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『三月のライオン』『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』『ミナリ』『ノマドランド』

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3月4日
アップリンク渋谷にて矢崎仁司監督『三月のライオン』を鑑賞。
名前は聞いたことあるけど(漫画『3月のライオン』が有名になり過ぎてしまったが)、観たことなかった作品だったので、一度スクリーンで観てみたかった。そういえば、アップリンク来たのは岩井俊二監督の『8日で死んだ怪獣の12日の物語』を観て以来かな。
物語は記憶喪失になった兄、兄にずっと好意を持っている妹。彼女は記憶を失っている兄に恋人だと嘘をつく。兄が記憶を取り戻したらその前から消えることを決めて。
近親相姦の話ではあるのだが、イメージショットみたいシーンとかが多く、物語というよりは映像で進んでいくような。橋を渡って帰ってきたり、鏡に映る自分だと、ビルや家の解体など象徴的なシーンが繰り返される。
アイスという名前の妹が不思議な、ボブカットでかわいいと言えばかわいいけど、公衆電話に自分のポラロイド写真貼って、その横で待っていて写真を持ってきた男に売春していたり、その辺はちょっと岡崎京子『pink』的なものを感じたりはした。
最終的に二人は結ばれるが、記憶を取り戻してしまう兄。でも、ラストシーンはその時にできたであろう子供の出産シーンだったりして、感情移入がいろいろしにくいよと思った。しかし、観終わってあの生まれてきた赤ん坊が観客である僕たちのような気がしてきて、赤ん坊の人生の物語のプロローグがこの『三月のライオン』だったのかと思える部分もあったりした。


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3月9日
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』をTOHOシネマズ渋谷にて鑑賞、そして終劇。
アニメ放送時に中二だった我らリアルシンジ生代も今年40代に突入。未完ではなくケリをつけて終わったからいいんじゃないかなあ、と思った。「平成」って、メンタル弱かったけど、まあふりかえればよい時代だった気はする、そんな『シン・エヴァ』観た感想。
やっぱりエヴァンゲリオンが好きとかではなくて、エヴァ語ってる人が、その現象がおもしろいな、と思ったんだろうな。あとかつてのリアルシンジ世代だと結婚してるしてない、子どもがいるいない、その時期とかも感情移入できるかできないかに響きそう。
観終わっていちばん思ったのは、つうか「真希波・マリ・イラストリアス」のあの設定どういうことになってんの? スタッフロールに神木隆之介の名前あったけど、なんの声やってたの? だったが、神木君に関しては下記の宇野さんのnote読んでわかった。でも、それもネタバレに含まれるっていう。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」についての雑感(今日における虚構の価値について)
https://note.com/wakusei2nduno/n/n2fd22e066c8d

宇野常寛さんのネタバレ全開の記事を読む。僕が感じた「平成」感は、ここで書かれたことがそう思わせたのだろう。
西島大介さんの漫画『I Care Because You Do』という作品は、90年代にいた3人の神(庵野秀明、YOSHIKI、リチャード・D・ジェームス)についてのものだった。『シン・エヴァ』はゼロ年代の終わりに西島さんが90年代のサブカルを、自身に影響を与えたものについてのある種私小説的な作品としての『I Care Because You Do』で描いたものの、その手前で終わっていると僕には思えてしまった。だから、庵野さんにとって、いや僕らにとってようやく「エヴァ」が代表する「平成」が終わったんだということ、しかし、残念ながら僕らはもう「令和」の時代を生きている。

新劇場版エヴァンゲリヲン 真希波・マリ・イラストリアス=安野モヨコ説 エヴァンゲリオン
https://74196561.at.webry.info/201312/article_30.html

10年前に書かれた「真希波・マリ・イラストリアス」についてのブログを読んでみたら、今回の『シン・エヴァンゲリオン』のオチまでしっかり当てていた。すげええ!
と思いながらも、自分の分身(庵野監督にとってのレイやアスカも含む)ではなく他者を求めた庵野監督ということに気づいていた人はわかっていた話なのかもしれない。
同世代が『シン』を見て通り過ぎた景色だなと思うのは感覚としてはわかるものの、独り者で子供なしの自分は結局パートナーとしての安野モヨコに出会っていないのだよ、と思うわけで違った感触なわけですが。


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3月20日
『ミナリ』をTOHOシネマズ渋谷にて鑑賞。
前年の『パラサイト』みたいに作品賞取れるかと言ったら取らない気はした。だが、今アメリカでアジア系の移民がターゲットにされている事件もあったりするから、その辺りの時代背景も考えるとわからない。
1980年代のアメリカのアーカンソー州に韓国系移民のジェイコブ一家が農業で成功するために引越ししてくる。
実はジェイコブってカルフォルニアとかで鶏の雛のオスメスの鑑定を仕事にしていたみたいで、初生雛鑑別師みたいなことをしていたんだというのがわかる。
祖母の兄が初生雛鑑別師で1939年にロサンゼルスに日系移民の人に呼ばれて一年過ごして、帰国してすぐにイギリスにいった。しかし、第二次世界大戦が始まると日系移民の人たちは強制収容所に移送されて、二世の人たちとかはアメリカ人として日本と戦ったという歴史がある。そのため、日系移民の人たちは土地も奪われていて、戦後に多くの人がロサンゼルスに戻ってくるというわけではなかった。一部の人が戻ってきて現在の「リトルトーキョー」を復活させたけど、かつての規模ではない。その辺りにジャニー喜多川氏の父が僧侶だった高野山真言宗米国別院も残っているが、おそらく戦前から場所は変えられていると思う。
日系移民がいなくなったのもあって、韓国系移民の人が初生雛鑑別師のような仕事をやるようになったのかな、同じアジア人だし手先が器用と思われていたりするのかもしれない。その辺りのことは調べないとわからないけど、戦前は日本の初生雛鑑別師はオスメスの正答率は世界一ぐらいで重宝されていた。
あと、観ながら「初生雛鑑別師」については描いていないので、そこのパイはまだあるなと思った。
ジェイコブが息子のデイビッドに雛のオスは美味しくもないし役に立たないから殺されるんだって話をしていて、俺たちは役に立とうみたいな話をしていた。この辺りはアメリカという現実が重なっていたのかもしれない。
この作品に話を戻せば、1980年代のアメリカだけど、希望を胸に成功しようと奮闘する移民の家族の姿に、フロンティアを求めたかつてのアメリカ移住者たちが重なるし、時代的にも近過去であることがより通じるんだろう。
物語のキーマンはジェイコブの妻・モニカの母のスンジャでもあったりして、家族の話になっている。また、子供は長女のアンと長男のデビッドがいるが、デビッドは心臓に疾患があり、走ったり無理しないように親から言われている。末っ子の彼がマスコット的な部分もあるが、健康な長女がわりとないがしろにされているように感じたりもした。
監督のリー・アイザック・チョン自身の体験がかなり反映されているみたい。彼は『君の名は。』のハリウッドリメイク版を監督するらしいので、今後名前がより知られていくと思う。
「ミナリ」というものが象徴すること、祖母とジェイコブ一家の関係、移民が母国ではない国で生きるという意志に「ミナリ」がかかってくる。そういう意味ではすごく手堅くしっかりとした作りになっている。ただ、最後の方の大きなシークエンスとかもどうも心が揺さぶられなかった。
「A24」制作のものはこの数年でとりあえず観にいくようにしているんだけど、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』『WAVES/ウェイブス』が思いの外響かなかった。『mid90s ミッドナインティーズ』はすごく響いたけど。


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3月26日
TOHOシネマズ渋谷にて公開初日の『ノマドランド』鑑賞。
金獅子賞も取ったし、今年のアカデミー賞最有力と言われているので期待値は高かったが、あまり響かず。『ミナリ』もだがこちらも開拓者であったりフロンティアを目指すという共通項はあった。
『ミナリ』はかつてのアメリカの姿を80年代の韓国系移民家族を通して見るものであり、『ノマドランド』はリーマンショック以後の新自由主義が支配している世界でかつての価値観から離れて生きる老女を中心に描いている。
どちらもトランプ政権が4年続いたからこそ出てきた作品のような気もする。トランプという国難が過ぎ去るかと思いきやコロナ禍がやってきた。日本だって安倍首相がいなくなっても腐敗したものはそのまま腐り続けながらそこにコロナ禍とどう考えても今やるべきではない東京五輪を強行したくて仕方ないのだから多難ばかりだ。日本からも『ミナリ』や『ノマドランド』的な開拓やフロンティア精神を描くものが作品として出てくるかと言われたらたぶん出てこない。そもそも国の成り立ちが違うのだから。

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