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[Side Story] 静かな海の攻防①

■宇宙巡光艦ノースポール
[Side Story]
静かな海の攻防①

シーライオンは、初めての長距離飛行試験を行っていました。まだ、宇宙空間ではなく、地球の大気圏内だけでの試験ですが、未来の技術を使って建造されたシーライオンが長い距離を、長時間、飛行するのは初めてなのです。その意味で、非常に重要な試験なのでした。

現在、シーライオンは、北太平洋を飛行しています。空は晴れて、海は波穏やか。その海上をシーライオンは滑るように飛行していました。

「前方にキスカ島を確認。距離、500。」

 小杉さんが報告しました。

「進路変更、南東に向かいます。」

 ライラさん、操縦桿を僅かに右に切りました。シーライオンは大きく弧を描くように進路を変更し始めました。周囲に見える海面が左に傾いています。

「進路変更完了。西海岸に向かいます。」

テスト飛行は順調でした。シーライオンのブリッジも寛いだ空気に包まれていました。

しかし、そのシーライオンが向かう前方の海中では、静かな攻防が、既に始まっていたのです。

「超高速飛行物体、キスカ島沖で進路変更。こちらに向かってきます。」
「衛星からの情報だな?」
「はい。」

海中に潜んでいたのは、中国が誇る攻撃型潜水艦『潜龍』。その、ミサイル格納庫には、最新の兵器、極超音速ミサイルが発射の時を待っていました。

「よし、予定通りだ。現在の深度を維持。ミサイル発射口、1番、オープン。」
「了解。」

ミサイル発射のため、『潜龍』は、かなり浅い深度まで浮上していました。海上の日差しが、かなり明るく水中を照らし出しています。もっとも、『潜龍』の内部からは、そんな光景を見ることは出来ませんが。

そんな、陽光が揺れる神秘的な海中、やや、遠い位置に、4つの黒い影が潜んでいました。

「敵潜水艦、ミサイル発射口を開きました。」
「音紋がライブラリと一致。中国の攻撃型潜水艦『潜龍』です。」

『潜龍』が完成間もない頃行った、南シナ海での試験運転の際に、同海域で偵察活動を行っていたアメリカ軍の潜水艦により『潜龍』の音紋は採取されていました。

「連中はこちらに気付いているか?」
「いいえ。その様子はありません。」
「攻撃準備に夢中のようだな。全艦、現在の速度で接近。いいか、静かにだ。」
「了解。」

向かってくるシーライオンを攻撃しようと準備する『潜龍』の行動を妨害しようとする、別の潜水艦もいたのです。その数は4。それぞれ、海流を利用して音を立てずに、『潜龍』に接近しつつありました。

アメリカ海軍の攻撃型潜水艦ブルーキャット率いる対潜作戦部隊です。

「砲雷長、準備はできているな?」
「もちろんです。いつでも発射可能です。」
「よし。待機してくれ。」
「ターゲットまで1000を切ります。」

その、4隻の潜水艦は、『潜龍』に対する攻撃態勢を整えていました。

一方、『潜龍』。ブルーキャット艦長の想像通り超高速飛行物体への攻撃準備に夢中で、同じ海中を迫る米国海軍の潜水艦隊には全く気付いていませんでした。

「目標、近づきます。速度、マッハ5。」
「速いな。だが、我が、極超音速ミサイルの敵ではない。いいか、タイミングを逃すな。」

『潜龍』の艦内が緊張に包まれます。何しろ、攻撃目標はマッハ5で飛行しているのです。もちろん、彼らのミサイルはさらに速い速度で飛ぶことが出来るので、攻撃自体は可能です。しかし、発射タイミングを逃せば、目標は、一瞬で遙か彼方に飛び去ってしまい、攻撃不能となるのです。艦長は腕時計を見ながら、攻撃のタイミングを待ちます。

一方、ミサイルの発射を阻止しようとしているブルーキャット以下の潜水艦隊。艦内は緊張しつつも、余裕が感じられる雰囲気です。

「ターゲットまで800。」
「まだ気付かないのか。よほど夢中になっているのだな。」

ブルーキャット艦長は、にやりと笑うと、乗組員に指示しました。

「よし、驚かしてやろう。全艦、ピング、撃て。」

(つづく)


『宇宙巡光艦ノースポール』はKindleで電子書籍として販売しています。

最新巻、発売中です。『未来の宇宙船』によってもたらされた未来の技術を使用した宇宙船、シーライオンが、現代の空で試験飛行を行います。

本 Side Storyで描かれた静かな攻防の『表』舞台について書かれています。併せてお読み頂けると、本作品世界をより深く理解して頂けるものと思っています。

■宇宙巡光艦ノースポール
・第2章 宇宙巡光艇シーライオン
・第1節 静かな海、太平洋

さらに、第1章の4冊も発売中です。
ノースポールの世界がどのようにして始まることになったのか。
小杉さんとライラさんはどのようにして、プロジェクトに参加することになったのか。物語の発端のわかる内容となっています。
是非、お読み頂けると幸です。

全巻、Kindle Unlimitedに対応しています。

なお、『宇宙巡光艦ノースポール』シリーズは、隔週木曜日に、最新刊を発売予定です。次巻は2024年5月2日(木)の発売を予定しています。

乞うご期待。


Kindleの電子書籍は、スマホにアプリをインストールすると読むことが出来ます。

※アプリ自身は無料です。
※電子書籍は、それぞれ設定されている料金でご購入が必要となります。
※ごめんなさい。作者はAndroidユーザーなので、IOSについては苦手なのです。iPhoneにも同様のアプリがあるのだと思います。

以上、よろしくお願いいたします。m(_._)m


この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事などとは、一切関係ありません。

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2024/04/23
はとばみなと

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