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基礎実習のオンライン化を考えなければいけない(その2)

 その1で基礎実習のオンライオン化は避けられないとの論旨を書いた。もちろん2020年の世界的災禍が収まって以前通りの実習環境に戻ることもある。様々な可能性の共通項から具体案を考えてみる。(小野堅太郎)

 私の受け持つ生理学実習は、「唾液」「味覚」「咀嚼」「血圧」「心電図」の5つの項目からなり、研究室(分野)外の先生も参画してそれぞれに最低1名の教員(総5人以上)で行っている。実は生理学の実習を必ずしなければならないという決まりはなく、各大学の教員(主に担当教授)が必要と設定した任意の内容が行われている。各大学で受け継がれ、修正され、改変され、「伝統・特色」となっている。私は前任教授(稲永名誉教授)が設定されたものを丸々引き継いでいる。

 生理学は解剖学と並んで医学の最も基本的な学問体系である。医学部、歯学部では別科目として教授されるが、看護系では「解剖生理学」として教えられる。生理学実習での各項目は「将来、臨床でやるであろう、もしくはやるかもしれない内容の実技の習得」を目指している。つまり、「唾液能検査」「味覚検査」「咀嚼能検査」「血圧測定」「心電図測定」と読み替え、それぞれの評価・診断を行う。講義では検査・測定原理について解説するにとどまる。実習では、それを実際にやってみるということになるのだが、出てきた結果を評価するとなったときに、解剖学と生理学で習ったあらゆる知識を利用しなければいけなくなる。座学から実学(臨床)への橋渡しと位置付けている。よって、試験は筆記ではなく、実技テストを行っている。(2020年は実施困難であろうから、筆記試験とするのはやむを得ない。)

 では、各検査・測定法について説明動画を作製してオンラインでも閲覧できるようにしたとする。ん?、これは公開してもいいのでは?歯学部学生のみならず、他の医療系学生、はたまた現場の医療人にも参考になるのではないか。血圧測定などは既にそういった動画コンテンツが存在するが、本学の実習用に最適化された動画を公開して全く問題はない。より基礎的な実験手法に関しても、公開動画とすることは同様に社会的貢献が大きい。よって、実験や検査・測定法は、公開動画とすることで、学生の実習教育を超えた教材として利用できる。​この動画にも簡単な原理についての解説も含めるべきであろう。

 実習では、実験・検査・測定をしたうえで、様々な条件を変えて測定を繰り返す。例えば、血圧測定ならば、上腕を上に上げて測定したり、スクワット運動をしてから測定したり。そうすることで、得られる結果は変化し、実習班(20名強)のデータをまとめることで、統計的有意差を出すこともできる。残念ながら、自宅で行うには必要な器具がなく、オンラインコンテンツの提供は「学習の補助」にはなっても、経験に勝ることはない。ただし、「実習の復習」には役に立つ。つまり、実習結果のまとめと考察をオンラインコンテンツ(動画や文章)にすることは無駄にはならない

 ここまで述べてきて言えることは、基礎実習の多くをオンラインコンテンツにすることは有意義であり、実習教育を超えた利用法が考えられる、ということである。コンテンツの質は、講義動画よりも高いものが要求されるためハードルが高いが、講義よりも社会的貢献は大きい。しかし、経験という「非言語的学習」はオンラインでは補えない。シムレーターの開発やVR技術の発展により補える可能性はあるが、研究の必要な実験段階の技術である。

 というわけで、こんな文章を書いたために実習のためのオンラインコンテンツを作製しなければならない状況に自分を追いやってしまった。講義動画の作成後にこの膨大な作業をこなさなければならない。


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