蛙〈詩〉
一本道を歩いていた
私はすることがない
草はらに囲まれて
ただ進んでいた
アリたちがアリを運んでいる
モンシロチョウが花の蜜をすっている
私はすることがない
前から蛙がやってきた
「お嬢さん
どこへ向かってるんだい?」
この道をただ進んでいる
「それなら一緒に行かないか
この道を右へそれた
先にある──」
わけもわからずあとをついた
草はらの中を行く
前へ 前へ
あっと 視界が開けると
すぐそこはもう崖だった
眼前いっぱいに広がるすべて
私は息を吸いこむ
「蛙さん…」
彼に目をやろうとした瞬間
ドボンと大きな音が下から立った
からだが風にゆられる
下をのぞきこむと
小石が転がり落ちた
水面がまぶしい
どこからか
花の香りがやわらかい
いつのまにか
空からは赤く照らされている
足もとでは
アリたちがなにか運んでいる
もうなにも
言いわけはしない
私は海に背をむけた
***
2022年2月に谷川俊太郎さんの「ぼく」を読んで、書いた詩です。
いつか挿絵もつけたいなぁ
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