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巷説問答月之裏面|酒の短編12

こんばんは、月よ。
いつも私のことを見上げてくれているわね、知ってるわ。

ええ、今日はちょっとバタバタしてるけど、お気遣いなく。

ふふ。明日は十五夜、中秋の名月でしょ?
皆さん私を見に出ていらっしゃるから、何かと支度が必要なのよ。

そうね、舞台裏なんて滅多に覗けないでしょうから、遠慮せず、よくご覧になってちょうだい。

さあ、始めましょうか。最初の質問は……あらやだ、私の性別?
いきなりぶっこんでくるわね。けど、そういうの、嫌いじゃないわよ。

ええと、あなたたちの国のお話だと男神だったかしら?でも、国によっては女神ね。
「どちらでもあって、どちらでもない」
意地悪だけどこれが答えよ。
大事なのは神秘的であること。これだけは譲れないわ。

日本人は好きよ。
満月だけじゃ飽きたらず十三夜のお月見も、二十六夜なんて出待ちもしてくれるじゃない?あらゆる私を受け入れてくれるなんて、まったく救いようのない変態ね。
どこにでも美、萌え、肉欲を見出だす。そういうところ、いいと思うわ。

え?子供たちに読ませられない?
何言ってるの。子供の頃から、セーラー服の女の子が戦うアニメを見せてる時点で手遅れ・・・、アウトよ。
私の代わりにお仕置きするツインテールのあの娘、アニメ版の最終回はトラウマ回って有名よ。
平安の頃から変身させたり、転生させたり、擬人化させたりって、ある意味英才教育。DNAの成せるわざね。

オフの時間はお化粧も落としてくつろいでるわ。その辺はあなたたちと一緒ね。
たまに気を抜きすぎて、昼間っからすっぴんで、白く浮かんでるところを見られることもあるわ。
変に取り繕うよりも、ありのままがいいのよ。自分で言うのも何だけど、聖と俗、そのふたつを自在に行き来できるのが、魅力なのかもしれないわね。

時々赤く見えるのは、……呑みすぎた時ね。
そう、夜が長いとついつい量をいっちゃうわ。起き上がれないから、赤いときは地平線の近くに見えるはずよ。これはちょっと恥ずかしいから、カットしてくださらない?
ごほんごほん。ええ、そう。赤いのは、恋をしているからなのよ。

お酒は日本酒がいいわね。この時期だと「ひやおろし」かしら。衣かつぎを肴に、冷やでやったら最高ね。あとひと月、十三夜の頃には栗も美味しくなるわね。鶏もも肉と甘辛く煮たら、おかずにもつまみにもなるからお薦めよ。
そうだ明日は盃でもグラスでも、お酒に私を映して呑んでくれたらとっても嬉しいわ。ちょっと風情があっていいでしょ?

あらやだ、もうこんな時間。そろそろリハーサルが始まるわ。楽しい時間ってあっと言う間。

ではまた、明日の夜に会いましょうね。

(『巷説問答月之裏面こうせつもんどうつきのうらおもて』より、「戯作者、楽屋のお月を訪う」の場)

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