見出し画像

ナショナリズム理論を語ろうー#1

Nation and Nationalism. 大学で政治と名のつく授業をとったことがあるひとは、1回は耳にしたことがあるテーマだと思う。うちの大学だけだったらごめんなさい。たまには、愛してやまないナショナリズム理論について語ろう。

はじめに

Nation. 和訳すると「国民」か「民族」だろうか。Weblio辞書の和訳は以下のようになっている。

(政府の下で共通の文化・言語などを有する)国民、(1 の国民から成る)国家、民族、種族、(北米インディアンの)部族、(北米インディアンが政治的に結成する)部族連合」

https://ejje.weblio.jp/content/Nation

政治学において、Nationalismー国民性・民族性 の発生源・そのもの自体の価値についての議論は、一つのSub-Discplineになっている。「国民性とは何か?」という定義づけから始まり、「どうして人々は特定の国の一員であると感じるのか?」「社会構造とどのような関わりがあるのか?」「Modernity (広範にはヨーロッパ啓蒙主義後に持たれるようになった世界観)とどう関係があるのか?」という基本的な問いに加えて、「戦争の発生と継続における役割(国際関係論・戦争学)」というような他分野への応用や、「ヨーロッパ中心的視点ではないか?(ポスト・コロニアリズム的批判)」などの議論が生じる分野である。

去年進学準備コースでNation & Nationalism (シラバスにこのように表記されることが多いので、以下このように記載することにする)を取り扱ってから、私はこの理論の虜になった。その理由の一つに、教育との関連を検討しやすいことがある。卒業課題で19世紀プロイセン(ビスマルクとかの時代で、フランコ・プロシア戦争の直前、日本で言うと明治維新の前くらい)のナショナリズムと当時の教育改革の関係性を検討して、ますます好きになった。大学に進学してからも、1学期の政治哲学の課題でナショナリズム理論のヨーロッパ中心主義的な面を取り扱い、2学期の政治哲学の課題では民主主義との関係性を探ろうとしている。

一方で、さまざまな区分や分岐が存在し、少し分かりにくい分野でもある。2年目に差し掛かり、今回ようやく「コンタクトを入れた時に正しいポジションにはめられた時」のような爽快感を感じられる説明の仕方に出会ったので、将来の自分のためにここに記したい。

⑴ Nationを定義する

まず、Nationと言うカテゴリを定義しよう。What is a nation? と言う問いに対して、一文で定義を与えている論文があれば、それはミスリーディングである。ここでは、'What is a nation' 'How a nation is formed' 'When it was formed' と言う3つの視点からの区分を検討したい。この3つは異なる視点で同じものを区分しようとしているので、それぞれのカテゴリに同じ理論が所属できるし、重複できる部分がある。

①What is a nation ーNationとは何か

ここに存在するカテゴリは、Ethnic(人種的) or Civic(市民) である。どちらかといえば政治学的な分類な気がする。

Ethnic(人種的)ー共通の祖先や血族を重要視する。Nationを 'an extended form of family'ー家族の延長線上にある と考える。例えばEthno-symbolistと呼ばれる Anthony D. Smith は、ナショナリズムは現代に起因する現象であるが、その根拠(ベース)はそれぞれの民族が有する共通の歴史や言語、文化や迷信(Myth)であると考える。この理論において、'Nation' の理由づけは共通の祖先に起因するものに置かれている点で、Ethnicであるということができる。

Civic(市民)ー政治的価値観や領土への帰属意識を重要視する。ここには、②で述べるSocial Constructivistsともちょっと共通する部分がある。例えば、Earnest Gellner は Nations and Nationalism(1983) において、「現代化及び工業化に伴って、共通の言語や習慣を共有する労働力が必要とされたために、言語や文化の統一が求められ、民族の形成につながった」と述べている。これは社会学的には Functionalist 的と理解されるーDurkheimが提唱したように、個人は社会の仕組みを継続するために行動している、という概念だ。ナリョナリズムに関する理論を打ち立てたわけではないが、MarxもCivic Nationalism的な理解を示している。彼ー社会学的にはConflict Theory的視点と理解されるーにとっては、個人が行動するのは、経済的なハイエラルキーを継続するためであり、ナショナリズムもその構造を維持するためにブルジョワジーが作り出した人工的な枠組みにすぎない。

ただ、書いていて気が付いたが、政治学的には少し異なる区分が存在する。政治学のベーシック教科書・Heywood (2013) はこのように分類している。

・Nation as a Cultural Community文化的な集団として

[N]ations are ‘natural’ or organic entities that can be traced back to ancient times and will, by the same token, continue to exist as long as human society survives.
Nationは「自然な」もしくは「有機的な」集団であり、古代まで遡ることができ、かつ人類社会が存在しない場合でも存在する。

Heywood 2013, p.110

・Nation as a Poliitcal Community政治的な集団として

The nation is thus a group of people who are bound together primarily by shared citizenship, regardless of their cultural, ethnic and other loyalties.
Nationは共通の市民権によって繋ぎ止められている団体であり、文化・民族・その他の忠誠心は関わらない。

Heywood 2013, p.112

この2つの区分において、文化をどちらに分類するべきなのかー文化は民族に起因するものなのか、もしくは人為的な集団に紐づけられるものなのか が異なっているように思う。それがどう分類されるのかは、もうちょっと理解しないとわからないかもしれない。人類学とか。

②How a nation is formed ーどのように形成されるのか

この視点においては Essential or Socially construction or Middle groundのいずれかに分類される。そもそもEssentialist (本質主義)/Social Constructivists (社会構成主義) の区分が政治社会学の根幹を成す議論なので、社会学的な分類だと思う。

EssentialistーNationは常に存在していたと考える(人為的に形成されるものではない)。若干③で述べる原初主義と被る部分もある。例えば19世紀ドイツのリベラリズム・ヒューマニズムの発生下で論じていた Herder や Fichte あたりもこれに分類される。

Social ConstructivistーNationは社会的・政治的な目的に伴って人為的に形成されたものだと考える。ここには、先ほどのEarnest Gellner, Marx も含まれるし(経済的エリートもしくはブロジョワジーが自身の地位を保つために形成したと考える)、 Benedict Anderson とかも含まれる。Anderson は Nationのことを 'imagined community (想像上の共同体)' として定義した。宗教的価値観の減衰及び大航海時代によるヨーロッパ外への世界の拡大に伴って、継続して持たれていたアイデンティティの力が弱くなり、その大替品として民族が作り出された、というものである。

Middle Ground ー以上の2つのその中間に位置づけられるのが、Anthony Smith だ。これはNationの源泉となるものは常に存在していたが、人為的に呼び起こされてアイデンティティを形成するようになったと考えるため。

③When it was formed ーいつ形成されたのか

Primordialism (原初主義) もしくは modernism (近代主義). これはWordでも校閲ソフトでも打ち込むと赤線が引かれるし、ナショナリズム理論特有の単語だと思う。建築学や文学でもモダニズムと言う分野はあるが、同じ単語が使われているだけで、指す意味は異なっている。-ism って名付けるだけでちょっと分かりにくくなる。

PrimordialistーNationはいつも存在していたと考える。人間が社会を構成する前から存在していたし、構成するのをやめた後にも存在する。アカデミアでこれに分類されるのは、社会生物学的視点からナショナリズムを述べた Pierre van den Berghe による理論であるーが詳細は省く。

ModernistーNationは現代になって創造されたと考える。ここでいう「現代」とはすごくヨーロッパ的で、啓蒙主義や資本主義、産業革命と工業化による時間・空間に対する理解の革命的な変化が起きた時期のことを指している。今日において、多くのナショナリズムについての論者は、「いつ発生したか」の面においては、こちらに分類される。

⑵ Nationalismを定義する

これも、「愛国心」とか「民族自決主義」とか訳される。この単語も、一つで2つの側面を指していると考えると、ちょっと理解しやすくなる。これは私の教授の著書をベースにして書き起こしたいと思う。

①政治的アイデオロジーとして

一つ目が、政治的アイデオロジーである。政治的行動のベースとなる考えや心情がアイデオロジーなので、Nationalist ideologyといえば、

[T]he idea that division of nation should coinside with the geographical boundary of nation (=political ideology)
民族の分け目が地理的分け目と合致するべきであると言う考え

Penrose, J. and Mole, R.C.M. (2008)

になる。実際にいえばこれは現実にはなり起こり辛い考えであるが、このような考えを基にして国民性が形成・強調されたり、権威主義からの移行期にある国家においては、民主主義の形成に貢献したりする(らしい)。

②政治的行動として

もう一つの側面が、この政治的アイデオロジーを実行に移す際の行動そのものである。

practice, attempts to implement nationalist ideology in practice (=political movement)
ナショナリスト的アイデオロギーを実行に移すための行動、試行

Penrose, J. and Mole, R.C.M. (2008)

政治的アイデオロジーを信じることと行動に移すことは、別のレイヤーにあると捉えると、①ナショナリスト的信条を持つ→②政治行動を通じて実行に移す→③国家を形成する(Nation-Stateでも、State-Nationでも) という流れがよりクリアになる。このNation-StateとState-Nationの違いについては、いつかどこかでまた述べたい。

おわりに

いっぱいかいた。満足した。2年目にしてようやくスッキリと分類されたNation and Nationalism関係の知識を、机の文房具をきちんと収納すると心地よいのと同じように、フレッシュな状態でまとめておきたかったのだ。
こうやって書いてみると、私が本当に好きなのは社会政治学におけるナショナリズム理論なのかもしれないな。

参考文献

Heywood, A., 2013. Politics (4th ed.), Basingstoke: Palgrave Macmillan.

Penrose, J. and Mole, R.C.M. (2008) ‘Nation-states and national identity’ in Cox, K. et al. (eds) Handbook of Political Geography. London: Sage, pp. 271–284. Accessed on 7 March 2022.

Özkırımlı, U., 2010. Theories of nationalism: a critical introduction. (2nd ed.), Basingstoke: Palgrave Macmillan.

P.S. 将来ナショナリズム理論を振り返りたくなった私へ:SESS0017 Political Sociology Term2 Week7 のノート(特にQ&A)と、Ozkirimli(2013) を参照すると大抵のことを思い出せると思う

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?