川田十夢さん「STEAM教育は拡張現実的発想を救ってくれる」
10代に捧ぐSTEAM教育にふれるためのブックリストを、ゲストが公開&指南。あたらしい時代のあたらしい学びを、とっておきの一冊から取り入れてみませんか?
科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)という理数系4領域の知識に加え、自由に創造し、表現する芸術(Art)の要素が加えたあたらしい学びであるSTEAM教育が注目を集めています。好奇心・探究心を発揮しながら、第一線で活躍する研究者、アーティスト、クリエイターのみなさんにそれぞれが考えるSTEAM教育とSTEAM入門におすすめのブックリストをたずねます。
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現実の世界に、映像や画像を合成し、仮想空間を作り出す「ポケモンGO」や「SNOW」など私たちのくらしに、すっかり溶け込んだAR(拡張現実)テクノロジー。そのARに10年以上前から取り組み、斬新な発想で様々なメディアや分野でAR化を実現してきている川田十夢さん。川田さんのような拡張的発想にも、STEAM教育は有効だと教えてくれました。
川田十夢(TOM KAWADA)
1976年熊本県生まれ。10年間のメーカー勤務で特許開発に従事したあと、やまだかつてない開発ユニットAR三兄弟の長男として活動。主なテレビ出演に『笑っていいとも!』『情熱大陸』『課外授業 ようこそ先輩』『タモリ倶楽部』など。劇場からミュージアム、音楽からアニメーションに至るまで。多岐にわたる拡張を手掛ける。「WIRED」では2011年に再刊行されたvol.1から特集や連載で寄稿を続けており、10年続いた「TVBros.」の連載は「拡張現実的」という新著にまとまっている。毎週金曜日20時からJ-WAVE『INNOVATION WORLD』が放送中。
——STEAM教育の利点はどういうところにあると思いますか?
小学生のとき、国語のテストで「走れメロス」の主人公の気持ちを答えなさいという問題があり、与えられた文字数ではとても足りないと感じました。陰湿なイメージの強い太宰治が、こんな表現に挑戦したことにもしっかり応えたい。領域を越えた表現で空欄を埋めたいと思いました。また、習字の時間に墨を磨るときに使うスポイトに水を充填して、答案用紙全体にボタボタと水滴を垂らした。汗とも涙ともつかない、言葉にならない気持ちを表現した。教師による採点は0点。いま振り返ると、やっぱり僕は間違っていない。国語的に0点でも、拡張現実的には100点です。
何が言いたいかというとSTEAM教育のような枠組みがひとつあることで採点基準が広がるので、当時の僕のような子どもは救われる。良いと思います。
——ご自身が10代の頃にSTEAM的発想で取り組んだ「学び」があれば教えてください。
当時は管弦楽やバンドに邁進。そのうち誰かが発明した楽器を、誰かが発見した音階やコード進行で曲をつくっても、それは純然たる表現ではないのではないかと悩んで自問しました。音楽の領域から物理へ飛躍して音の原理から学び直すと、その正体が振動に過ぎなかったり、電気信号にすることでデジタル化することができたり。現在の拡張現実的な考え方の入り口が見えました。
——今の10代の子どもたちは、どのようにSTEAM教育に取り組めばいいと思いますか?
パレットに絵の具を配置するような感覚で、教養のインクを集めてください。フレームに収まる絵を描くだけがアートではありません。現代に於いて芸術を考えることは、都市に埋め込まれたサイネージの機能を増やすことかもしれないし、個人個人が持ち歩くスマートフォンの中の再生回数を稼ぐことかもしれません。人と人の距離を安全に保つことかも知れない。変な色でも大丈夫。
——スマホの再生数がアートとはまさにフレームに収まらない発想ですね……! では、とくにそんなアートの意識や興味をどのように多分野でみつけていけばいいと思いますか?
学問からいったん離れて、他人に興味を持つことだと思います。例えばあなたがとても魅力的だと思う人が、なぜ魅力的なのか。言葉にするためには膨大なフィルターが必要で、高精度のフィルターを自作するためには専門領域を一般用語に翻す語彙力が必要。借り物の言葉には返却期限があり、返さないでいると他人のアイデアに蝕まれます。
——川田さんご自身が10代のころに熱中したアート、カルチャーは何だったのでしょう?
開高健が書き残した文章はもれなく拝読しました。とくに「ピカソはほんまに天才か」(中央公論新社)、「オーパ!」(集英社)あたりは、まさに早過ぎたSTEAM教育的な文章のオンパレードです。領域を越えるためには、自ら収集して築き上げた美学が必要だということが書いてあります。
川田十夢的「10代におすすめのSTEAM的好奇心を刺激する3冊」
①「見えないものを見る技術」著/伊藤泰郎(講談社)
望遠鏡をのぞき込む以外にも、見えないものを見る方法はある。12年前の本ですが、三密回避が求められる現代に於いても有用な非接触技術、無破壊解析などのロジックを平易な言葉で解説。著者の伊藤さんは電気工学者、工学者には世界がこう見えているということでもあって、二重におもしろい。
②「柑橘類と文明: マフィアを生んだシチリアレモンから、ノーベル賞をとった壊血病薬まで」 著/ヘレナ・アトレー 訳/三木直子(築地書館)
たったひとつの物差しで文明単位の営みを測ろうとする試みが好きで、よくこの類の本を読む。柑橘類のフルーツは、接木しやすいこともあり、わりと簡単に品種改良ができる。日本のスーパーにも色々な品種の柑橘類が並んでいる。大きな時間の流れのなかで柑橘類の物差しを使うことで、文化の枝分かれが可視化されてゆく。良書。
③「拡張現実的」著/川田十夢(講談社)
今回、取材にお答えしたような物事の捉え方、考え方についてまとめてあります。自分でもうっとり参考にするくらいの良書。触覚もデザインしてあるので、ぜひ手にとってみてください。
Edit:Kana Umehara
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