まずは3ヶ月のススメ
なんだか朝方からグズグズとしていた娘が、ようやく寝てくれた。先日の検診で8キロを超えた娘を抱く私の右腕はもうすでに痺れてきてる。
4ヶ月。早いもので出産からそんなに経ったかいな、と思う。その反面、まだ4ヶ月しかこの子と一緒にいないのか、と正反対の感情もあって不思議だ。
この前、娘が泣いて「あーハイハイ」と言いながら抱っこする私を見て、友人が「すっかりお母さんだね」と言った。自分としては「すっかりお母さん」という実感がまったくなかったので驚いた。いつになったら実感するんだろう。「おかあさん」と呼ばれたら、だろうか。
そして気づいた。「あ、もう3ヶ月経ったんだ」と。それは私にとって「まずは慣れた」と言っていい状態だ。
ホームシックが終わったとき
学生時代にアメリカに留学したとき、私はとんでもなく重症なホームシックにかかった。それまでは「社交的で外に出るのが好き」だと思っていた自分が、実は変化に弱いのだと思い知らされた。まあそれまでも、学校でのクラス替えのたびにお腹を壊していたし、新しい習い事の前は食欲がなかった。何も変わっていない。
「変化に弱く人見知り、そのくせ好奇心があって外に出たがり」という厄介な葛藤を宿した私は、自分で望んでアメリカに降り立った。楽しむぞ〜とわくわくしていた。
そのはずなのに、サンフランシスコの曇り空にメンタルをやられ、オリエンテーションで最初に声をかけた子とは上手く話せず、完全なるホームシックになってしまったのだ。寝込んだ。
友達もいない、英語も話せない、サンフランシスコは夏なのに寒いし…。今思い返すと「せっかくの留学なのにもったいない〜!」と思うけど、気持ちばかりが焦って、ズルズルとホームシックが続いた。
「あ、ホームシック終わった」
そうふと感じたのは11月だった。夏にサンフランシスコに降り立ってから、3ヶ月が経ったときだ。
ロサンゼルス旅行から戻り、友人と話しているときに急に英語が脳の翻訳機を通さずに出てくるようになった。それまでは日本語で考えて、英訳して、話していたのが、直接、思考を英語で表現できるようになったのだ。
それと同時にサンフランシスコの街や学校の授業にも慣れていたことに気づき、毎日のルーティンが固定されたことで、私の長かったホームシックは終了した。
突然の気付きだった。「とりあえず3ヶ月って本当にあるんだな」と。
私に必要なのは3ヶ月
それから私は新しい環境に身を置くと「まずは3ヶ月」と思うようになった。いまだにお腹が痛くなるし、変化に弱いのは変わらないけれど、少し気は楽になる。
これ、私の場合は3ヶ月だけど、人によって違うんだろうなあ。シャキッと切り替えられる人もいれば、数年かかる人もいるのかもしれない。私は小心者のくせにお調子者なので、少し警戒が溶けてくると一気に慣れる、という特徴がある。
これを知ることができたから、私はあのときホームシックになってよかったと思っている。本当は「初日からバシバシ友達作って夜の街に繰り出す」みたいのをしてみたかったのだが、私のキャラじゃないみたいだ。自分を知るって大切。
子どもが生まれたとき、私はこの「まずは3ヶ月」をすっかり忘れていた。
「産んだら最後、一生付き合わなくては」と震えていた。たしかに一生付き合わなくてはいけないけれど、何もわからずあたふたしていた子育ても、慣れるときは来る。今は秒速で乳を出せるし、おむつ替えも手慣れたものなのだ。いまだに長袖に小さな腕を通すのは苦労するけど(娘はいつも強い力で抗ってくる)。
まずは3ヶ月。それをいつのまにか通り過ぎていた私たちは、ようやくこの関係、この生活に慣れたのだと気がついた。
でもそれは「赤ちゃんとの生活」、つまり授乳やオムツ替えに慣れただけ。娘の状態はどんどん変わっていく。慣れた頃に、また次のステップに変化していくんだろう。
次は離乳食が始まって、娘は歩き回るようになって、おしゃべりが始まって。楽しみなんだけど、はじめてのことは不安だらけだ。
だから私は「まずは3ヶ月」を繰り返していかなければならない。また慣れるまで、ああでもないこうでもない、と悪戦苦闘しながら進んでいくんだろうなあ。
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