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日本の教育を考える

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他のクリエイターの皆さんの記事も含めて、教育に関する内容をまとめています。具体的な教育方法の提案、オンライン講義について、教育とは何かといったさまざまな議題について議論します。教… もっと読む
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#大学

教養系コンテンツの正確性はどこまで担保されるべきか

 種々の学術系コンテンツ(動画や記事)をネット検索し、容易に学べるようなったこの時代。その情報の正確性はどのレベルまで求められるのかを考察したい。(小野堅太郎)  オンライン学習を余儀なくされるこの時期。多くの教養系動画コンテンツが上がってきている。中田敦彦さんなど芸能人の動画を見させていただくとレベルの高さに驚かされるが、用語の使い方に間違いもあり、訂正したい衝動に駆られる。ネット記事を見ていたら、こういった間違いが訂正されずに拡散放置されている状況はよろしくないというも

大学カリキュラム編成は、結構難しい: 大学のお仕事①

 小・中・高校もそうであろうが、大学も時間割を組むのは難しい。何が難しいのかをご紹介してみる。(小野堅太郎) 科目間の連携・順番 まず、学問は必ずしも独立していない。国語は全ての学問の学びに必要なので、教科書を読める人は全ての学問を自学でき、より深くまで学ぶことができる。英語が苦手な人、特に英訳で点が取れない人は、英単語を暗記できていないことよりも国語が不得手であることがある。中学校まで「理科」として一科目に分類されていたものも高校からは、化学、生物、物理、地学に分かれます

大学でDXは可能か

 DXとはデジタルトランスフォーメーションのことで、組織を意識改革した上で、デジタル化により業務の効率化を図ることである。公立大学にDXは可能なのか。考えてみた。(小野堅太郎)  「いや、大学にDXは必要ないでしょ」という人がいるかもしれないので、始めに反論しておく。オンライン講義が普及し、LMSでの講義記録が蓄積されるようになった。数ヶ月前から印鑑が多くの書類で不要になった。多くの大学では年末調整がオンライン入力になった。うーむ、それぐらいだ。依然として、なんの役に立って

大学システムの硬直性

 人件費削減に踏み込む厳しい大学財政とは裏腹に、大学の質の向上もまた要求されている。この矛盾した状況を切り抜ける方法はあるのかないのか。ちょっと考えてみた。(小野堅太郎)  社会から距離を置いた「象牙の塔」とも揶揄された大学は、改革のため2004年に国立・公立大学は法人化された。法人化と言っても、大学予算は補償される(毎年少しずつ削減されるが)。学長の権限を強化して以前より弾力的な組織・予算運営ができるようになった。民間の経営システムを大学組織にも取り入れて各大学間で切磋琢

ブレンデッド生理学実習は成功したか!?:2020年オンライン大学教育を振り返って③

 2020年の最大の苦労は、生理学実習のオンライン化でした。1ヵ月ほど徹夜で動画編集しました。その他のコンテンツ作成から、出席管理、発熱者対応、感染対策、三密対策、二回繰り返し実習など、忙しくてあまり記憶がありません。記憶を絞り出してみます。(小野堅太郎)  ブレンデッドとは、オンラインと対面を交互に組み合わせた形式のものです。九州歯科大学での2020年度生理学実習は、午前中にオンラインによる自宅学習を行い、午後は対面で実習テストを行いながら同時に実験データを回収し、後日オ

東大と日本高等教育の変遷

 東京大学といえば、日本で一番入学試験の苛烈な大学です。もうそれだけで特別なようですが、近代日本の発展において不可欠な組織であったという話をします。(小野堅太郎)  日本で最初の大学といえば、東大です。過去の記事で、13世紀イタリア・フランスで大学が生まれたという話をしました。私塾のような小さなものから規模が拡大し、教員・学生の集まりからなる組合(ユニベスシタス)が組織され、ユニバーシティとなりました。日本での「大学」という言葉は、奈良時代の律令制の中で設置された官僚育成機

成績評価のためのオンライン試験は可能か?

 年明け早々の教授会で「いざという時のためにオンラインでの定期試験を考えておいてください」という指示が出された。そろそろ後期定期試験が行われる。個人的に、今考えているオンライン試験について、ここでまとめておきたい。(小野堅太郎) オンライン試験の必要性? 成績評価は、学生全員において公平でなくてはならない。公平とは、試験前からやり方や採点方法においてあらかじめ周知されていなくてはならない。どこかの大学入試であったように、試験後に裏で男子学生を多くとったり、年齢で切り捨てたり

味覚検査結果から、どんなことが読み取れるか

 味覚実習シリーズ完結編です。さて、全口腔法での味覚検査を行ったわけですが、得られた結果をどのように解析し、結果としてまとめ、それを考察していくのでしょう。九歯大の学生さん達はレポート作成の参考にしてください。内容的には、調理師の方にも是非見ていただきたい結果です。(小野堅太郎)  実習では20種類の味溶液について評価しました。ちゃんとした研究にするには、コントロールの水も試験する必要があります。それぞれについて、LMSにて味の強さ(呈味強度)を評価し、何の味に感じたか(味

大学法人化を検証する③/教育の変化【動画解説】#00017

動画解説 吉野先生と中富先生からの質問が相次ぎ、予定より長い動画になってしまいました。ただ、内容をより深掘りできたのではないかと思います。  法人化が直接影響しているかどうかは難しいところですが、大学の世界ランキングは低下傾向にあります。しかし、明らかに大学教員の教育および社会貢献活動時間は法人化前より延長しています。つまり、大学教員は頑張っているものの世界的な評価には繋がっていない、ということになります。  OECDのグラフでも示しているように、大学進学は世界共通で就職

基礎医学教育は歯科医療に必要か:歯科医療の歴史から学ぶ①

 基礎医学教育は歯科医療に必要かなんて、必要に決まっているのに何でこんな問いかけをするのかというと、「基礎医学」を知らなくても「臨床はできる」からである。これまでエジプト医学から4千年にわたる医学の歴史から歯科医療の変遷について紹介してきた。この観点からいろいろ考察してみる。(小野堅太郎)  日常生活において、例えば自動車の運転。誰もエンジンの構造、ギア、ハンドルのことなど知らなくても運転している。交通安全のルールを守って運転していれば、簡単に人を殺すこともできる道具だが免

医療には理科は3科目必要:歯科医療の歴史から学ぶ②

 古代から中世の医療人たちを見ていくと(マガジン参照)、医学だけでなく、科学全般を取り扱っていることがわかる。科学は中学校までは「理科」といい、高校になってからは「物理」「化学」「生物」と3つに分かれる。医療系学部受験のためには、理科は2科目でいいので「物理」「化学」か「化学」「生物」の2科目選択になるのが普通だろう。果たしてでそれでいいのか。考察してみる。(小野堅太郎)  医療系学部の理科科目の受験は大学によって様々である。九州大学医学部は理科3科目を科すなど独自路線をい

オンライン授業普及後の将来予想

 前の記事で、大学においてオンライン授業はこれからも生き残る、との論旨を書いた。もしそうなったとして、どんな状況になるのかと想像してみた。ちょっと紹介してみる。(小野堅太郎) 1.時間割の枠組みが変わる オンライン授業が継続されるといっても、状況が改善すれば対面授業を復活させる教員も多いだろう。時間割にオンライン授業と対面授業が混在してしまうと、学生は学校に来たり、家に帰ったり、急いで学校に戻ったりと訳の分からないことになる。午前と午後の間に十分な時間を空けて、対面型とオン

オンライン授業は今後も続く

 本学でオンライン授業が4月から始まり、3か月ほどたった。学生登校が始まった現在でもオンライン授業は続いており、全学的にアンケート調査が行われている。光と影が見えてきたので、考察してみる。(小野堅太郎)  1か月前(6月頭)に、「大学でオンライン講義は定着するか」という記事を書いた。せっかく習得した講義の録画・編集能力とコンテンツが今後活かされるのか、という不安が綴られている。1か月前の自分に言いたい、「大丈夫、間違いなく活かされる」と。  小野は時間割で決められた授業開

グラレコの教育利用

 グラフィックレコーディング(通称グラレコ)が教育に有効ではないかと考えている。講義の内容を学生にグラレコしてもらい、学生同士で学習に利用してもらう。この有用性について考察してみる。(小野堅太郎)  講演などに対して、一枚の紙に絵と文字を使って要約をまとめるグラレコが広まりつつあるように思う。学生時代、美術部のある一期上の先輩が絵を使った試験資料を作っていて、非常に勉強になった。文字だけではなく絵が描いてあると理解のスピードが違う。あの資料はもう手元にないが、もしあれば学生