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教育の力 -オリンピックから見えること-

 オリンピックが開催され、すでにいくつものメダルが出ています。
 このメダルの獲得の国別の状況を見ていると、決して人口が多い大国だけがメダルをとっているわけではありません。
 例えば、ラトビアはバスケットボールの3×3で金メダルを取りました。人口は200万人、男子の平均身長は、日本人とほぼ同じです。特に体格的に恵まれているわけではありません。
 スポーツの結果が才能だけに左右されるならば、人口の多い国の方が、有利でしょう。しかし、ラトビアのような小国も金メダルが獲得できているのです。

 ラトビアのバスケットボールの歴史は、詳しくは分かりませんでしたが、1935年の第1回欧州選手権でも優勝していて、歴史と伝統があるようです。隣国のリトアニアもバスケットボールが盛んで、その理由はアメリカへの移民があったとのことです。

 これを、もっと事情がわかる日本のサッカーで見てみましょう。
 高校サッカー界では、その昔に御三家と言われた県がありました。埼玉県、静岡県、広島県です。それぞれ今もサッカーどころとして有名です。
 全国高校サッカー選手権大会の優勝校を出した都道府県は、次の通りです。
  兵庫 19回
  埼玉 13回
  静岡 11回
  広島 9回
  千葉 8回
 このうち、兵庫の優勝は16回が1935年までです。そのためか兵庫は戦前の強豪のイメージがあり、戦後のサッカー強豪という印象は、埼玉、静岡、広島ということになったのではないかと思います。


 さて、才能が地域に偏るということは考えにくいことです。兵庫県や御三家に住む人たちが特別にサッカー向きの能力があったということはないでしょう。
 では、なぜこのような偏りができたのでしょうか。その秘密には「教育の力」がありました。


 サッカーが日本に伝えられたときの初期のサッカーチームは主に師範学校が中心になりました。師範学校というのは、教師を養成する学校です。全国高校サッカー選手権の最多優勝校は御影師範学校で、戦前に11回優勝しています。
 東京高等師範学校(現筑波大学)のサッカー部(当時はフットボール部)が、日本最初のサッカークラブとも言われています。この東京高等師範学校で学んだ学生が、全国へ教師として赴任していきます。その中でも特に熱心な指導者が赴任した先が、埼玉、静岡、広島だったということのようです。
 もしかして北海道に才能がある生徒がいたかもしれません。それでも指導者がいないとその才能を開かせることはできません。

 これをサッカーの日本代表を見ていくとさらに興味深いことがあります。 
 メキシコオリンピックの時のサッカー日本代表は20名ですが、その内訳は、広島県が圧倒的に多く、7人、静岡3人、埼玉、茨城、東京が2人です。やはり御三家が中心です。
 これが、初めてワールドカップに出場した1998年になると大きく変わってきます。その年に代表に招集されたのは30名ですが、静岡が13人と圧倒的に多く、東京が2名で、あとは1名ずつとなっています。
 日本でワールドカップが開催された年は、31名が代表に招集されました。この年も静岡が7名と一番多く、あとは2名以下です。
 これが、2014年になると、ほとんど偏りがなくなっています。一番多いのが東京都の4名で、静岡も2名だけになってしまっています。
 メキシコオリンピック時の選手が偏っているのは、いわゆる高校サッカーの御三家が全盛だったことによるでしょう。東京高等師範出身の指導者の成果です。

 静岡では、1960年代後半、堀田哲爾氏を中心にして、小学生の育成指導システムが作られました。このシステムで育てられた子どもたちがサッカー王国としての静岡を作り上げていきます。その成果は1998年から2002年のワールドカップの時期に絶頂を迎えます。
 そして、日本サッカーのプロリーグのJリーグが発足しました。Jリーグは、プロサッカーチームですが、下部組織を設けて少年を指導することを義務づけました。こうして、全国で、質の高いサッカーの指導がなされるようになり、今の代表選手は、特に地域の偏りもなく、日本全国で誕生するようになっていきました。
 このようにサッカーの強豪県、代表を輩出している県、地域の変遷を見てくると、そこには教育(指導者、指導法、育成システム)が大きく関わっていることがわかります。
 これはサッカーに限ったことではありません。いろいろなスポーツで強豪と言われる県、地域が存在することは、そこに質の高い指導法があり、優秀な指導者がいるということです。
 これは、世界全体にも言えることです。きっとラトビアのバスケットボールも、優秀な指導者、育成のシステムが、きっちりとできているのでしょう。
 このような「教育」の視点で、オリンピックを見るのもおもしろいのではないでしょうか。

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