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エポニーヌも、きっと純真無垢な少女だった。

昨日書ききれなかった、レミゼの話題。

過去2回演じたコゼットから、今回は真逆の立場といっても過言ではないエポニーヌ役に転向した生田さん。
今回も注目キャストの一人として、楽しみにしていました。

かつてレミゼで共演した海宝直人さんから「ナチュラルボーンコゼット」と評された、という話を引用せずとも、コゼットは生田さんのパブリックイメージや透明感のある声質にも合うハマり役で。

だからこそ、エポニーヌという役柄を演じるにあたって、決して小さくない不安があったことは、ご本人もインタビュー等で度々言及されているところでもあります。

「コゼットのイメージがある分、自分はどんなエポニーヌができるのか不安があった」

開幕前の「うたコン」で「オン・マイ・オウン」を披露されたときは、
まだちょっとコゼットぽさが抜けない、エポニーヌとしてはちょっとキレイ過ぎやしないか…?という印象も感じたのですが、
昨日実際に見てみて、結果としてはすごく心を打たれました。

なんというか、このエポニーヌは生田さんならではのエポニーヌ像だな、という感じがしたんです。
良い意味で、エポニーヌの中に、かつて演じたコゼットの姿が見え隠れする、というか。


目の前にかつて自身が演じたコゼットがいて、そのコゼットに、自らも思いを寄せるマリウスが惹かれていくのを、ただ見守ることしかできない。
かつては私も思いを寄せられる側にいる人間だったのに、今や届かない思いを一方的に募らせることしかできないなんて…。
そんなやるせなさみたいなものが、そこはかとなく感じられる気がして。

もちろん、そんな演者個人のバックグラウンドは物語そのものとは関係ないし、役と演者の人格そのものも本来は当然、まったくの別物。
だけど、そんな眼差しを重ねて見ると、物語上のコゼットとマリウス、エポニーヌの関係性に重なって、二人を見つめる視線の物悲しさ、どこにもこの複雑な思いをぶつけようがない空しさみたいなものを、より際立たせていたように感じました。


加えて、生田さん自身がエポニーヌになっていった過程と、
劇中の世界でエポニーヌがエポニーヌになっていった過程も、
どこか意図せずシンクロしている部分があるんじゃないか、ということを勝手ながら感じた場面もあって。

生田さん自身が、清廉なコゼットという役から一旦離れて、
苦しみながらも「すれっからし」のエポニーヌという人物像を自分の中に落とし込んでいった。
でも、元来持ってるコゼット的要素はもちろん完全には消えようがなくて、
その純真さ、少女性みたいなところは、エポニーヌとして生きる舞台の上でも、時折顔を出してくる。

そうやって現れてくる純真さ、少女性的なものは、演者としての生田さん本人が持つものではあるのだけれど、
役柄としてのエポニーヌその人にも、きっと内在されているのだろうな、と感じさせるものでもあるんですよね。

想像するに、きっとエポニーヌにも、小さい頃はコゼットのような純真さを持つ一面があったんだろうなあ、と思うんです。
でも、テナルディエ夫妻に育てられ、社会の底辺で盗人稼業に手を染めながら、日々を生き抜いていくことに必死にならざるを得なかった。
そこには葛藤や苦しさもあったかもしれないけれど、社会の荒波に揉まれていくうち、表面上はすっかり「すれっからし」になってしまった自分。
だけど、マリウスと接する時、マリウスの目に映るコゼットの姿を自分に重ねた時、完全に忘れてしまったようで実は心の奥底にほんの少し残っていた純真さが、ひょこっと表に現れてくる。
その結果が、マリウス相手に時折顔を覗かせる、いじらしくてちょっぴり乙女なエポニーヌの姿なのかな、と思うんです。

そんなエポニーヌの二面性というか、隠してもどこからか滲み出してしまう「良い人」要素。
もちろん他のキャストのエポニーヌでも表現されているものではあると思うのですが、
その「隠しても隠しきれない」感が、生田さん持ち前の透明感、可憐さみたいなところとうまくマッチしていて、
すごく「人間味のある」エポニーヌだったなあ、と感じます。

この人間ぽさは、「今までの生田さんはどこいった?!」ってくらい、本当に激変してしまっていたら、逆に感じなかったものだと思っていて。
エポニーヌを演じる上では本来ノイズになるであろう、隠しきれない「コゼット感」が、かえっていい味を出していたんでしょうね…!


もちろんここまでの話は私が勝手に感じた印象・感想だし、
本来、ここに書いたことはひとつも、物語にも脚本にも演出にも描かれていない要素なはずで。
異論もきっとたくさんあろうと思います。

でもそこまでのものをあの演技ひとつから感じさせるくらい、
見てる側も、その世界、「語られていないこと」に思いを馳せられる余力がある。
そんな観劇体験をさせてくれるレミゼは、やっぱり凄い作品だなあと、改めて思うのです。

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