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「RESEARCH Conference2024」のポスターセッションで、気になりすぎた8枚のポスター

こんにちは!グッドパッチのUXデザイナー、マナです。
5/18(土)に開催されたリサーチカンファレンスへ初めて参加しました。
今年のリサーチカンファレンスは大学で行われており、少し懐かしい気持ちになりながら参加しました。特に大きな講義室で行われた各セッションは、さながら大学の講義を受けているようで、私の背筋もスッと伸びました。

さて、今年は初開催のポスターセッションも実施されており、とても楽しみに会場へ向かいました。というのも、同じ1枚の「ポスター」という媒体でも、発表者によって課題感、着眼点、手法等、大きく異なる事象がその上に展開されており、その違いが面白く、学びに繋がることも多いからです。
今回のポスターセッションでは33のポスターが展示されていました。https://researchconf2024.notion.site/0bd3f9e40f344be5a93bc5179001b4c6?v=69fd2099ee714498a8c5001b5a204d46
そんな中で、私が発表者の方からお話を伺うことができたポスターは、大きく分けて
①社会人が探索的・実験的にリサーチを行った過程・結果の発表
②学生さんの研究過程の発表
の2つでした。

そこで、この記事では、発表者の方からお話を伺うことができたポスターの中で興味深かったものと、発表者の方から詳細を伺うことが叶わなかったものの興味深かったポスターを紹介していきたいと思います。


社会人が探索的・実験的にリサーチを行った過程・結果を発表していたポスター

①「余裕」とは何か。リサーチ・スルー・デザインの実践(石井宏樹、成瀬有莉、中安晶(株式会社コンセント))

「「余裕」とは何か。リサーチ・スルー・デザインの実践」のポスター

【展示について/伺ったこと】
・株式会社コンセントの社内有志のチームで行った「デザインのためではないリサーチ」。
・自分たちがタイパ意識でやっていることや、時間を埋めるためについやっていることなどをセルフエスノグラフィーを通して仮説構築。
・余裕は、時間が余っていることを受け入れて楽しむ力があるかどうかが分岐点のようだと発見。
・予期しない「ノイズ」を受け入れる力があれば余裕が生まれるのでは?と仮説立てたが、「ノイズ」にも個人個人で好みがあるので、自分の好きな「ノイズ」を見つけてみようというフィールドワークを実施。

【ひとこと】
いつも「なんか余裕がない気がするな〜」と感じている私にザクっと刺さった展示で、余裕は「余裕それ自体の有無」ではなく「ノイズを受け入れる力の有無」にあるという仮説に唸りました。
調査の中で”余裕があるっぽく見えている人”にも話を聞きにいき、その中で語られた「散歩してたら道に亀がいたので、その亀について行った」エピソードなどもワークショップを作る手がかりになったとのことで、そういったリサーチ過程で集めた情報自体もかなり興味深いものでした。
また、フィールドワークも、複数人で実施することで他者の好きなノイズと自分の好きなノイズの違いを知ることで、より自分の好きなノイズを認知できるという形になっており、チームビルディング等に応用しても面白そうだなと思いました。
発表者の石井さんのnoteも公開されているので興味がある方はぜひご覧ください!
https://note.com/iiiioi_de/n/n79da48207e2b

②「これも写真?」 - 写真の周縁を探求するf∞ studioの発見的創造の実践(神谷泰史、清水 亜麻衣、水島素美(f∞ studio))

「「これも写真?」 - 写真の周縁を探求するf∞ studioの発見的創造の実践」のポスター

【展示について/伺ったこと】
・コニカミノルタenvisioning studioが主催したプログラムから生まれたコミュニティで、「写真」と「写真以外のなんらかの画像」のゆるやかな境界を多様な視点から探る営み。
・20年前はスマホで撮った画像を「写真」という人は少なかったが、今はスマホで撮影されたものを写真と呼ぶ人もいれば、ゲーム内での画面キャプチャを「写真」と呼ぶ人もいる。ここに興味を持ったメンバーで、これからの「写真」のあり方を探索するために、自分が写真だと思うものを持ち寄ってWSを実施。

【ひとこと】
「写真」という一見普遍的に見えるものについて、時代によって定義が移り変わっていそうであるという点に着眼し、探求を重ねている点が面白い展示でした。
発表者の方が「なんでこんなことしてるんだろう、無意味じゃないか、って思う瞬間もあるけど、新しい発見がある!」と笑顔で語っていらっしゃったことがとても印象に残っています。つい意味や効率を気にしがちなため、そういう探求を楽しむスペースを自分の中で設けた方が良いのかもしれない、と少し反省しました。
また、ポスター上の画像を見て、自分がどう感じたかをシールで貼るというインタラクティブな展示を行っており、私が「写真じゃないな」と思った日焼けした腕の画像でも、「記憶を呼び起こせるから」という理由で「写真」と判断された方もいたというお話を伺い、自分の認知を見つめ直す機会になりました。

f∞ studioさんのHPはこちらです。ワークショップ等があれば参加してみたいと思ったのですがまだ準備中のようです。
https://www.foo-studio.com/

学生さんが研究の過程を発表していたポスター

①都市生活者がジャングルに滞在することの意味の探索的リサーチ(炭田怜、長谷川敦士(武蔵野美術大学大学院造形構想研究科))

「都市生活者がジャングルに滞在することの意味の探索的リサーチ」のポスター

【展示について/伺ったこと】
・発表者自身の、日本ではトレッキングに行ってもどこか足りない感覚を抱いてしまう一方、とはいえ自然の環境に振り切って過ごし続けたいわけでもない、という所感を持ったことが研究の出発点。
・たまにジャングルに行ってその滞在経験を都市に持ち帰る、という自然との向き合い方が良いのではないかと考えたことから「どのような向き合い方が良いのか」の仮説を立てるためにリサーチを実施。
・リサーチ結果で一番面白かった気づきは、ジャングルでは能動的でもなく受動的でもない状態になるということ。
・今後は、調査を深めた上で、現代の技術社会に対する洞察をスペキュラティブデザインで表現し、都市の人々へジャングルで気づいた視点を伝えていきたい。

【ひとこと】
ジャングルで得た視点を都市に持ち帰って応用するという着眼点がまず興味深かったです。
また、ジャングルは人用に最適化されておらず「自分がどうしたいかが常に問われる」一方でそれが常に叶えられる環境でもないという特殊な場所であるというところから、能動でも受動でもない中動態という概念へ接続されていたところに研究の広がりが垣間見え、今後が楽しみな研究の1つです。

②相談できない学生たちー学生相談室の支援体制と、アプローチの難しい対象者の調査―(児山拓大、丸山幸伸(武蔵野美術大学大学院造形構想研究科))

「相談できない学生たちー学生相談室の支援体制と、アプローチの難しい対象者の調査―」のポスター

【展示について/伺ったこと】
・発表者は、仕事柄ネットユーザーと関わっているが、ユーザーの根幹に「寂しさ」があるのではないかと感じている。とはいえ、その「寂しさ」をエネルギーに変換することでサブカルチャーが生まれているという考え方もできるため、「寂しさ」をリソースとして捉え、それをどのように活用したら良いかを考えている。
・特にストレスを抱えやすいと言われている青年期後期の学生へ着目し、まず情報を取りやすい学生相談室やその周辺から調査を開始。
・調査結果を踏まえ、学生を類型化。今後は特に「自己解決型」の学生へアプローチできる何らかのプロトタイピングができると良いと考えている。

【ひとこと】
現場の方々が「自分たちはしっかりと取り組んでいるからリーチできていると思っている」と感じている点と、リサーチの結果見えてきた「自己解決型」の若者の存在が現場の方の視点からは抜けているのではないか、という発見があったというところが興味深かったです。
また、調査にあたって、Discordの各サーバーに存在する「相談室」の会話ログの内容を分析するなど、調査手法にもユニークなものがあり、今後自分がリサーチを行う際の参考にもなりました。

③自身の経験を起点とした災害対策リサーチ −格差是正を可能にするプロダクト開発を目指して−(池田卓也(武蔵野美術大学大学院造形構想研究科))

「自身の経験を起点とした災害対策リサーチ −格差是正を可能にするプロダクト開発を目指して−」のポスター

【展示について/伺ったこと】
・発表者は災害対策関連の仕事を行っているが、「マニュアルやだなー」という気持ちがあった。そこで何も決めずに防災行動できないか?が研究の出発点になっている。
・とはいえ、「何も決めずにその場にあるもので防災」することはフィージビリティー的な観点から厳しいと考えており、よりシャープな仮説を立てるための調査を実施
・現在はオフィスに絞っているが、「地域」という視点で見るとオフィスと住宅街が混じっていたりするのが問題を難しくさせていると考えている

【ひとこと】
防災という壮大なテーマに対して小さなリサーチを積み重ねることで焦点を絞っていくアプローチをされていらっしゃいました。
調査をしたことで改めて「防災は難しい枠組み」であると気づき、その難しさを可視化して色々な方に認知してもらうだけでも意味があるのではないかと考えていらっしゃるとのことでしたが、「なんとなく難しそう」と考えられるようなものについて、調査をすることでその難しさを再認識することができたという思考のプロセスが興味深かったです。

発表者の方とお話しできなかったが興味深かったポスター

①子ども食堂に通い続けて考える、地域包括ケアをテーマとしたソーシャルイノベーションの考案(鈴木愛佳、安武伸朗(常葉大学))

「子ども食堂に通い続けて考える、地域包括ケアをテーマとしたソーシャルイノベーションの考案」のポスター

【ひとこと】
子供食堂で参与観察を行い、地域のソーシャルイノベーションとして事業のタネを提案したという展示。フィールドノート作成時に、写真やテキストでなくあえて絵を描くことで「自らの情緒」を残すという選択をされているのが興味深かったです。絵の中にどういうふうに自分の情緒を残すことで、具体的な提案に繋げたのかが気になりました。

②はみ出し系オーナーさんのお気持ちリサーチ(西田久美子、尾日向里夏、横山幸奈(akippa株式会社))

「はみ出し系オーナーさんのお気持ちリサーチ」のポスター

【ひとこと】
使っていない空きスペースを予約駐車場として時間貸しできるCtoCマーケットプレイスのアキッパさんが、独自性の高いアクションを起こしているユーザーの方へ、その思考や背景を掘り下げるリサーチを行った結果の展示。調査をした結果、特に大きいことがわかった課題や、ポスターに書ききれなかったユーザーの独自性の高いアクションなどについて伺いたかったです。ポスターの「はみ出し系」の文字が本当に枠からちょっとはみ出しているところなど、遊びを持たせながらも読みやすいポスターが個人的に好きでした。

③共感から育む「デザインリサーチ × カルチャー」の土壌づくり(村治泰広、井上ゆい子、酒井芳樹(株式会社マネーフォワード))

「共感から育む「デザインリサーチ × カルチャー」の土壌づくり」のポスター

【ひとこと】
リサーチの専門ではないビジネス組織で、リサーチカルチャーを広める取り組みについての展示。内容はもちろんですが、付箋でコメントを貼ることができる仕組みにしてあり、発表者がいないタイミングでも、参加者とコミュニケーションを取ることができるようにデザインされていて素敵でした。

まとめ、ポスターセッションそのものの感想

発表者の方とお話しするタイミングがうまく作れなかったポスターも多数あったのが残念でしたが、お話を伺った発表者の方はどなたも熱く語ってくださり、発表内容について理解を深めることができました。

また、お昼過ぎと夕方のタイミングの計2回ポスターセッション会場に足を運びましたが、どちらも熱気に溢れていました。このような展示では、ポスターを読むだけでなく、参加者が発表者と会話することでさらに理解が深まる面があると考えていますが、かなり多くのコミュニケーションが生まれているように見えました。
また、リサーチカンファレンス運営の方で、「ポスターセッションの感想レター」というものも用意されており、非同期でも発表者とコミュニケーションが計れるような仕組みになっていました。
余談ですが、大学院の修了展示展で自分の研究をポスター展示した時はこういうちょっとした感想やフィードバックのような双方向性あるコミュニケーションが嬉しかったことを思い出しました。
https://x.com/researchconfjp/status/1790728839460757993
来年もまたリサーチカンファレンスに参加したいという気持ちが芽生えた1日でした。


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