」
驚くべきことに、ドックの建物は、もともと乗っていた基礎の柱の上にピッタリ元通りに戻ったのです。これには地上で監視していたスタッフもびっくりです。
「さすがだ、ノースポール。全く元通りの位置だ。」
管制室でも確認が取れたようです。
「こちらニコラ。」
管制室からニコラさんが呼びかけています。声が明るく弾んでいます。
「完璧です。ホールインワンとでも言うのか、見事ですね。こちらのスタッフもみんな驚いてますよ。」
「川崎だ。ありがとう。了解した。」
川崎さんは話し終わると、ライラさんの横に来ました。ライラさん、タオルで額や頬の汗を拭っています。
「お疲れさん。見事だったな。」
「ありがとうございます。でも、そのまま下りただけですから。」
謙虚です。あまりにも謙虚すぎます、ライラさん。
「ハハハハッ、いやいやいや、久し振りに、神業というのを見ることが出来たよ。とにかく、ありがとう。」
本物の匠は、他の人が出来ないことを、いとも簡単そうに、さりげなくやって見せてくれるんですね。しかも、自慢もせずに、ひたすら謙虚に。とにかく、ライラさんの技に脱帽です。
ひとまず、着陸成功です。基地のスタッフも、ノースポールの乗組員も、一気に緊張が解れた感じです。
「やー、良かったなー。精密操縦モードがきちんと機能して。早速、ログの解析しとかないと。」
鵜の木さんはウキウキ顔です。ノースポールが実際に動いた時の記録は、これまでのテストでも集めてきましたが、まだまだ不足しているのです。特に今回は、思いがけず、通常とは異なる条件下での、ノースポールの挙動を記録できたはずなのです。技術担当としても、とてもありがたいことなのです。
なお、精密操縦モードというのは、ノースポールの操縦系の機能のひとつで、全長300mのノースポールの巨体を1mm単位で、角度なら1度単位で、完全にコンピュータ制御で移動したり姿勢制御が出来る機能なのです。要するに、操縦するパイロットの技量に依存せずに、ノースポールを安全に動かすための機能なのです。
鵜の木さんとしては、今回、ライラさんが、当然、この機能を使ったと思ったようなのですが・・・。
「あの、鵜の木さん。」
不動さんが、キーボードを叩きながら呼びました。
「何?」
「操縦系の操作ログ、ちょっと、見てもらえないですか?」
「えっ、どうかしたの?」
鵜の木さんは、不動さんに言われたとおり、ログを開きました。
「・・・って、あれ? ログが何も出てないや。」
システムのバグでしょうか。あまり、よろしくないことですが、肝心な時にログが取れなかったというのは、開発現場ではあるあるだったりします。
「おかしいな・・・。」
鵜の木さん、システム自身の稼動ログや、システムの設定値も確認しています。
「えっ、まさか・・・、」
鵜の木さん、その事実を知りました。
「・・・全部、手動だったの?」
驚愕の眼差しで、不動さんの方を見ました。
「そうみたいですね。」
「えーーーっ、完全に手動操縦でmm単位の精度でノースポールを動かしたってことなの?」
「そうみたいです。」
「・・・、凄すぎるよ、ライラさん。」
鵜の木さんは、完全にお手上げポーズです。
職人技は、宇宙の果てよりも深いのです。
「じゃあ、お先にー。」
驚きのあまり、呆然としている鵜の木さんの横を、いつも通りの笑顔のライラさんが、悠々と引き上げて行ったのでした。
(おわり - ノースポール、浮上!)
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小杉とライラがどのようないきさつで、ノースポールプロジェクトに参加したのか、なぜ、ノースポールが建造されることになったのか、といった、物語の発端となる話を書いています。
ぜひ、読んで頂ければと思います。
よろしくお願いいたします。
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2024/04/08
はとばみなと
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