見出し画像

東京大学が市民運動してる?『国際シンポジウム「ニューロダイバーシティの源流と展開」』についての感想

ニューロダイバーシティのシンポジウム?

(※以下、全文無料でお読みいただけますが、お気に召したらご購入・サポートよろしく!)

2024年9月16日、東京大学駒場IIキャンパスで、下記のようなシンポジウムがあった。

このシンポジウムについての情報が流れてきたときに、登壇者の顔ぶれをみたとき、私はこれは学術的なシンポジウムといえるのか?に疑問をもった。

というのは、海外からの登壇者の何人かが「自閉症障害者運動」の人であることを私は知っていたからである。



2022年の、とある「オープンレター」から

2022年の2月、国際的な「連帯」が、とあるオープンレターを発出した。
そしてそれは、上記のシンポジウムを主催する綾屋紗月准教授の主宰する「おとえもじて」のWEBサイトに、掲載されていた。

署名者として綾屋紗月氏の名前もあるので、連帯としての「活動」として掲載されたのだろう。

掲載されたサイト自体は民間サーバーを利用しているとはいえ、この「おとえもじて」は、綾屋氏の所属する東大先端研の当事者研究lab.を会場として利用していたので、このオープンレターが東大と無関係ということはあり得ない話である。

上記オープンレターは、英の有名な医学誌であるランセット誌の出した研究指針に対する、自閉症者の障害者運動団体からの「意見表明」ではあるが、障害者運動団体の意向の医学研究への介入を要求するものだ。

これは、キャンセルカルチャーの一種であると思う。

その時に、WEBサイトのあるページを拾ってみていたのが以下(2022年のそをのまま載せているのでリンク切れはあるかも。なお、今回のシンポジウムの登壇者のいる団体を、本稿にむけて太字にしておいた。お名前も出てますね)

European Council of Autistic People (EUR)
Heta Pukki (President), Martijn Dekker (Board member)
https://eucap.eu/about-eucap/

Autistic Self Advocacy Network(INTL)
https://autisticadvocacy.org/about-asan/

Collectivo Autista Mi Cerebro Atipico (INTL)
Barbara Herran (CEO)
https://facebook.com/micerebroatipico/

Autistic Doctors International (INTL)
Mary Doherty (ADI Founder), Sebastian Shaw (ADI Research Lead), Sue McCowan (ADI Psych Lead)
https://facebook.com/AutisticDoctors/

Participatory Autism Research Collective (UK)
Damian Milton (Chair)
https://participatoryautismresearch.wordpress.com/about/

Autismus-Forschungs-Kooperation (DE)
Silke Lipinski (for the working group)
https://autismus-forschungs-kooperation.de

Autistic Collaboration Trust(INTL)
Jorn Bettin (Chairperson), Quinn Dexter (Advisory Board Member)
https://autcollab.org

Lees- en Adviesgroep Volwassenen met Autisme (BE)
Jo Bervoets
https://youtube.com/watch?v=Jld46M0KMPk

Autism Rights Group Highland (UK)
Kabie Brook (Chairperson), Joshua Hennessy (Assistant Chairperson)
https://arghighland.co.uk/members.html

Asociacion Autistas de Colombia (CO)
Monica Vidal Gutierrez
https://aprenderaquererme.com/acompanamiento/

The Autistic Realm Australia Inc.(AU)
Kylieanne Derwent (Co-Founder & Vice Chair)
https://tara.org.au

estas, Adult Autistic Self-advocacy Meeting (KR)
Yoon wn-ho (Co-moderator), Jang Ji-Yong (Co-moderator), Onemoo Lee
http://autismpartnershipkr.com/en/news/윤은호-교수-자폐성-장애를-가지고-교수가-되기까지/

Asocia?ia suntAutist (RO)
Ovidiu Platon (Chair)
https://ro.linkedin.com/in/ovidiuplaton

Suomen Autismikirjon Yhdistys (FI)
Minna Brockmann (Chairperson), Annikka Suoninen (Project Coordinator)
https://asy.fi/vertaistoiminta/

PAS Nederland (NL)
Tammo Michel (chairperson / secretary)
https://pasnederland.nl/index.php

Otoemojite (neurodiversity self-help group)(JP)
Satsuki Ayaya

CLE Autistes (FR)
Garance Jacquot (Secretary) for the Board
https://cle-autistes.fr
https://cle-autistes.fr/politique/discours-de-haine/

Autisme- og Aspergerforeningen for Voksne (DK)
Nina Catalina Michaelsen (Chairperson), Silke Rudolph (Board Member/Treasurer)
https://aspergerforeningen.dk

Inicijativa za autizam i ostale neurodivergentnosti, samozastupanje i kulturu razli?itosti ASK(autistic initiative)(HR)
Kosjenka Petek, Sun?ica Lovre?i? ?eki?

Aspies e.V.(DE)
Hajo Seng, Rainer Dohle (Chairs)
https://aspies.de/vereinsziele/

Autistics Unmasked (US)
Heini Natri
https://facebook.com/autisticsunmasked/?ref=py_c

Adventor o. s. (CZ)
Michal Ro?ka?uk (Chairman)
https://adventor.org/o-nas/o-techto-strankach

A-komunita (CZ)
Vojta Barto?ik (Chairman)
https://adventor.org/o-nas/33-prilohy/376-profil-vojta-bartosik

Asociacion Autistas de Mexico (MX)
Yadira Garcia Rojas (President), Giovanna Villarreal Estrada (Secretary)
https://mx.linkedin.com/in/yadira-garcia-28046793


というわけで、Hetta‘Pukki氏、Mattijn Dekker氏、尹恩鎬氏の名前or顔に見覚えがあったわけだ。(上記のなかでもサイトがデカかったとこだし目立ってたのでw)

第一部海外からのゲストの3/4がこのオープンレター関係者である…というのは、いったいなんなんだろう?

そう思いながら、シンポジウム当日を迎え、Zoomでシンポジウムを視聴したのであった。


さて、シンポジウム

スライド資料の多くが日本語化されていたし、ほぼ同時に近い日本語での文字配信もあった。

まあ、そういうのはとてもいいんじゃない…と思う。

ただ、中味が問題だった…。

HettaPukki氏が、ランセット誌への批判を繰り広げたのはまあ別に予想の範囲内のものだった、さほど驚かなかった(いい悪いは別にして)

が、次のMattijn Dekker氏の出してきた資料で、目ん玉が飛び出てしまった。

生涯を強みに変えた人物にグレタ・トゥーンベリ氏

「自閉症者の障害を強み」にという話は、まあ、よく聞く話であるが、Mattijn Dekker氏の出してきた、その「例」が凄かった!

ケース例の最初はアラン・チューリング…、これはまあ、さほど驚きもしない。
コンピューターの基礎理論を作ったと天才数学者として知られる人であり、同性愛者であったとして告発・逮捕され(当時のイギリスでは同性愛は違法)、懲役はのがれたもののの、後に自死した。

で、2番目にはなにやら画家っぽいアーティストが出て…、3番目が問題だった。

この方ですよ…環境活動家のグレタ・トゥーンベリ氏!
 
あ、写真は別のところから拾ってきたもんです.。
シンポジウムのスクショとるなってことだったんで、仕方ない。

グレタちゃん、最近ではこんな写真でもネットを賑わわせてましたね。
反イスラエル関連の活動でも名前が出てきてるし…。


ハッキリ言って、グレタ・トゥーンベリ氏は環境活動家であり、政治運動家である。

有名な人ではあるが、評価については数十年後にしか語れないものだろう。
成果となるものがない以上、彼女が「障害」を強みに転換できた人であるかは、簡単には評価ができない。

その彼女を「障害を強みに変えた人物」として取り上げるのであれば、彼女のような社会運動のスタイルをヨシとする価値観をお持ちなのだろうと考えてもよいのではないだろうか。

しかも、Dekker氏は、このシンポジウムの登壇者紹介をみてもわからないが、ランセット誌に対するオープンレターの記述によれば、Hetta Pukki氏の率いるEuropean Council of Autistic People のボードメンバーである。

 

Francisco Pizzaro Olivares氏のチリ学生運動談義

まとめてしまえば、教育文脈でのNeuroDiversityのために、どういう理想(要求)を掲げたらよいか…という話…ということにはなるのだろうが

しかし、なぜ2006年~のチリの学生運動の礼賛や、市民運動礼賛の話を長々とするのだろう?前置きが長かった。お、本題か?と思ったら終わっていた。

そりゃ、チリの政治がずっと大揺れで、軍事政権終了後も、ピノチェト派と反ピノチェト派みたいな感じでずーっとやりあってたのはわかるけど、そこをNeuroDiversityに結びつけるなら「政治」だし「運動」だよね…という思った。


同氏の過去の講演録の日本語版があったので見てみるが、やはり1970年台の軍事クーデターの話から始まっている(が、クーデター以前の社会主義政権の急激な改革による政治・経済の混乱の話は省略っと、まあ古すぎるからしゃあないかとも思うが)。

チリの現在の政情というのは、急進左派連合から大統領がでており、かつ政権与党(中道左派と組んで)であるものの、憲法改正の国民投票は何度もコケてる…といった状況でなかなか複雑だ(地上波もニュースもこういうのしっかりやれっての!)。

以下の2つのリンクはチリに関する比較的プレーンなレポートだが、案外面白いぞこれ。

もう一本出しておこう。経産省にあった在チリ日本国大使館がまとめたチリ経済レポート。
https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/esr/esr_report/esr_028/esr_028_f.pdf


尹恩鎬氏の報告から

この方のスライドの扉絵(区切りスライド…というか)部分、すごく色合いがキレイだった…

まあ、それはともかく、韓国での自閉症者の大変さ…というのを主に語られていたようです。

スライドの中で、ピープルファーストジャパンの大会の写真がでてきたのはちょっと違和感ありました。


ランセット誌へのオープンレターの署名にあった組織のWEBサイトでは、こういった紹介をされていますね。

しかし、今回のシンポジウムの登壇者紹介pdfではこの方の紹介も、氏と障害者の権利運動との関りや、氏と自閉症者コミュニティでの活動面がわからないものだった。


綾屋氏の発表から

ここは簡単にいこう。概要はかきのようなものだった。

  • 社会のコミュニケーションはマジョリティ側に最適化されている

  • マイノリティに合わせた社会変革のためのアウトリーチと連携が必要

  • 自閉の人々は解釈的不正義と証言的不正義の両方におかれている。

  • 当事者研究は認識的不正義を是正している

  • 自閉の研究者と科学者の共同研究は自閉の人々発の知識の社会的信用性を高める⇒不正義の是正になる。

だが、「当事者研究」をやっているピア団体というのは、発達障害の自助団体の中でも非常に限られた範囲に限られる。

当事者研究ネットワークのWEBサイトを覗いても、自閉症関連の団体で「当事者研究」をやっている団体はあまりでてこない。

綾屋氏の主宰する「おとえもじて」という当事者研究会も、ここ4年ほど休会しているようである。

東大先端研の熊谷研究室自体は動いているようではあるし、綾屋氏も、博論を出版されたり、活動していないわけではないようである。

だが、綾屋紗月氏と熊谷晋一郎氏がはじめた「発達障害当事者研究」が、どのくらいの広がりをもっているのか?というと、殆ど語られていないので、わからないのだ。

彼らと共働していた「べてるの家の当事者研究」同様、メディアに取り上げられて福祉界隈で話題になった…のは確かだし、彼らが在野で「一般社団法人 発達・精神サポートネットワーク(Neccoカフェ)」で「当事者研究」をやっていたあたりでは、それなりに参加者もいたようだ。

が、2020年の「べてぶくろ事件発覚」以降、活動はどうなった?かというと、休止状態のまま復活せず…といったところだろう。

なぜ、それが「広まっている」といえるのか?はなはだふしぎである。

 

第二部での竹内健太氏の表現への違和感。

参議院文教科学委員会調査室の竹内健太氏の発言が非常に気にかかった。

参議院文教科学委員会調査室の調査官の竹内健太氏が、現状の国会の審議に関する調査から

『ニューロダイバーシティ」の認知度はこれから(伸びしろが大きい) 』っていってたな。

伸びしろ…いったいどういう発想でこの「のびしろ」という言葉がでてくるのか。

場によりそった見解をだしただけなのかもしれないが…
省益確保型官僚の予算分捕りあい、福祉・教育系の活動家が予算獲得や行政への食い込みのツールとして「ニューロダイバーシティ」という言葉を使うような言い回しとしか思えなかった。

 

参考までに、発掘した竹内氏の調査論文をひとつ紹介しておこう。

『子どもの権利に関する基本法の制定に向けた動き/立法と調査(440) 竹内健太 参議院事務局企画調整室 2021』

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2021pdf/20211101029.pdf

参照範囲が偏っているような気がするのは私だけだろうか?

 

これは、東大がやる公開の国際シンポジウムとしてどうよ?という疑問

場の情報保証の優等生…ではあるが

実際、リアルタイムで日本語字幕はつくし、スライドも日本語化されていたので、少なくとも日本語を母語とする者にとっては視聴は非常に容易であった。

そこはまあいいんじゃない?と思う。

このシンポジウムは、どういう目的で、誰が企画して、どういう基準で登壇者をあつめたのか?

世の中には諸多の学会がひしめいており、大会などで、対象を学会員以外に広げた公開シンポジウムの類をやることはさほど珍しいことではない。

だが、今回のこのシンポジウムはちょっと違う。

まあ「当事者研究」の東京の発信地の一つである。肝心の「当事者研究」の活動(おとえもじて)はここ数年休止中のようである。

ご研究と啓蒙方向にのみ活動されているのだろうか?

「私たちについて」のページにに総長と副学長が雁首並べて出てきて、その下にセンター長というところから見て「東京大学」肝入りのセンターであることは明白だろう。

 

東大は、いつからキャンセルカルチャーを主導するような「障害者権利運動」の基地になったのだろうか?

シンポジウムの登壇者と講演内容を見ても、かなり「運動系」に偏っている上に、「学術」として成り立っているものなのだろうか?という点においても疑問をさしはさまないわけにはいかないモノだったように思う。

今回の国際シンポジウムはさすがに「有志がやっているだけ」という言い訳はたたないだろう。


お読みいただきありがとうございました。

お気に召したらご購入、サポートよろしく!
夏バテと急な気温の変化でしおれ気味の猫又がよみがえります。


ここから先は

0字

¥ 300

猫又BBAを応援してもいい…という方は、サポートをよろしく! いただいたサポートは妖力アップに使わせていただきます。