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ペストと銀の神聖化:狼男伝承から学ぶ

 「ふんがーふんがーフランケン、ざますざますのドラキュラ」ときたら、怪物くんエンディングソングの流れで「うおーでがんすの狼男」となる(ドラマではなく大昔のアニメです。)。俺たち怪物三人組の最後、狼男について考察してみる。(小野堅太郎) 

 前2つの記事で、フランケンドラキュラは19世紀、ドラキュラの元ネタのバンパイア(吸血鬼)は早くても14世紀ごろからの伝承怪物という話をした。それからすると狼男の起源はかなり古い。紀元前5世紀のヘロドトスの「歴史」に、ネウロイ人(古代ギリシャ黒海の北に住む民族)が年に一度オオカミになるという伝聞がある(参考:Wikipedia)。このネウロイ人たちの風習が、北欧神話のオオカミや熊の毛皮をまとった狂戦士「ベルセルク」(三浦健太郎氏の漫画の元ネタ)になったのかもしれない。この怒れる暴れん坊ベルセルク伝承が、中世ヨーロッパでの恐怖・悪魔の象徴としてモンスター化した。そして、現代では映画化により我々の知るビジュアルイメージへと落ち着いたと考えられる。

 オオカミは基本的には農作物に害をなすネズミを餌とするため、もともとは神聖な動物(日本では大神)であったろうと思われる。家畜化されたのもオオカミの亜種(?)の犬であり、ネコと同じくヒト社会に溶け込んだ動物である。しかし、グリム童話(1812年~)では「赤ずきん」「七匹の子ヤギ」などオオカミは悪者である。一つ思いついたのは、やはり14世紀のペストである。ペストはネズミを媒介したと言われているが(ネズミのノミという話も最近出てきている)、ネズミも大量に死んだはずである。餌を失ったオオカミが家畜のヤギや羊を襲いだした可能性が考えられる。それまでは恐れる神だったものが、単なる敵となったのだ。そのため、狼男の伝説とオオカミの凶暴化が融合した。さらには、街灯のない真っ暗な夜でも明るい満月の夜に行われた人間の犯罪行為が結び付けられ、魔よけとなる銀でできた弾丸で倒すという話が組み合わされた、と考えると納得いかないだろうか。多毛症や狂犬病との関連も考えられる。

 銀の話が出てきたので、どうして金ではなく銀が神聖化されたのか、についても考察する。非科学的な言い方になるが、人間はピカピカしたものが好きである。金、銀、銅といったピカピカ金属に価値がついて、我々はそれを欲してしまう。その一方、複雑な社会性生活を営む上で法を作り、秩序の中で生きながらも、法をかいくぐって人を殺したいとも思う罪深き生き物である。人を殺すための毒は基本的に苦い。その毒を薄めて、医療人は薬として使用している。だから、良薬口に苦し、となる。古くから味があまりない毒薬として「ヒ素」が使われていた。

 ヒ素は周期表においてリンの真下に位置する原子のため、リンと非常によく似た化学性質を持っている。リンは必須栄養素であり、リン脂質やリン酸といった生体機能に不可欠である。そこにヒ素など来たら、リンと置き換わってしまう。どうもヒ素に置き変わるとすぐ分解されて機能が発揮されなくなるらしく、生き物は死んでしまう(殺鼠剤、殺虫剤としても使われる)。殺される対象者は、往々にしてピカピカを持っている人なので、この毒を恐れたのは想像に難くない。では、どうやって身を守るのか。

 ヒ素と言っているが、実際の毒物としては亜ヒ酸(三酸化二砒酸)であり、水に溶けて毒性を発する。これをどうやって作るかは詳しくは言わないが、硫砒鉄鉱から作られるため不純物として硫酸塩が混ざる。この硫黄も必須の栄養素だが、ピカピカの銀と非常に作用しやすく、色が黒くなる。よって、銀食器を使えば食物にもしも亜ヒ酸が入っていれば、黒くなって毒味せずともわかるのである。ただし、硫黄なので、卵にも反応することをお忘れなく(硫黄温泉も)。そうしてピカピカな人たちに銀食器が広まっていき、毒という魔物を封じ込める物質として神聖化されることになる (レ・ミゼラブル)。ドラキュラまで銀の十字架を恐れるようになる。この文化は第一次世界大戦後も続いていたようで名作「日の名残り」(ブッカー賞のカズオ・イシグロ)ではイギリス名家の執事が毎日銀食器を磨いているさまが描かれている。

 余談だが、近年、銀イオンが消臭、抗菌に有効であるといわれ、様々な商品が出ている。銀と銀イオンはちょいと違うので、銀そのものが効果を発揮するわけではないことに注意が必要である。まあ、銀はイオン化傾向が高めなので、わからないではない。イオン化傾向が高いということは酸化されやすい(腐食されやすい)となります。基本的に、金属イオンは抗菌作用を持っています。生体内に埋め込むチタンがありますが、これもイオン化傾向が高めです。え?口に埋め込んだら腐食するのでは?あ!唾液でイオン化するから抗菌作用があって、、、とならないように(まじめな学生ほど、これに陥ってしまう)。チタンはすぐに表面に酸化膜を作り、深部に酸化が進行しないため、イオン化しにくい(腐食しにくい)材料です。安心して、インプラントしてください。

 狼男とあまり関係ない話になりましたが、マナビ研究室なのでちょっとは科学を入れてみました。

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