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きみトリ×ラーンネット|10代とトリセツをつくる授業|第5回レポート「観て話す」

きみトリプロジェクトの舟之川です。

この一年、神戸のラーンネット・グローバルスクールで、5・6年生の人たちと「トリセツをつくる授業」に取り組んでいます。この授業は、同校のプログラム「思春期クラス」の一環です。
ラーンネット・グローバルスクール http://www.l-net.com/

10代とトリセツをつくる授業

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』の筆者3人が講師となり、1つの学期を担当します。学期あたり2回の授業を行います。
・授業1回目は担当講師からひとつの「テーマ」についてシェアし、みんなで「実践」や「体験」をします。
・2回目までの期間に、「テーマ」についての「トリセツ」を各々がつくります。
・2回目の授業で、一人ずつトリセツを「発表」します。感想や質問を出し合い、みんなで学びを分かち合います。

詳しい内容は過去のレポートをご覧ください。

初授業のようす
通年授業について
1学期 1回目授業 イヤだとOKについて
1学期 2回目授業 イヤだとOKのトリセツ発表
2学期 1回目授業 心の声を聴く
2学期 2回目授業 心の声を聴くトリセツ発表


3学期のテーマは

「観て話すのトリセツ〜作品を通じて人とつながる」

以下は1回目のレポートです。写真は許可を得て掲載しています。

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3学期へ向けての思い

1、2学期では、自分と他の人との違いを言葉にし、境界線や感情やニーズの概念を知り、コミュニケーションの可能性をみなさんと掘り進めてきました。これらの経験を土台とし、少しステップアップした他者や社会とのコミュニケーションについて考えてもらいたいと考えました。

また、6年生にとってはこのメンバーで共に過ごす最後の学期でもあり、今後のキャリアは一人ひとり異なります。何か次のフィールドで使える道具のようなものを贈りたいという気持ちもありました。そこで、舟之川の本業である「鑑賞対話の場づくり」からエッセンスを手渡そうと決めました。

会場はわくわくハウス

今回の会場は、ラーンネットのもうひとつの拠点である「岡本わくわくハウス」。みんなが朝、六甲山上の「ロッジ」に向かう前に集合し、帰ってきてから解散まで過ごす場所です。日中は幼稚園「バンビーナクラス」のために使われています。「ハウス」という名の通り、木造の一軒家。公民館と自宅の間のような、懐かしさと生活の気配に満ちた、落ち着く空間です。

感染症流行下での実施のため、担当の方と何度も打ち合わせを重ね、考え方や対策をすり合わせた上で決定しました。対面が最善ではあるけれど、子どもたち、保護者、スクール、講師の誰かが少しでも不安を感じるのであればオンラインに切り替える決断をしようと、こまめに確認をとりました。なんとか無事に開催することができ、本当によかったです。

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まずはかるたから

着くとさっそくみんなが百人一首の散らし取りに誘ってくれました。私が競技かるたの選手と聞いて、大喜びの様子。終わってからも源平戦の対戦を申し込んでくれて、授業以外の時間も一緒に過ごせたのはうれしかったです。腕前もなかなかのもの! 私も本気で対戦しました。

チラシ取り

源平2


私が関西の出身で、みなさんと同じ言葉をしゃべっているのもあり、すぐに距離が縮まる感覚がありました。ラーンネットにいる人たちは、大人・子どもの区別なく、だれもがいつでも正直な「その人としている」ことが印象的でした。その場にいると、私もまた、自分の言葉と自然な感覚を大切にして、のびのびと過ごすことができました。

前半: 作品を鑑賞して感想を共有する

前半は、アニメーション作家で人形美術家の川本喜八郎さんの『鬼』という8分の映画のDVDを投影しました。
http://chirok.jp/product/content2/demon.html
観る前に、「どんな体験をしそうか」(ちょっと怖いかも)と「見どころ」として作者、作品の生まれた経緯、人形の動き・音楽・美術などを伝えました。「怖いと感じたら目をつぶってもよいから音楽だけ聴いてみて」「注意深く観察してほしいから、なるべくだまって観てほしい」とも添えました。

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私が今回この作品でみなさんと「観て話そう」と思ったのは、川本さんの作品が子どもの頃から大好きだということがまずあります。大好きな理由は、とても美しいけれど怖いところ。心の闇や不条理。「人間にはこういうことが起こる」ということをとても美しく描いているところ。

でもこれは私の感想です。みなさんはきっと全然違うところを見ていただろうし、違う感想をもっていると思う。「それを聞かせてほしい」と前振りして感想の共有に入りました。

第一声は「怖かった」が多かったですが、感情を味わったあとは、「その先にあるもの」が次々と出てきました。人形の造作や動き、音楽の効果、音楽と映像のコラボレーション、背景美術などについて。普段からコマ撮りアニメを制作している人からは、撮影手法や技術についての発見も。

人物の心の動きに注目したり、自分の身に同じことが起きたらと置き換えて考えてみたり、疑問が生まれたり。様々な話題に広がるときもあれば、一つの話題が深まったりしながら、目まぐるしく展開していきました。私はひたすら「そんな見方があるのか!」と驚きっぱなしでした。「たった8分の映像なのに、こんなにいろいろしゃべれた!」の声も印象的でした。

休憩時間中に、資料に見入る人たち

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後半:体験をふりかえり、場づくりを考える

前半では「作品の感想」を話しましたが、後半では「作品の感想を話した」ことはどんな体験だったか、ふりかえってもらいました。
「他の人が自分と違う見方をしている」
「気づいていないことに気づいている」
「みんなそれぞれ観ているところが違う」

それらの「観て話す場で起きていること」ってつまりこういうことですね、と共有します。
・みんなで一緒に体験するっておもしろい。
・観て話すといろんな見方があることに気づく。
・好きな作品がもっと好きになったり、苦手意識が変わったりする。
それを重ねていくと、
・作品の魅力もわかるし、人の魅力にも気付ける。
・感想を通して相手のことが少しわかる。自分のことも知ってもらえる。

説明を一生懸命メモを取りながら聞いてくれるみなさん。
授業はさらに、「自分が場をつくるとしたら?」と意識をステップアップしていきます。

●「観て話す」を活用して、たとえば一緒に話したいこと、考えたいことがあるときに、作品を観て話すことで、きっかけをつくることができる。(例:気候危機について一緒に考えたい → 気候危機がテーマになっている映画を観て話す)

●「観て話す」をするときに作品選びがポイントになる。「これは果たしてみんなが観ても楽しめるだろうか、観てよかったと思えそうか」という他者の視点を持つ。

みなさんからは「こういうこと?」「これはどう?」と、どんどん意見や問いかけが出てきます。自分の好きな音楽のこと、作っている動画のこと、これまで見聞きしてきた映像表現など、これまでの経験と今目の前に示されていることをつなげて理解しようとする貪欲さを感じます。

ディスカっしょオン

さらに作品選びのポイントに関して、
「自分は楽しいけれど、感覚的に受け入れられない表現や、知識がないとわからない作品、嗜好が偏っていて一部の人しか楽しめない作品もあるかも」
「作品によっては、観る前に少し見どころや注意事項を伝えることで楽しみやすくなるかもしれない。前半の『鬼』を観るときに私がやってたね?」
と例に出すと、わかるわかる、なるほどと反応していました。

「自分が好き、おもしろいから観て!」のその先の、「他の人にとってその作品はどういう体験になりそうか」を考える。引いて見る、客観的な視点で見る。それを「自分の隣にもう1台カメラを置く感じ」と表現してくれる人もいました。

今回、新しい概念としてみなさんに紹介したのは、次の2つ

「観て話す」を場としてとらえる
作品を観て話すことをめいっぱい楽しむ
一周外側から俯瞰的、客観的に観る目を持つ


自分が「観て話す」の場をつくる
自分の好きなものを紹介する場
輪の真ん中に作品を提示して「みんなと」「観て話す」場

自分の好きなものや身近にある「作品」を通じて人とつながりをもつことについて、みなさんそれぞれの解釈を大切にしてもらえたらと思います。


企画する 「自分が観て話す場をやるとしたら?」

今回の体験を踏まえ、次回3月までに「わたしの『観て話す』のトリセツ」をつくってもらいます。なるべく盛り込んでほしいのは、次の3点。
・みんなで観て話す作品を1つ選ぶ
・その作品を選んだ理由
・観て話すときにどんな工夫があるとよいか

発表のスタイルは、
・発表の形式:スライド、スピーチ、紙芝居などなんでもOK。
・作品の実物やパッケージなど物があればなお良し。
・3分目標・最大5分の持ち時間
としています。

さて、どんなトリセツが出てくるでしょうか。楽しみです。

授業のふりかえり

それぞれ自由に書いてもらったふりかえりシートの中には、鑑賞した作品についての感想と共に、
「その作品についてだけでなく、『作品を話すことについて話す』というのは新しい体験だった」
「(観て話すは)いつもやっていることのような気がするけど、ちゃんとやったのは初めてかも」
「4人いて全員が客観的なことを話すより、主観的×4人のほうがおもしろいということがわかった」
「作品の楽しみ方がひとつふえたような気がする」
「誰かに何かを紹介するのは、やればやるほどうまくなるスキルのひとつ。役に立つスキルだと思う」
「文楽にも興味が湧いた」
など、自分の内側から出てきた新鮮な気づきが書かれていました。

メモには、私が話したことの中で印象に残った言葉や、映画や対話の中からインスピレーションを受けたのか、絵を描いていた人もいました。好奇心や創造のエネルギーが紙面を通じて伝わってきます。

スクールのスタッフ「ナビゲータ」のあおらさんからは、
「明確な言葉としてその場で発言できる人もいるけれど、黙っている人の中でも必ず何かが動いている。刺激を受けて何かが活性化しているけれど、出方がちょっとわかりづらい人もいる。でもみんな素直に観て感じて、こちらが大切に渡したことはしっかりと受け取る人たちです」という補足をいただきました。こうした若い人たちへの眼差しや関わり方をあおらさんから実地で教われたことも、私にとっては収穫でした。

ナビゲータのあおらさんと

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きみトリの私たちにも、常に惜しみないサポートと信頼と愛をくださっているあおらさん。この間、私たちも共に学び合う関係をつくっています。


『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』刊行後、本からはじまる様々な対話の場をつくってきましたが、そのエッセンスを本物の10代に直接手渡しに行けることを本当に有り難く思います。

また、手渡したものをみなさんがするどく感知し、まるごと受け止め、自分のために選び、使ってくれていることもうれしいです。ラーンネットが大切にしているOplysning(オプリュスニング:お互いを照らしあう学び)に私も含まれて、一緒にぐんぐん伸びていることにも、大きな幸せを感じます。

次回は最後の授業。どんな場になるのか、今から楽しみです。

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きみトリの授業にご興味のある方へ

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