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ガロア、モルトマラソンのテイスティングと8ドアーズ蒸留所

 21・22日の土日にガロアの原稿、さらに再校をして、その合間に残っていたテイスティングコラム用のテイスティング。そして26日の木曜夜に行われる私の「シングルモルトマラソン」のテイスティングも行う。ガロアのコラム用のテイスティングは毎回30本の中から11~12本ほど選び、私ならではの視点でテイスティングし、これはと思うもの8~9本をコラムとして書いていくというもの。モルトマラソンの6本と合わせて2日で18本のテイスティングをしたことになる。
 
 コラムのほうで興味深かったのはモーレンジィのカドボールとコンパスボックス。特にコンパスボックスの日本限定、スリーリバーズ20周年のボトルは秀逸。相変わらず、ブレンドを手がけるジョン・グレイザーさんには感心させられる。カドボールは、何度もその中にあるカントリーホテルに泊まったことがあり、周辺の大麦畑、オーツ畑などを朝の散歩などでも見ていた。すぐ横が海、北海で、カドボールとはヴァイキングが付けた地名である。意味は確か“山猫のいる野原”。そういえばカドボールハウスホテルには、入口のところに山猫のはく製も飾ってあった。辺り一帯は数少ない山猫の生息地でもあるのだ。そのカドボールの大麦のみを使ったエディションで、どことなく土っぽい、そして北海の塩味を感じるカドボールのテロワールを感じる仕上がりになっている。
 


 モルトマラソンの6本のうち興味深いのはやはりアイルサベイのシングルモルト。ここは数々の実験的な仕込みを行っているが、そのうちの1つがハイグラビティー、つまり麦汁の糖分濃度を高め、それで発酵を行うもので、当然ウォッシュのアルコール度数が高くなる。蒸留も通常の銅のシェル&チューブの他に、ステンレス製のシェル&チューブのものがワンペアあり、それでも蒸留を行う。
 


 さらにピートレベルも3段階あり、それらの糖度、ピートのフェノール値がラベルに記載されている。麦汁の糖分濃度を上げるというやり方はここ数年、いろいろな蒸留所で試されていて、これは仕込水の大幅な削減にもつながることになるが、それをいち早くやっていたのがアイルサベイで、もうそのボトルが出ているということだ。アイルサベイを最後に訪れたのは今から6~7年前だが、確実に進歩している。
 
 ということとは関係なく、24日の火曜日は再び新幹線で名古屋に行き、そこから車で15分ほどの吹上ホールに向かう。サカツ主催のフェスで、私がセミナーを担当。これは会場内のオープンセミナーで、テーマはウイスキーツーリズム。その折にサカツが新たに代理店となったスコッチの8ドアーズのニューポットをテイスティングさせてもらった。


 8ドアーズは旧ジョンオグローツ蒸留所で、2022年暮れにオープンしたばかり。ワンバッチ400㎏という極小蒸留所だが、製造コンサルタントは元エドリントングループのマスターブレンダー、ジョン・ラムゼイ氏である。私も何度かお会いしたことがあり、来日した時は一緒にセミナーもやったことがある。エドリントンといえばマッカラン、グレンロセス、ハイランドパーク、そして当時はグレンタレット、ブレンデッドのフェイマスグラウスだった。たしかそのフェイマスグラウスのセミナーでご一緒させてもらったような気がするが、その時、私たちのエキスパート試験に興味を示し、ちょうど英文翻訳の問題もあったので、ラムゼイさんにやってもらったことがある。
 
 結果は70点台で合格ギリギリだったが、「実に素晴らしい。私でも知らない問題があって面白かった」と、言ってもらえた。当時は8割がスコッチに関する問題で、「アメリカンやアイリッシュは私にはまったく分からない。日本のウイスキー愛好家はこんなことまで知っているのか」と、驚かれたものだ。
 
 業界40年超という、そんなベテランがコンサルしている蒸留所、それが8ドアーズで、公式オープニングにはチャールズ国王も来たというのも、もしかしたらラムゼイさんのおかげかもしれない。もっとも8ドアーズの近くには故クイーンマザーが愛したメイ城という城があり、皇太后が亡くなった時、その城を相続したのがチャールズさん(当時は皇太子)だったので、チャールズ国王にすれば、8ドアーズはお隣さんだったのだろう。
 
 ちなみにこの8ドアーズが、ウルフバーンを抜いてスコットランド本土最北の蒸留所ということになる。目の前は“魔の海”と恐れられるペントランド海峡で、その向こうにオークニー諸島の島影がくっきりと見えている。かつてこの辺一帯は、ヴァイキングが支配した土地でもあったのだ。

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