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「羅生門の時間」(瀬川雅峰『辰巳センセイの文学教室〈上〉 「羅生門」と炎上姫』より)

忙しい先生のための作品紹介。第21弾は… 

瀬川雅峰「羅生門の時間」(『辰巳センセイの文学教室〈上〉「羅生門」と炎上姫』第2章 宝島社 2021年) 
対応教材      『羅生門』 
ページ数      112 
原作・史実の忠実度 ★★★☆☆ 
読みやすさ     ★★★★★ 
図・絵の多さ    ★☆☆☆☆ 
レベル       ★★★☆☆ 

作品内容 

 高校教師の辰巳がさまざまな事情を抱える人々と向き合い、解決していく小説です。各章では『舞姫』、『山月記』などのストーリーに重なる形で、生徒達の物語が進んでいきます。今回は、そのうち『羅生門』がテーマの第2章を紹介します。 

 本章では、バスケ部のマネージャーになった生徒が、人間関係を理由に嫌がらせを受けます。辰巳センセイはその原因を探り、『羅生門』のストーリーと絡めながら解決していきます。 

 また、本章は第2章ですが、作中での時系列では本章が最初です。そのため本章だけ読んでも内容は十分理解できます。女子生徒が男性教師に好意を寄せるなど、やや不健全な設定も含みますが、展開が早く話し言葉も多いのですらすら読み進められます。 

おすすめポイント 高校における「傍観者の利己主義」

 本書の魅力は、何と言っても『羅生門』と本書のストーリーが重なるところです。『羅生門』のテーマである「エゴイズム」や「傍観者の利己主義」というキーワードを手がかりに、『羅生門』の物語と本書の物語が重なっていきます。その見事な構成は、教員でもある作者・瀬川氏の授業を受けているかのようです。 

 その構成の中心を担うのが、途中で挟まる辰巳センセイによる授業場面です。『羅生門』のストーリーが辰巳先生によりわかりやすく解説され、授業の後には、『羅生門』のその後を考える課題が出されます。授業のエッセンスが簡潔にまとまっており、自分自身が国語の授業を受けているような楽しみも味わえます。 

 個人的には、本書を通じてのヒロイン・円城咲耶が「咲耶姫」と呼ばれること、第1節のタイトルが「写真を三葉見たことがある」であることなど、国文学好きにとってのお楽しみポイントがちりばめられているのも見過ごせません。 

授業で使うとしたら 

 本書は物語全体が『羅生門』と重なるところに真価があるので、どこか一部を切り取って授業で扱うよりは、ぜひ生徒に全体を読んでもらいたい作品です。作中にエッセンスは入っているものの、中には細かい記述や解説も含まれているので、授業で『羅生門』を学習しながら併行して読むことをおすすめします。 

 一部だけを用いるのであれば、その中でも先に述べた授業の場面 (P138~142,158~162,181~185)を、『羅生門』の理解を助ける補助教材として用いることもできるでしょう。また、作中で示される課題の一例(P201~204)も簡潔に書かれているので、授業で類似した活動をする際の参考にもなるかもしれません。 

第一章「舞姫の時間」の紹介記事はこちら


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