出産コワイ
きれいな白い部屋のなか、壁に向かって大きなイスに座る。下半身には何も身に着けていない。すこし羞恥心。「はい、動きますよー」という声と共に、イスが倒れて回転し出す。緊張。下半身部分だけがカーテンの向こうに飛び出す形で止まったかと思えば、おもむろに脚の部分が開き出す。不安!
なんだ、この体勢は。この体勢は、産婦人科での内診の体勢です。男性陣は経験したことないのではないでしょうか。もし万が一、機会があるなら一度、座ってみてほしい。あの恥ずかしさ、あの緊張、あの不安。
ちなみに私は何度もこの体勢を経験してきた。婦人科検診でも、これまでの妊婦生活でも。ただ出産予定日を2週間後に控えたこの日、この体勢でいつもと違う感覚が舞い降りてきたので、何も考えずここに記しておきたい。
その感覚とは「恐怖」だ。それも出産に対する、半分リアルな、半分想像の恐怖。「じゃあちょっと、内診しますね。息吐いて~」と言われて、助産師さんが手を突っ込んだ瞬間、「あ、待てよ、これは」と気が付いてしまった。
助産師さんがちょっと手を入れただけでも、この恐怖。痛くはないけれど、緊張で身体がこわばるのがわかる。それを、このおなかの中のヒトが通るって?普通に考えて無理に決まっている。なぜ誰も何も言わないのか。なぜ人間はこんな形で作られてしまったのか。なぜ長い歴史の中で進化してこなかったのか。子孫繁栄のために、もう少し気軽な感じで産み生まれる仕組みを作るべきではなかろうか…。
そんな無意味な進化論を考えているうちに、あっという間に内診は終了した。たった5分程度。出産はこの何十倍もの時間がかかるという。目眩。
これまでも友達と「出産コワイよね~」と話すことはあった。あの狭い穴を小さいと言えどもヒトひとりが通るという、構造上の不可思議さも理解していたつもりだった。しかし想像などというものは所詮、脳内でのイメージにしかすぎない。そして今でも、それは想像でしかない。
ちなみに、その恐怖を母親に打ち明けたところ「ああ、そうねえ…」と慰めてくれるかと思いきや、どれだけ出産がこわいか、痛いかという話をしてくれた。そうじゃない、それが欲しかったんじゃないよおかあさん、逆効果。
あと2週間のうちに、私はまたあの体勢に戻る。次はどんな気持ちになるのだろうね。今はとにかく「出産コワイ」という素直な気持ちに向き合う、この2週間を楽しみたいと思う。楽しめない。コワイ。
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