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「進撃の巨人」最終巻の追加4ページと「進撃のスクールカースト」伏線回収

 マガポケ(漫画アプリ)で「進撃の巨人」最終話を読んだ感想を以前書いたが、最終34巻においてラストに4ページが追加されていた。さらにコミックス版巻末にある「進撃のスクールカースト」が本編とリンクしていた。ネタバレを含むため、未読の方は要注意でお願いします。(小野堅太郎)

 漫画が連載時と違ってコミックス化(単行本化)されるにあたって、修正・加筆されることはよくある。トップ写真の進撃の巨人最終巻の背景にある名作「ガラスの仮面」は大幅加筆(もはや書下ろし)で有名な作品である。古くは、小説が新聞連載時から製本化されるにあたって大幅加筆修正されることはよくあった。漏れなく「進撃の巨人」も加筆されたわけだが、わずかラストの4ページは、連載最終話にモヤモヤしていた私を納得させるに十分な最高のラストを提供してくれた。

 モヤモヤの理由は何だったかというと「ユミルが巨人の力を得る樹(ユグドラシルと思われる)」の説明が無かったことが大きい。また、第一話タイトルの「二千年後の君へ」という謎のタイトルが、最終話をどう読み解いても、単に「ユミルの愛の理解」といった曖昧なものでしか説明がつかず、他の伏線回収に比べて肩透かし感があったためである。あともう一つ、本編における未来回想シーンで、コミックスおまけの「進撃のスクールカースト」に出てくるキャラクターが小さーく掲載されていた、という伏線が回収されていなかったのも気になった。これについては、「作者のおふざけ」で納得していたのではあるが・・・。

 この3つの違和感は最終巻加筆により回収されたといってよい。

 最終話では、主人公エレンは巨人の力を自分一点に集めて世界を崩壊させていたが、仲間であるミカサとアルミンによって討ち取られる。アルミンは世界の再生を目指し、一方、実らなかったエレンとの愛を抱えて生きるミカサは、幼少時代の思い出の木の根元に彼の小さな墓を作る。涙をこぼすミカサのもとに白い鳥が舞い降りて、その鳥にエレンの思いを重ねて物語は終了した。連載では、ここで終わっていたのである。

追加4ページにセリフはない

 1コマ目は、小さな子供とそれを抱えるマフラー(ミカサのトレードマーク)を着けた女性、そして男性。3本の花が手向けられている。2コマ目は大きく、木は巨大化し、背景には19世紀頃のモダン建築が並んでいる。一台の車いすとマフラーを着けた老婆、そして複数の家族と思われる人たちがその後ろに並んでいる。次ページ3コマ目では、老婆の手で1輪の花のみが手向けられる。4コマ目の小さなコマで、マフラーの老婆が棺に花で埋め尽くされたカット。5コマ目で木は捻じれた巨大な樹木となり、小さな墓は飲み込まれてしまっている。背景の街には高層ビルが立ち並んでいる。しかし、空には爆撃機と落下する爆弾の影、樹の根元には迎撃ミサイルが配置されている。6コマ目では、ビルが崩壊し、遠い丘に一本の樹が佇んでいる。

 3ページ目をめくると、樹はさらに巨大化し、周囲は森となっている。そこへ犬を連れた武装した少年がやって来る。4ページ目、巨大化した木の根元から天辺までの俯瞰図。まさしく、「ユミルが巨人の力を得た樹」ユグドラシルとなっている。そこには、巨人の力をまとめたエレンの首が埋まっており、妖しく黒ずんだ樹の入り口が新しい物語の始まりを予感させる。

 エレンは世界を破壊した極悪人であり、その秘密の墓に花を手向けるのは、ミカサとアルミンとその子供だけであろう。アルミンが死んだ後もミカサは墓参りをするが、彼女もまた亡くなる。街は発展するが、また人々は争いを繰り返し、世界の中心たるユグドラシルへ足を踏み入れる者に巨人の力を授ける時を待っていた。ということである。

 この4ページがなければ、エバンゲリオンに近いモヤモヤ状態になっていたと思われる。エバンゲリオンは4半世紀使って物語を再構築させてようやく終わったが、進撃の巨人はコミックス化での「わずか4ページの追加」で終結させた。このようなことを計算づくでやったのか、偶然なのか、恐ろしい作家である。2千年周期で訪れるユグドラシルを巡るお話であったと、納得した。

 さて、この恐ろしい作家はコミックスおふざけスピンオフ「進撃のスクールカースト」を本編に小さな一コマ登場させてしまった伏線も回収する。2ページの内容だが、エレン、ミカサ、アルミンの三人が「進撃の巨人」の映画を観終わって外に出てきたという設定である。面白いことに劇中で語られる内容は、「シン・エバンゲリオン劇場版」についての巷の感想そのままである。これもまた、「同一世界線上での事象ループ」であった。

 ヒトの歴史は繰り返される。「同一世界線上での事象ループ」は歴史を学べば当然出てきて、「今」何が起きているのかを把握することができる。進撃の巨人は「歴史は繰り返される」を北欧神話をベースにして独自ファンタジー世界で魅せてくれた。2度、結末を楽しませてもらいました。諌山創先生、ありがとうございます。

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