残暑お見舞い(ダスト・エッセイ)

三連休最終日の20時半頃、疲れた体を今日も京浜東北線が運んでくれる。10両編成の前から5両目で、小さく揺れるように座っている。終点かつ最寄駅の大船駅が迫ってきて、あー帰ってきたなと思う。


いつも通り車掌さんが終点直前の定型文を読み上げる。お忘れ物ないようお気をつけくださいと注意した後に、車掌さんが続けた。


「9月も早いもので3週間を過ぎましたが、まだまだ30度を超える暑い日が続いています。水分補給、休憩をしっかりとって、みなさまもどうぞお身体を大事にしてください。また、この後各方面に向かわれる際も、どうぞお気をつけてお向かいください」


少なくとも在来線では聴いたことのないアナウンスだった。気になった僕は、到着後、降車して階段に向かう利用者たちの流れに逆らって歩き、車掌さんがいるはずの最後尾の車両に向かって歩いた。


7両目に差し掛かるあたりで、車掌さんが10両目から降車し、こちらに歩いてくる様子が見えた。8両目に差し掛かるあたり、接近する車掌さんにアイコンタクトを送り、目があった瞬間に、あの、と声をかけた。


最後のアナウンスは決まっているものなのか。僕は尋ねた。車掌さんの年齢は僕と近そうで、離れていても30代前半だと思う。身長は180cmを確実に超えていて、野球部出身の爽やか好青年という印象があった。僕に声をかけられた車掌さんは、一瞬立ち止まったが、車掌さんと同じ方向に歩こうとする僕を見てすかさず並行した。


あれは違うんです、と彼は言う。飛行機が好きで、もっと言えば粋な機内アナウンスに好感を抱いており、自分なりに台本を書いて読み上げたらしい。普段は終点駅を担当しないので、チャンスだと思ったと言う。


僕が、とても良かったと伝えると、彼はやった甲斐があるとばかりに、満面の笑みで、良かったです、と応えた。


9月下旬、いつも文章を読んでくださる皆さんにも、残暑お見舞い、申し上げます。

2023年9月21日投稿

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