絵本で触れよう、STEAMの世界【年中〜小学生向け絵本ガイド】
子どもの「どうして?」「なんで?」に応えSTEAMな学びへの扉を開く、とっておきの絵本。物語や図鑑、インタラクティブな仕掛け絵本まで多様性に溢れた5冊をお届け。
月へ行くにはどうすればいい? 石ってどうしていろんな色がある?
……大人ではなかなか即答できない難問も絵本なら詳しい図解つきで丁寧に教えてくれ、さらに、次の学びの世界へ一歩踏み出すチャンスを与えてくれます。今回は、STEAMの学びにつながる好奇心を刺激する絵本をご紹介。子どもたちが何に興味があるのか。そこから絵本探しをしてみると、特別な1冊に出会えるはず。親子の新しいコミュニケーションに、学びのある絵本をぜひ取り入れてみてください。
『ボタニカム ようこそ、植物の博物館へ』
「ボタニカム」とはBotany(植物学)とicum(学名の種小名につく接尾語)を合わせて作った造語。本書では「植物の博物館」の意味で使われているという。そのタイトル通り、小さな菌類から厳しい環境で生きぬく高山植物まで地球上の多種多様な植物を網羅した1冊。著者は、イギリス王立植物園(キューガーデン)で研究部門長を務めるキャシー・ウィリスさん。生物多様性の世界的な研究者で、子どもたちに植物の進化や生態、人間との関わりを知ってほしいとこの本を書いたそうです。丁寧かつ含蓄深いテキストもすばらしいですが、眺めているだけでうっとりする繊細な植物画も秀逸。こちらは、イギリスの画家、ケイティ・スコットさんによるもので、どの植物も美しいだけでなく、きちんと正確に描かれているところが見事。絵をじっくり観察することで、それぞれの植物の特徴を学ぶことができます。「ダーウィンのラン」で紹介される、長い管を持ったランの花のエピソードなどは、物事を観察し、そこから想像することの大切さを知ることができ、大人にも大きな発見を与えてくれます。また、シリーズで『アニマリウム ようこそ、動物の博物館へ』もあり、こちらも併せて読むのもおすすめ。
『ボタニカム ようこそ、植物の博物館へ』
著/キャシー・ウィリス
絵/ケイティ・スコット
日本語版監訳/多田多恵子 (汐文社)
本体3,200円+税
『MAPS 新・世界図絵』
世界中で合わせて300万部を超える大ヒットを記録した話題の1冊です。「世界図絵」とは、17世紀にヨーロッパで出版されたチェコの絵本で、「子どものための最初の絵本」とも言われているものだそう。その現代版を作ろうと奮起したのが同じ東欧の国、ポーランドの絵本作家夫妻、アレクサンドラ・ミジェリンスカさんとダニエル・ミジェリンスキさん。世界の国々について、実に細かく丁寧に調べ上げ、3年もの時間をかけて地図とイラストを描きました。42カ国の特徴的な食べものや歴史的な建物、有名な人物、生息している動物や植物がみっしり描きこまれていて、見るだけで楽しく旅をしている気分にもなれます。この絵本を読んで、「“ガスパチョ”ってどんな食べ物だろう?」「オルメカ遺跡の巨石人頭像ってどれくらい大きいのかな?」と、さらに興味を持ったことを調べてみるのも面白そう。地図には、もちろん日本も載っているので、自分の住んでいる国や地域がどのように紹介されているのか、ぜひ読んでみて。自分だったらもっと違うところを紹介するかも……と思ったら自分だけの『MAPS』を描いてみるのも楽しそう!
『MAPS 新・世界図絵』
作/アレクサンドラ・ミジェリンスカ&ダニエル・ミジェリンスキ(徳間書店)
本体3,200円+税
『世界で一番美しい切り絵人体図鑑』
繊細で美しい切り絵絵本を手がけるフランスの絵本作家、エレーヌ・ドゥルヴェールさんによるユニークかつデザイン的にも優れた人体図鑑の絵本です。2017年に「ボローニャ・ラガッツィ賞」ノンフィクション部門優秀賞受賞しています。めくりのしかけで、頭の中身は、目の内側は、耳の奥はどうなっているのか、ビジュアル的にとてもわかりやすく教えてくれます。さらに特筆すべきは、人の体のシステムを、切り絵で表現したページ。人の体を消化器系、循環器系、呼吸器系、骨格系、神経系と、緻密な切り絵でわけて描き、それぞれが重なることで人の体ができあがる、その複雑さを見事に伝えてくれます。最後のページは、男性、女性それぞれの生殖器系も紹介。こちらもめくりのしかけで、男女の違いや生理や妊娠でどのような変化が体に起こるのかを適切に解説してくれています。体のことを知りたい年齢の子どもたちと、一緒に読むのもいいかもしれません。
『世界で一番美しい切り絵人体図鑑』
著/エレーヌ・ドゥルヴェール
執筆協力/ジャン=クロード・ドゥルヴェール
監訳/奈良信雄(エクスナレッジ)
本体2,800円+税
『石はなにからできている?』
道端に転がっている石、何も気にせずに蹴って転がしているその石が、何からできている考えたことがありますか? この絵本は、まず月の世界からはじまります。「月は、水のない世界。月は、灰色の世界」。月の石は、すべて灰色だそうです。では、私たちが暮らす地球はどうかと言うと、赤いもの、黒いもの、白いもの、つぶつぶ模様があるもの……いろとりどりです。地質学を研究する作者の西村寿雄さんは「石ころは〈地球の花〉」だと語りかけます。マグマから生まれた石、水の流れによって生まれた石、そして生物の殻(死骸)がもとで生まれた石。地球には、海や川、山があり、多くの生き物がいる。そのおかげで、月とは違った、いろんな石をみつけることができるのです。本作は写真絵本でたくさんの石の写真が登場しますが、あえて石の名前は書かれていません。それは、まずは石の性質から、子どもたちに興味を持ってほしいからだそう(でも、ちゃんと巻末にチャートつきで石の名前もまとめられています)。どこにでもある石、そんな小さなものからでも、大きな地球の蓄積や成り立ちを知ることができます。
『石はなにからできている?』
著/西村寿雄
写真/武田晋一(岩崎書店)
本体1,600円+税
『月へ行きたい』
誰でも一度は思ったことがあるはず「月へ行ってみたい!」と。この絵本では遠い月までどうやって行こう? と考えます。山に登ってはどうか、高い塔を作る? 風船で空を飛ぶ? ファンタジックな空想からはじまり、だんだんと実際にどれくらい月は遠いものなのかを考察していきます。例えば、らせん階段でゆっくり登ると100年かかる。ジェットコースターの速さなら3ヶ月、新幹線なら55日かかります。プロペラ機なら30日、それなら行けそうな気もする? だけど、地球には重力があり、プロペラ機は地球から離れられない……じゃ、どんな乗り物なら月へいけるのだろう……とストーリーは進みます。月へ行ってみたい、という好奇心が人類を動かし、実際に月へ到達することができました。この絵本では、その過程も丁寧に描きます。では、さらにその先はどうなっていくのでしょう? 未来ではどんなアイデアで月へいくことができるようになるかまで想像します。テレポーテーション、宇宙エレベーター……最後には「きみならどんな方法で月へ行きますか?」と語りかけます。そう、未来で月に行くのは、きっとこの絵本を読んでいる子どもたちです。空想だったことが、現実になり、さらにその先へも進んでいける。その可能性を指し示してくれます。
『月へ行きたい』
作/松岡 徹(福音館書店)
本体1,300円+税
Photograph: Gakuji Masuda
Edit & Text: Kana Umehara
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