見出し画像

息子の旅立ちの日。授かった命を大切に育てる、と決意した原点の日でもあった

朝が来た。
息子が旅立つ日。

思えば、この日は21年前、10年勤めた証券会社を退職した日。
ずっと続けたかった会社。妊娠した時、そう告げたけど「前例がない」と暗に拒否された。

育休取って仕事を続けたい…

そもそも、寿退社が前例の時代。
私は運良く、本社から来た上司に「今どき結婚するからって辞めなくていいよ」と言ってもらい、支店での結婚しても続ける第一号にさせてもらえた。
「育休は2年まで」と就業規則に書いてある。物分かりのいい上司なら大丈夫、と思った私が甘かった。
時代は、銀行や競合がバタバタと倒産し、ITバブルが始まった頃。
「2年も休んでいられる業界じゃない」
「産んですぐ戻るならともかく…」

マンション買ってローンを抱え、不安だった。
子どもは欲しかったので、懐妊はとても嬉しかった。けど実は、親になる前の私は、そんなに子ども好きではなかった。

親になるとはそういうことか…。

悔しくて泣いたりもした。権利を主張しようか?とも頭によぎった、
でも、夫が「俺が頑張るから。お腹の赤ちゃんが大事。嫌な思いをして働かなくていいよ」と言ってくれ、退職を選んだ。

会社の嘱託社員の方にその事を話すと
「子どもにとってお母さんの代わりはいない。大きくなれば、私のようにこうやってまた仕事に戻れる。大切に育ててね」と言ってくれた。

私は「大好きな仕事と引き換えに、授かったこの命を大切にしよう」と考えを改めた。

退職した日

10年を目処にしたい、という思いは汲んでもらい、1月に産み、産前産後休暇をとって3/31に退職した。
最後のけじめはつけたく、この日だけは出勤した。
3か月ぶりの会社。
3か月前に産前休暇に入る前には想像もつかなかった状態に自分がなっていた。
休暇中に発売された、テレビCMで見ていた我が社のファンドは一世を風靡し、たった数ヶ月で会社の代表作になっていて、会社の株価も恐ろしく上がっていた。

雰囲気、全然違う…。
新生児のことばかりの私と全然違う…。

それでも一日中頭をよぎるのは、親に預けてきた赤ちゃんのことばかり。
「泣いてないかなぁ…」
「哺乳瓶で飲めないんだけど、どうしたかなぁ…」

昼休憩に、親が近くまで連れてきて、車の中で授乳した。
数時間ぶりに抱く我が子が、こくこくとおっぱいを飲む姿が何とも愛おしく、またチャイルドシートに乗って去っていく姿が切なかった。

生後2ヶ月で子どもを置いて仕事に出ないといけない人はこの思いを毎日するんだなぁ、と思うと、そうでない自分の立場がとても幸せに思えた。

抱えきれないほどの花束と退職金(当時、現金で頂いた!)を手に、私は晴れて無職になった。

会社を辞めた日から21年

最後の日も有給休暇を取り、フェイドアウトすることも選べた。
居場所のなさを実感した日だったけど、行ってよかった、と21年経っても思う。

私がお母さんになったこと、心残りがないのと思えたのは、あの日を実感したから。

仕事と引き換えに、授かった命を大切にしようと決心できた日


それから数年し会社の体質も変わり、後輩たちはママになっても仕事を続けているけれど、私は時代に沿って選んだ道を後悔しない。

だって、21年は本当に楽しかったもの。

正社員には二度と戻れていないけど、子どもがいるからこう働こう、と思った働き方で、色んな仕事も体験できた。色んな出会いもあった。

生き方の選択が希望通りなら、それに越したことはないと思う。
でも、たとえ望んだ通りにいかなくても、歩む生き方は一つしかないのだから、選ばなかった方を羨みたくない。

子ども中心の日にピリオド

そうして過ごした日に、また一旦終止符を打つ。

次の日々は何年になるのか、まだ分からない。
でもその日が同じ日だってこと、なんだか嬉しい。

そんな事を我が子にも話した。
母親にそんな日があったなんてこと、今は想像もつかないだろう。なんとなく頭の片隅でも、なんなら忘れてしまってもいいから、なんて思いつつ。

これからの、自分を楽しむ日々を楽しみにしている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?