森見登美彦訳「竹取物語」(『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集03』)
忙しい先生のための作品紹介。第56弾は……
森見登美彦訳「竹取物語」(『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集03』河出書房 2016年)
対応する教材 『竹取物語』
ページ数 49ページ
原作・史実の忠実度 ★★★★☆
読みやすさ ★★★★☆
レベル ★☆☆☆☆
生徒へのおすすめ度 ★★★★★
教員へのおすすめ度 ★★★☆☆
作品内容
小説家の森見登美彦が『竹取物語』全文の訳を手がけた作品で、古典作品を現代語の小説の形式で楽しむことができます。本作が収録されているのは、作家の池澤夏樹が有名作家たちに古典作品の新訳を依頼して編集をした「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」シリーズの第3弾です。本書には「竹取物語」の他に、川上弘美訳の「伊勢物語」、中島京子訳の「堤中納言物語」、堀江敏幸訳の「土佐日記」、江國香織訳の「更級日記」が収録されています。
『竹取物語』の内容に加筆や修正は入れずに現代語に直す忠実さはありつつも、登場人物の人物像に合わせて台詞の言い回しを変えるなど、現代語の小説として楽しめる工夫も織り交ぜられています。
おすすめポイント かぐや姫と結婚したくて必死な男たち
登場人物に合わせて言い回しを変える本作において、特に面白さを感じたのはかぐや姫に求婚する5人の貴公子の場面です。かぐや姫から、手に入れることが難しい品をそれぞれが持ってきたら結婚を受け入れると言われた貴公子たちは、様々な策略を練って品を手に入れようとします。その必死さに、どこか滑稽さを感じられるのが森見版「竹取物語」の特徴です。
例えば燕の子安貝を探すことになった中納言石上麿足は、始めは家来に燕の巣の中を探させますが見つからず、しまいに自ら巣の中を探すことにします。この場面、原文では
とあり、室伏信助訳『新版 竹取物語』(角川ソフィア文庫 2001)の現代語訳では、
と訳されています。
一方で森見登美彦版「竹取物語」では、
と書かれています。大まかな内容は変わっていませんが、「誰ばかり覚えむに」を家来たちに直接的に不満をぶつける台詞に変えたり、台詞の最後に「!」を付けたりと、手に入らないことに意地を焼いて興奮している中納言の様子が見て取れます。
中納言以外の貴公子も同様に、難題に手こずり、慌てふためく様子が色濃く表現されているところが面白い作品です。
活用方法
本作は、現代語の小説のように古典作品を楽しめるところが特徴です。『竹取物語」の全体のストーリーを知りたいけれど、いきなり古典で読むのは難しそう、という方にはもってこいの作品です。
「おすすめポイント」で、本文の一部を取り上げて古典の現代語訳と比較をしましたが、一般的に古典の授業で使う現代語訳の書籍に比べると意訳の多い小説です。古典を1文ずつ読んでいく際の現代語訳として使うのは適していないかもしれません。
しかし、古典を楽しく読むきっかけや、大まかな『竹取物語』の展開を把握するためなどの目的を持って生徒に紹介するのには、非常に適した作品だといえるでしょう。
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