もっと、存在自体愛されていい

(1)
母に、心からわたしの存在自体を喜ばれたことがない。言い換えれば、わたしの存在そのものは、母を満足させるには不十分だったということだ。存在自体に負い目のあるわたしは、母の求めるままに、いくらでも自分を与え続けた。いい子であり、成績優秀であり、困っている人を助けずにはいられない優しい子どもになった。不満を言わず、それどころか怒りの感情を封印して、母が求める、「こちらの心が明るくなるようなピュアな子供」を演じ続けた。

存在をうけとめられないまま大人になったわたしは、バイトで、自ら搾取される奴隷になっていた。人手が足りないバイト先で「ゴメン、この日、入れる?」「この日、少しだけ延長してもらえない?(あなたしかいないの)」などといわれると、食い気味で「入れます!」と即答していた。

最近わたしはニート明けで、自立支援センターが運営しているおしゃれなカフェで、お手伝い(ただし報酬は小学生のお小遣い程度)をやっている。そこでも突然スタッフが辞めるなどして人手不足になり、わたしはいい子の仮面をかぶり、絶賛奴隷として活躍していた。
この間までニートやっていたのに、即戦力だとか囃し立てられて、社会的に認められたかったわたしは、すっかりその気になってしまった。躁のスイッチが入ったわたしは、週5日のパートとして雇われようとしていた。はやく仕事ができるようになって、一緒に働いている先輩から認められたかった。

(2)
「確かにあなたがいてくれたら助かるけど、でも、ちょっと急すぎん? もう少しのんびりやってもいいと思うよ」
交渉して、少し賃金をあげてもらえた(ヤッター!)矢先、辞めた人の代わりに週5日のパートスタッフになりたい旨伝えると、わたし担当の支援センターのスタッフさんはさすがに止めてきた。しかしわたしは宇宙の果てまで高揚しており、もう誰もわたしを止めるものはいない!!状態だった。何を言われても、ロボットみたいに、できると思います、やってみたいです、と繰り返した。

わたしは次の日から仕事場で、「自信を持つ」を通り越して、なぜか若干オラつきはじめた。そしてことあるごとに「デキるわたし」を演出していた。わたしはもう、先輩の保護下におかれて就労準備してるニート予備軍ではなく、ここのスタッフ見習いだ。てことは、先輩は先輩だけど、実質的には同僚じゃん。いまのわたしにはわたしさえいればいい。だから、別に同僚である先輩から認められなくてもいいやん。つーか、もっと上を目指したい、もっと偉い人に認められて出世したい。だから、先輩、邪魔だわ。いらないわ。

依存心は、いつだって憎しみと隣り合わせなのだ。
初日、わたしは先輩に気に入られたくて、表面的に見えただけの、彼女の素敵な部分を褒めちぎった。でも、先輩はわたしの「保護者」ではないと感じた途端、手のひらを返し、まるでこの店の店長にでもなったかのようなスタンスで仕切りだし、オラつきはじめたのだった。

(3)
そして、ついにその日がやってきた。躁のスイッチが切れたのだ。

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