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夏休みよ永遠に


私は小学校6年間、夏休み期間中はおじいちゃんちの子になった。

両親共働きのため、小学生である私は家から電車で一時間くらいのおじいちゃんちに預けられた。我が家では毎年のこの恒例行事を合宿と呼ぶ。

うちのおじいちゃん、おばあちゃんは働きものだ。

炎天下の日も、台風の日も、朝早くから外に出て農作業や庭の掃除に励む。とにかく休んでるのを見たことがない。ときどき猫を可愛がっている。

ヒグラシが鳴き始めると、おじいちゃんが外の仕事を終えて帰ってくる。私はそれまでにおじいちゃん専用のビールジョッキを冷蔵庫に入れておくという重要任務を遂行する。

居酒屋の店員さんがビールジョッキを冷やしているのをテレビで見て、私が勝手に習慣化した。おじいちゃんがダイニングに入ってくるのを見計らって、瓶ビール、栓抜き、ビールジョッキのセットを運ぶ。

おじいちゃんは毎日必ず一本瓶ビールを飲む。アテは煎餅と決まっている。小さな袋にいろんな種類が入ってるあれだ。私はそのご相伴にあずかるのだが、ピーナッツが苦手だったので、「種」と称しておじいちゃんに消費を委託していた。ピーナッツのみに選別された袋をおじいちゃんに渡すと、「えー!ピーナッツだけなの-!」と言いつつニコニコして食べてくれる。

次に私はビールを注ぐ。最初の頃は瓶は重いし、泡ばっかりになってしまうし、お世辞にも上手にはできなかったが、6年生にもなれば慣れたもので、CMを再現したかのような比率の泡ができあがる。

おじいちゃんは、それはそれは美味しそうにビールを飲み干す。大人が飲む物だと教わってたせいか、その時分は飲んでみたいとは思ったことはなかった。おばあちゃんが作ってくれる紫蘇ジュースをひたすらに飲んでいた。

中学、高校にあがると夏休みも部活動があり、おじいちゃんちの子になることは無くなってしまった。それでも数日は遊びに行って、せっせとビールジョッキを冷やした。

おじいちゃんは私が成人してから数年後に他界した。

ついぞビールで乾杯することはできなかったが、瓶ビールを見るとおじいちゃんを思い出す。

いつかまた再会した日には、キンキンに冷えたジョッキで乾杯したい。


#また乾杯しよう

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