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口の形

廃墟のビル
隣り合わせた部屋の窓枠の
それぞれに男と女が分かれていて
向かって左に男、右に女
隔てられたまま話をする

「口の形が変わってるよ?」
「ジーッ、元の方が良かった?」
「いや、こっちの方がいいよ」

そう男が返すと
一筆描きの女の肖像が浮かぶ

内田春菊マンガ風のタッチで頬杖ついて
口をイーッてしている

「あのときは訳もわからずにいて、すまなかったね」

二人のとき、とても淡い微かな瞬き
静かな二人だけのとき
青、とても穏やかな辺りの雰囲気
そこにボワンとした光の灯る
蛍のイメージ
そのひとときを切り裂くように
壁をつたう木の枝が銃弾ではじかれる
それに合わせて芋虫がビシビシ散る、殺虫
遠くで戦場の音がする
世界が終わっているような、人気のなさ
エメラルドグリーンの明るさのなか
それでも僕たちは生きている
もう元に戻ることはないかもしれない
何で生きているんだろうとか
そんなことを色々考えて
現状は良くない、殺伐としている
本当に好きな娘ではないが、いつも傍にいる
主張せずただそばにいる女と
それを、その有難みを解っていく男
励ましてくれている
感謝せずにはいられない

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