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王妃と皇帝(レモンシロップ)|酒と肴 その四十七

「棚から牡丹餅」「曲がり角で転校生」「パワーストーンからの札束風呂」
昔から憧れるラッキーシチュエーションですが、なかなか機会に恵まれません。

牡丹餅はすぐに食べますし、角で会うのは鳥の鳴き真似おじさん、湯船に浮かぶのは大抵抜け毛、良くて柚子。現実はこんな具合ですから、自分で「甘い汁」を拵えて「吸う」にことにしました。

甘い汁、イメージは「樹液」か「花の蜜」。樹液ですと甲虫感が強すぎるので、爽やかなレモンシロップに挑戦です。年末、知人から自宅で採れたレモンを頂きましたので、氷砂糖と蜂蜜で漬け込みました。

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レシピを見ると、ワタ(皮と実の間の白い部分)は苦味の原因らしいので、なるべく取り除きます。なんだか『進撃の巨人』にこんなのが出てた気がして調べたら、「超大型巨人」ってやつですね。

作る前は果実酒も選択肢でしたが、半年は寝かさねばならないとのこと。1週間ほどで出来るシロップと決めかねていたところ、心のアントワネット王妃から
「シロップにして酎ハイに入れたらいいじゃない」
と有難いお言葉。本家はオーストリア出身ですが、こっちのマリーは浅草生まれ。話の分かる、下町のアントワネットです。

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せっかくですので台所に差し込む初日の出を浴びさせ、ご利益と栄養価のアップを狙います。効果のほどは分かりませんが、残っていた氷砂糖があらかた溶けたので良しとしましょう。寅年の2022年、さっそく甘い匂いを嗅ぎつけた野生の虎が近づいて来ました。

出来上がったシロップは果肉を取り出し、濾して瓶に詰め替えます。美しい黄金色の甘い汁、アントワネット印の逸品です。残念ながら家の者は「別の液体」をイメージするそうで、目につかない場所に保管するようお達しがありました。ああ、王妃の受難。凌雲閣、もといタンプル塔という名の冷蔵庫に、哀れにも幽閉されることになりました。

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幸い、ホッピー通りあたりの大虎たちには評判らしく、ガウガウ喧しく集まって来ました。瓶の周りをぐるぐる回ってくれたらホットケーキを焼くのですが、今日び虎たちもおとなしいものです。なんてままごと遊びは久しぶりでしたが、大人になってやってみると案外楽しいものですね。幼い頃の、名前も忘れた友達を思い出します。

とは言え私はもうすっかりいい中年。ノスタルジアは程々に、大人の時間を楽しみます。今回はレモンシロップを使った「ミルクプリン」と「いいちこのレモンサワー」です。

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ミルクプリンはほのかな甘味に、少し苦味のあるシロップが合いました。ですが、瓶詰めだとちょっと工夫が必要かも知れません。スプーンで掬った時にシロップが絡みすぎてしまうのです。プリンカップで型抜きしたものにかけるか、または賽の目に切った牛乳寒天も良さそうです。

いいちこのレモンサワー、これはもう抜群のおいしさです。さすがは、酸いも甘いも知ったボナパルトの旦那。王妃の高貴な香り、甘みと苦みをしっかり受けとめる度量はまさしく皇帝。「下町のナポレオン」、この二つ名は、伊達ではありません。

どちらも下町とはいえ、アントワネット王妃と皇帝ナポレオンが結ばれるなんて、教科書に書かれていない発見です。甘い汁を吸いながら、私の歴史レシピに新たな1ページが追加されました。

こんな具合で今年も呑み食いに励みます。

メニューと材料
・甘い汁(レモン、氷砂糖、蜂蜜)
・ミルクプリン(牛乳、砂糖、ゼラチン)






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