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身体抑制について

私は今、とある地方の総合病院で看護師をしています。そこで起きた日々の出来事や、それについて考えたことなどを綴っていきたいと思います。

身体抑制

皆さんは「身体抑制」と言う言葉を知っていますか。私は病棟で働いているので、この言葉は本当に身近に耳にします。

抑制と言うと、映画などで精神科の患者さんがベッドに縛り付けられている様子を思い浮かべる方もいると思いますが、あれは「体幹拘束」と言って、身体抑制の方法の一部に過ぎません。

患者さんが転倒しないようにベッドの左右を4本柵で取り囲むことも抑制です。ベッド柵で囲まれていると、患者さんは自分で自由にベッドから降りたりできないからです。

他にも「センサーマット」と言って、患者さんが勝手にベッドから降りて床に足をつくと、床に置いてあるマット型のセンサーが反応して、ナースコールが鳴ると言う器具もあります。コールがなったらすぐに看護師が駆けつけて、ベッドなり車椅子に座ってもらうことになります。これも患者さんの自由を奪っているので、「身体抑制」に当たります。

イタチごっこ

もちろんこれらは、まだ回復途上にある患者さんが自分で勝手に歩いて転倒し、新たに怪我を負うことを防ぐために行っているものです。判断力のしっかりした患者さんであれば本来必要ないのですが、高齢者や認知症のある患者さんは能力以上の行動を取ろうとするので、こういった措置が必要になります。

しかし、特に認知症のある患者さんは自分の自由がなぜ奪われているか理解できない方が多く、この身体拘束が患者さんのストレスになります。そして患者さん自身が、この身体抑制を何とかして外そう、何とかして抜け出そうと言う行動をとるようになります。

中には、夜勤の間にベッド柵を自分で抜き取ってしまい、抜き取ったベッド柵を堂々とベッドの横に立てかけている患者さんもいます。また、どうやったのかわからないですが、センサーマットを踏まずに踏み越えて、自分の部屋から廊下まで歩いて出てくる患者さんもいます。

こうなると、我々看護師も患者さんの安全を考えて、ベッド柵にベルトを巻いてベッドに固定したり、センサーマットの周りにテーブルや車椅子を置いて道をふさぎ、マットの上を通らないと出てこれないようにしたりと、あれこれ策を巡らせます。

しかし患者さんの中には、ベッド柵を乗り越えたり、テーブルの下を潜ってセンサーマットの上を回避したりと、こちらの策をさらに上回って行動してくる方もいます。こうなると「イタチごっこ」です。我々もベッドの下にクッション性のあるマットを敷いたり、テーブルの下を潜れないようにしたりと案を考えるのですが、もうきりがありません。

永遠のジレンマ

患者さんからすれば、ベッドから自由に離れて出歩いたりするという行動は、ごく自然な欲求であり、環境や精神的ストレスを考えたら当然の行動です。落ち着きのない患者さんも、しばらくそばにいてゆっくり話を聞いてあげると、落ち着いて、自らゆっくりベッドに戻ってお休みになる患者さんもいます。

抑制を抜け出して出てくる患者さんも、実は、これといった目的はなかったりするときもあります。患者さんたちは単に自らが理解できない理由で抑制されているという状態自体が嫌なのだと思います。ですから、抑制など最初からせず、患者さん好きにしてもらえば、少なくともストレスは少なくなりますし、突拍子もない行動に出ることもなくなると思います。でもそうなると、ふとした拍子に歩いて出てきて、転倒し、新たに怪我をする…という可能性は十分にあります。

なので結局、身体抑制を辞めることはできない…これは看護師の永遠のジレンマなのです。

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