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医療・福祉・看護の視点からのいのちと暮らし-LGBT医療福祉フォーラム2018-day1-1-

10/13,14に東大駒場キャンパスにて行われたフォーラムに参加しました。

2日間で5つのセッションに参加しました。
day01
13:00-15:10 シンポジウム 「LGBTのいのちと暮らしを守る」
15:20-17:00 「LGBT に関する医療福祉分野の専門教育」
day02
10:00-12:00 「LGBTの子ども若者支援」
13:00-14:30 「事例から学ぶLGBTと医療福祉―誰が何に困っているのか」
14:40-16:10 「地方自治体におけるLGBT支援」

全部書くとすごい量になるので、何度かにわけて書いていきます。最初のLGBTのいのちと暮らしについて。(写真NGだったので文字ばっかりです。)

1.医療現場におけるLGBTQ理解・支援について
LGBTに理解ある医療機関へのニーズは高い。海外でいうと、1971年に3人の医学生がゲイ男性に対しての血圧測定・性感染症スクリーニングの提供などを行うことから始まった支援があったりする。

新宿にはしらかば診療所という場所があり、2007年から当事者を含めた理解のあるスタッフで運営している。元々電話相談を担当していたチームから派生して生まれた場所がある。(時々集まってサロンのようにやっていることを、白樺派のようだと言って揶揄されたことから由来した名前とのこと)

気をつけていること
・問診票に性別欄がない
・パートナーが付き添うことや一緒に診察を受けることも可能
・性感染症に関しては、特にMSM(men sex with men)に特徴的な症状について丁寧に診ていく

LGBT-affirmative(肯定的)な医療のために4つの大事なこと

①LGBTの言葉を知る(どう違うの?違わないの?)
LGBTという言葉自体はセクシュアルマイノリティ(性的マイノリティ)とほぼ同義に使われているが、LGBとTで困るポイントが違ったりするし、Q・I・Xなど他の人たちもいる。  

②LGBTのライフステージ毎での特徴的な課題や発達のモデルを知る(どんなときにどんなことに悩むのか
2-1.思春期〜青年期前期(最初のクライシス)
多くはこの頃セクシュアリティを自覚するが、多感な時期でもあり、不登校・引きこもり・いじめ・自傷行為・自殺などに至る場合もある。しかし、家族や友人、教師などには相談できないことが多く、ネット・SNSの発達などで情報には容易にアクセスする。同じような立場の若年者と繋がれる一方で、性犯罪被害の可能性もある。
2-2.青年期後期(第二のクライシス)
LGBTとして交友関係、性的な関係を持っていくことができるようになり、仕事・社会的な責任は増大していく。結婚・家庭を持つことへの圧力が加わる中で、2つの世界(自分のセクシュアリティのままいられる場所と家族や会社などの場所)で同時に生きていかざるを得ない形になり、どう2つを折り合っていくかに悩む。
2-3.中年期
中年期アイデンティティを持つことの難しさ。若さに価値が置かれる世界のなかでの「春夏夏冬」。パートナーシップを維持することが難しく、親との段階的な力関係の移行がないため、バランスを崩しやすい。また、老後・介護の問題の現実化し、場合によっては結婚して2つの世界を持ち続ける場合もある。
2-4.老年期
多くは単身者で、家族には頼れないため孤立・孤独を味わう。パートナーとの死別も場合によってはきちんとお別れができないこともあり、不完全なmouring work(曖昧な喪失)になることが多い。

③LGBTに固有のカルチャーを理解する(セックスに関わることもも含め)
固有のカルチャーがある。例えば出会いは古くはハッテン場、タイプを限定したゲイバーやクラブイベントとな理、今はSNSやスマホアプリ、出会い系サイトが多かったりする。効率よく出会うための仕組みが発明されることが多く、それが一般に広まることも多い。
ドラッグクイーン、ゴーゴーボーイズなど、LGBTであることをベースにした様々な活動やイベントの存在する。また、HIV予防啓発活動、akta distaなどの情報センターもある。一方で地方では、容易にこれらと繋がれず、孤立しがちな状況であることも理解しておくべき。
セックスはLGBTにとって大切なテーマ「ゲイ男性におけるセックス場面は、性的指向を隠すことなく自分らしく過ごすことのできる数少ない機会」(日高・嶋根,2012)と論文にもある。イベントでもTENGAを配ったりしている。

④医療者・援助者自身のバイアスを知る 気づかれにくい援助者自身のバイアス
目の前の人がLGBTである可能性を考えないことはまだまだ多いし、臨床心理における「クリニカル・バイアス」もある。(クライアントが所属する特定のマイノリティ集団に対して臨床家が抱く偏見などの影響で生じる、臨床的なもの)その人らしいセクシュアリティを支援するし、人の数だけセクシュアリティはある。

「性指向アイデンティティ」(アメリカ心理学会、2009)
性志向の認知や内在化には個人差があるので、年齢や発達段階に応じ、本人ができるだけ心地よいと感じられる・苦痛や苦悩の少ない「性指向アイデンティティー」を支援していく

性同一障害から性別違和へ、そして精神疾患からの脱病理かへ
経験の固有性・ユニークさを常に尊重しながらより細やかな配慮を

2.福祉領域におけるLGBTQ理解・支援について

①働く場所での居づらさ
労働に関する相談は、就職先での居づらさ(嘘をつかなければいけない・悪意ない人からの否定的な言葉を受ける・バレた場合の合うティングの怖さ)から、短期間で職を転々とする人もいたりする。これは就職のサポート機関での理解や企業への促進が必要。また、就職に向けての訓練・通所先などの相談もあるので、福祉施設への啓発も同じく必要になる。

②医療を受ける上での困りごと
特にトランスジェンダーの受診や同性愛者の入院時のパートナーの対応などは不安が多く、医療機関に繋がること自体を避けようとする人が多い。医療福祉での理解があれば、回復の機会を奪ってしまわないようにできるはず。
2-1.ホルモン療法や性別適合手術への不安
そもそも対応してくれる医療機関はどこにあるのかが分かりにくく、当事者同士のネットワークで情報を得ている。専門医自体も足りていないので開拓が難しかったりする。
2-2.医療相談の必要性
受診や入院だけでなく、毎年の健康診断にも受けにくさがあるので、病院への啓発や周知も必要となる。
2-3.同性パートナーの不安
家族を呼べと言われ、同性パートナーが同意書などへサインすることを拒否される。医療側は訴訟リスクを回避するためにそうするが、本質的なことを考えると患者が望むもので良いのではないか。結婚相当証明書申請したいという人は多く、その理由は医療での課題が多いとされる。
厚生労働省から出ているガイドライン「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」では法律上の親族に特定されていないので、本人から申し出がある場合には大丈夫なはずだが、医療側からすると、その場は良くても追い追い家族から訴えられることを避けたいと思って拒む。だが、本当は同性パートナー自身も訴えを起こすことができる(遠慮があって顕在化せず、彼らはその権利を持っていると自覚できていないケースが多いが、訴え自体は起こす権利を持っている。)
「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(H30年3月)」でも「家族等」について明確に書いている

③社会資源の使いづらさ
相談支援事業所は、本来は他市からの相談はあまりない。周りの社会資源の特色を知っているからこそ適切な場所を紹介できる。しかし、カミングアウトしている臨床心理士(スピーカー)の場所にはLGBTのことも含めて相談できると聞き、他市他府県からも相談がある。
しかし、本質的には地域で受けられる体制が必要なので、専門教育に入れる、福祉機関への研修をするなどの取り組みや、地域の福祉機関がLGBT団体とつながっていく必要性がある。
地域に根ざす高齢者のケアマネージャー株式会社にじいろ家族というところでは、地域としっかり繋がっているからこそ、地域の祭りでLGBTの話ができる。ゲイの高齢者にアプローチしやすい。そのため、地域の人たちが地域の中にLGBTがいることを意識できるようになっていて、結果として当事者が自分の人生の展望を持つ手助けになっているのではないか。

気をつけていること
・最初から言わない人も多い。話しても大丈夫な相手か会話から推測して初めて話す。なので、相手が「パートナーが」と言ったら、「ご主人が」などとは言い換えずにそのまま「パートナー」と返すなど工夫することで壁を低くする。
・LGBTQへの対応を考えていることを発信したり、性別や性的指向によって差別しないと明記する。
・福利厚生に同性パートナーを含める
・地域コミュニティの事業へ積極的に参加する
・できれば、トイレや更衣室を個室にしたり誰でもトイレを設置したりのファリシティも変えていく
・名前を通称可能にする
・書類などで性別欄が本当に必要か検討し、不要なら削除する

誰もが暮らしやすい社会に変えていきたい。LGBTの福祉医療領域の課題は「生存の問題(いのちと暮らし)」だし、少しは私たちが幸せになりたいなと考えてもいいよねと思いたい。

3.看護師視点でのLGBTQ理解・支援について

①災害時に困ったこと
東京では一定の理解があるが、地方ではまだまだ理解がない。「性同一性障害」はわかるけど、「トランスジェンター」が何なのかわかってもらえなかったりする。そのため、避難所のトイレや更衣室が深夜帯しか使えなかったり、人目が気になったりする。お風呂も無料入浴券が配布さるが、家族・同級生・近隣住民に遭遇する可能性を懸念し入れなかったりする。
支援物資も男女別に分けられていて、必要物品が取れなかったりして、避難所でいられなくて被災した建物内で過ごしている人もいる。(電気も水もなく泥棒が多い中での不安の中すごす。

②ダブルマイノリティ(少数派の中のさらに少数派)の困りごと
LGBTかつ鬱の人もいるし、自殺のリスクもある。ゲイ・バイセクシュアルのうち65.9%が自殺を考えたことがあり、14%が企図している。MTF/FTMの受診した1138名62%が希死念慮があり、10.8%が企図。
背景としては、典型的な性役割と異なる行動や同性への性志向をを持つこといによるいじめ、社会家族からの孤立感、思春期の身体への違和などがあり、「死ねば来世では望む性別に生まれ変われるのではないか」といった思いに至ることもある。
また、調査によると鬱経験者の中で自傷行為をする人も重症化すると18.9%がOD(薬の過剰摂取)に繋がり、3年以内に22.4%が行動に移す。

③GID/GD/トランスジェンダーについての対応の変化と課題
性同一性障害(略してGID)戸籍を変更した当事者は6000人を超える
性別違和とは、障害ではなく違和で、精神疾患の一つ。2018年6月脱精神病理化があった。精神病理化から外れていて、性別不合(Gender incog 
GID)となっている。
新しい制度では保険適応もできるようになっているが、過去ホルモン療法をしていない診断を受けた当事者のみが対象となっていて、ホルモン療法をしていた人は保険適応外(ホルモン療法+手術療法は混合治療のため)となっている。戸籍変更をすることはできるが、そのためには生殖機能を失い自分の子孫を望めない状態にしなければならない。
また、医療機関でのむつかしさとしては、LGBTの存在を無視して診察してしまいがち(重要な情報を聞き漏らす恐れがあるから、限定されにくい返答しやすい聞き方が必要なのに、「配偶者はいるか」などで聞かれる。)だし、問診票の性別欄に対してそもそも困惑・嫌悪感を抱き、保険証提出時同様の負荷がかかり、何度も本人確認されることがある。

気をつけてほしいこと
・性別欄にその他・選択しないの項目を追加する
・フルネームで呼ばない(番号・通称名で呼び、診察室の中で生年月日などで本人確認してほしい。)
・被保険者証の性別表記(工夫してもいいという通達があったので、裏面参照と書くとかできる。診察券も同様にできるはず)
・過剰な配慮をしない(相談なく配慮されて個別料金を払わされても逆に困ったりする)
・本人の希望に添えない場合は、ただ断るのではなく、きちんとできることできないことを本人に伝える必要性がある
・アウティングしない(本人の了承を得ずに人に伝えない)

アメリカコロンビア特別地区(ワシントン)「LGBTQ文化適正継続教育改正法」があったり、横須賀市の市立病院・救急医療センター及び消防署救急隊では、本人の意思がある場合とない場合で分けて対応ができている。

感想・まとめ

健康ではない状態だから訪れる医療や困っていることがあるからサポートを求める福祉の先がよりストレスや負荷がかかる場所になってしまってはいけないという現場で働く皆さんの危機感も含めてリアルな声を聞きながら、

1.本当に必要な情報を相手が出せるようにするための言葉・書き方・出し方に変えていく(性別欄・パートナーの有無・往診歴など)
2.心理的にも話しやすくなるためのコミュニケーションをする(婚姻・配偶者じゃなくて、「パートナー」。ご家族や神族じゃなくて「キーパーソン」。)
3.枠に当てはめて固定せず、一人ひとりをちゃんとみて、ニーズを聞き、できることはして、できないことは適切に伝える

この辺りは、医療福祉だけではないし、LGBTだけではなくあらゆる性の人が生きやすくなるために必要なことだなと痛感しました。

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