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女房と宿六(鰹の刺身)|酒と肴 その五十八

自慢せずにはいられない、そんな食べ物があります。

江戸の頃なら初鰹。
味わいだけでなく、季節感や共感性も備わっていたからこそ、

「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」

の句が詠まれたのでしょうし、

「初鰹 銭と芥子で 二度涙」

などの川柳も生まれたのだと思います。

この「今の時季だけ」「なかなかありつけない」って感覚はいいもんですね。
見栄や贅沢したい気持ちも手伝って、ちょいと無理をしてでも食べたいと思うあたり、人間臭くて大好きです。


さて、世界中の料理が食べられる今の日本。

初鰹のポジションには何が当てはまるのでしょう。
SNSを開けば、たくさんの投稿で溢れています。でも、更新される情報が多過ぎるせいか、「食べたいもの」が浮かんできません。オススメはたくさん表示されるのに、ピンとこないのです。

そんな世情を反映してか、ここ数年は食べ物に付加情報、つまりは背景を加味したマーケティングが増えました。目印としてつけたストーリで埋め尽くされたら、次の添加物は一体何を使うのか。疑問ではありますが、一周まわって素材重視に戻るのかも知れません。

それにしても季節を問わず、食べ物が溢れているという特別。これが当たり前になり、ついには物語まで求めるなんて、まるで王様です。このままだと見えない服を着て、見えない食べ物を頂かねばなりませんが、裸の時点で逮捕→臭い飯なのでご安心ください。


話がとっ散らかりました。気をつけないと下世話な方面に話が進むので、原点回帰、江戸っ子気取りで初鰹を頂きます。

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生の鰹、柵で買えましたので、二品拵えます。
尾の方はブツ切りにして韓国風のお刺身に、頭側はヅケにして手ごね寿司(ミニ丼)で頂きました。

まずは韓国風のお刺身です。胡麻油×塩の味付けには、ビールが最適解。薬味とニンニクチップがアクセントになり、ロング缶がたちまち軽くなりました。

手ごね寿司に合わせたのは、佐賀のお酒「天山」の純米吟醸。おりがらみな泡のやつを合わせます。脂がのった刺身にタレが染み、酢飯との塩梅もよく、お酒が進んで仕方ありません。

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まだ明るいうちから微発泡の日本酒なんて、たまらない背徳感。そして一線を越えると罪の意識も減りますので、二本目のロング缶をチェイサー代わりにする悪行三昧。本当にカツオは酒盗で困ります。


さて、図らずも一、二、三と揃いましたので、有名な川柳を発句にして、オリジナルの二の句、三の句を継いで遊んでみましょう。

「女房を 質に入れても 初鰹」

比喩とは言え、攻めたフレーズです。質から戻ってきた時の恐怖、それを差し引いても食べたい気持ち。江戸の旦那衆が、初物に懸けた想いが伝わってきます。

これに繋げるのがこちら。

「流れずに 質から戻る 山の神」

出先から長屋に帰る途中のかかあ大明神。行き合った馴染みの棒手振りから、亭主が高額な鰹を買ったことを知らされます。嵐の前の静けさ、そこに込められた怒りのマグマを表現してみました。

その結果、

「宿六の 寿命が縮む 初鰹」

奥さんの留守をいいことに、初鰹を買って一杯飲っていた亭主。突然の帰宅に慌てる様子とその後の修羅場を想像してみました。本来、初物は寿命が75日伸びるはずなのですが。
なお、宿六とは「宿のろくでなし」、いわゆる旦那さんの蔑称であり愛称であります。かかあ大明神と同じですね。


さてさて、とっても美味しい初鰹。お刺身に川柳と、余すことなく堪能することが出来ました。どうやら豊漁だそうで、この週末にいかがでしょうか。


メニューと材料
・韓国風カツオの刺身(カツオの刺身、胡麻油、塩、玉ねぎ、大葉、ニンニクチップ、炒りゴマ)
・カツオの手ごね寿司(カツオの刺身、醤油、味醂、酒、大葉、生姜)

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